解説者のプロフィール

寺内公一
東京医科歯科大学大学院・医歯学総合研究科・女性健康医学講座教授
閉経前後の女性たちに飲んでもらい検証した
「トマトは体にいい」そういうイメージを持っている人は多いでしょう。
しかし、どんな健康効果があるのかといえば、意外に漠然としているのではないでしょうか。
そこで、トマトの健康効果を検証した一つの研究をご紹介しましょう。
この研究を行ったのは、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科女性健康医学講座教授の寺内公一教授です。
寺内教授のグループは、2013年9月から2014年3月にかけて、トマトの成分が閉経前後の女性の健康に与える影響について検証しました。
女性の健康は、女性ホルモン(エストロゲン)によって保たれている部分が少なくありません。
たとえば、閉経までの女性は、女性ホルモンの働きで血中脂質(コレステロールや中性脂肪など)の上昇が抑えられ、男性よりも動脈硬化のリスクが少ない状態にあります。
その分、女性ホルモンの分泌がほとんどなくなる閉経後は、血中脂質が上昇しやすくなるのです。
また、閉経期前後の女性は、ホルモンバランスの乱れから、一般に「更年期障害」と呼ばれている不快症状(イライラ、のぼせ、不眠など)や不安症状を起こしやすいことも問題です。
「身近な食品でそういった点をカバーできないだろうかという視点から、トマトに着目して行ったのが、今回の研究です」と寺内教授。
そこで、教授たちのグループは、40〜60歳の女性95人を対象に、以下のような試験を行いました。
用いたのは、トマトそのものではなく、手軽にとれる市販のトマトジュースです。
まず被験者には、試験開始の2週間前からトマトやトマト製品の摂取を制限してもらいました。
そのうえで、食塩無添加のトマトジュース200mlを1日2回、朝食前と夕食前に飲んでもらい、摂取開始前、摂取し始めて4週間後、8週間後のさまざまな検査値を比較しました。
「その結果、更年期症状スコア、不安症状スコア、安静時のエネルギー消費量などに変化がみられました。
また、血中の中性脂肪値については、被験者全員の平均は下がりませんでしたが、高中性脂肪血症の診断基準(150mg/㎗以上)を満たす22人の数値の変化を見たところ低下していました」(寺内教授)
それらの具体的な数値の変化は、下記のグラフのとおりです。

トマトスープでとると中性脂肪の減少に有効
更年期スコアと不安症状スコアは、被験者が規定の項目に答えて症状の程度を数値化するものですが、どちらも数値が減っており、更年期の不快症状や不安症状が改善されたことがわかります。
安静時のエネルギー消費量とは、基礎代謝のことで、この数値が上がったということは、太りにくくてやせやすい状態といえます。
閉経期前後には、太りやすくなる女性も多いので、これはうれしい情報です。
血中の中性脂肪値は、高すぎると動脈硬化のリスクが高まることが知られています。
閉経後の女性は、中性脂肪値が高くなることも多いので、そのコントロールのためにもトマトが役立ってくれそうです。
それにしても、トマトのどの成分が、血液中の中性脂肪値を減らしてくれるのでしょうか。
実は、寺内教授たちの研究に先立ち、2012年に京都大学の研究グループが行った動物実験で、トマトジュースに含まれる「13オキソODA」という成分が、血中の中性脂肪を減少させることがわかっています。
「私たちの行った試験で血中の中性脂肪値が下がったのも、この物質によるところが大きいと推測されます」(寺内教授)
13オキソODAは、生のトマトには含まれず、加熱したトマトに含まれるそうです。
一方、生のトマトには「9オキソODA」という成分が豊富です。
「そのことから、加熱によって9オキソODAが13オキソODAに変化するのではないかと考えられています」(寺内教授)
市販のトマトジュースは加熱する工程をへて作られます。
そのため、13オキソODAが豊富に含まれると考えられるのです。
ならば、生のトマトを摂取するときは、加熱してスープにしたほうが、効用を得やすいと言えそうです。
「今回の試験結果がすべての人に該当するか、またどの品種のトマトがより有効か、まだ研究の余地がありますが、トマトスープも加熱をするわけですから、健康維持に役立つかもしれませんね」(寺内教授)
さらに、市販のトマトジュースに近い効用を得るには、「トマトピューレなど、ジュースと同じ加工した素材を入れてトマトスープを作ってみてはいかがでしょうか」と寺内教授はアドバイスしてくださいました。
トマトスープで、13オキソODAをたっぷりとって、ぜひ健康維持に役立てましょう。
【取材】松崎千佐登(医学ジャーナリスト)