身近な食材を使った薬膳スープは漢方の得意分野
中医学では、古来から「薬食同源」の思想があります。
煎じて漢方薬となる生薬(漢方薬の原材料となる動植物、鉱物などの天然物)の中には、鉱物や木の皮、動物の骨など通常は食用にしないものも含まれていますが、ごく普通に食べられている食材も多いのです。
例えば、ショウガ、シソ、ヤマイモなどは、ごく身近な食材だと思いますが、それぞれ生姜、紫蘇葉、山薬と呼ばれる、立派な生薬です。
こうした身近な野菜や食材を煮込んで作った薬膳スープを普段から食卓に取り入れ、健康に役立てるのは、漢方の得意分野とも言えるでしょう。
そこで今回ご紹介したいのが、身近な食材でもある生薬を用いた、目の悩みを改善するスープです。
加齢黄斑変性、白内障、老眼、飛蚊症、ドライアイ、眼精疲労など、さまざまな目の病気や症状の予防、軽減にも役立ちます。
クコの実をメインに、目の乾きや疲れを改善する働きを持つレンコンやシメジを加えて作ります。
そして、特にこれからの寒くなる季節にぴったりのスープなのです。
というのも、秋から冬にかけての空気が乾燥する季節は、体内から潤いが失われやすい時期だからです。
乾燥は「燥邪」と呼ばれ、のどや鼻の粘膜を荒れさせたり、腸から潤いをなくして便秘を引き起こしたりします。
もちろん目も乾きますから、ドライアイになりがちですが、目の乾きの悪影響はそれだけにとどまりません。
目が疲れやすくなったり、ピントが合わせにくくなったり、外出時にちょっとした光がまぶしく感じるなど、目のトラブルが次々と起こってきます。
また、「肝は目に開竅す(詰まりを通す)」と言われるように、中医学では、特に目と肝には深い関係があると考えます。
こうしたことから、体(ひいては目)を潤わせ、肝を強化するスープを日頃から飲んでおくことが、いつでもしっかりハッキリした視界を保つうえで、非常に重要なのです。
肝の働きを助け目に潤いを与えるスープ
それでは、スープの材料についてそれぞれ見ていきましょう。
まずクコ(生薬名は枸杞子)は、ナス科の植物のクコの赤い小さな実を乾燥させたものです。
甘酸っぱくておいしく、彩りも美しいので、杏仁豆腐などの中華デザートにもよく使われています。
見た目はかわいらしいクコの実ですが、滋養強壮に優れることから、古来より不老長寿の妙薬として役立てられてきました。
クコの実は、中医学でいう「血」(血液とそれの持つエネルギー)を増やす補血作用に優れ、「肝」(肝臓を主とした血液を蓄える器官を表す中医学の概念)の働きをよくする作用があります。
肝の働きをよくするクコの実は、目によいとされる生薬の筆頭と言ってもいいでしょう。
そのため、過労や加齢で弱った目の働きを助ける多くの漢方薬に用いられてきたのです。
現代の栄養学的に見ても、クコには、目に働きかける有効成分が豊富です。
β‐カロテン、ゼアキサンチンといった、抗酸化作用の強いカロテノイド類が多く含まれます。
カロテノイドが、視力低下、白内障、眼精疲労といった目の症状にいい成分だということはよく知られています。
なかでもゼアキサンチンは、ちょうど天然のサングラスのような働きをして、目の黄斑部(網膜内の、光を感じる視細胞が集まる場所)を守り、加齢黄斑変性を防ぐことで注目され、さかんに研究が進められている成分なのです。
乾燥したクコの実をお湯に漬けて戻すと、お湯が黄色くなるのがわかると思います。
この黄色い色素がカロテノイドですから、クコの戻し汁も捨てずに、スープに全部入れてください。
一方のレンコンやシメジには、水を補う補水作用があります。
そのためレンコンやシメジには、熱を取ることで目を潤わせたり、目の疲れを取り除く働きが期待できます。
スマートホンやパソコンの操作で、目が熱を持ってつらいときには、レンコンやシメジを食べるのがお勧めです。
こうした、レンコンやブナシメジの補水作用が、目にスムーズに血液を届ける役目をし、クコの補血作用を助けます。
相乗効果で目の養生に役立ちます。
「クコとレンコンのスープ」は1日に1回、朝食か夕食のどちらかに、1杯飲むとよいでしょう。
今回ご紹介したレシピは2杯分ですが、冷蔵庫に入れておけば翌日までもちますから、作りおきしておいて大丈夫です。
私も目の健康のために、日頃からこのスープを飲んでいます。
鶏ガラのダシに魚醤の風味が相まって、毎日飲んでも飽きないスープだと思います。
日頃から目の疲れや目の老化現象が気になっている人は、ぜひ、「クコとレンコンのスープ」をお役立てください。
天然の目のサングラス、ゼアキサンチンたっぷり!かすみ目、黄斑変性に効く!クコとレンコンのスープ

❶クコはかぶるくらいのぬるま湯(分量外)に10分以上漬け、戻しておく。
戻し汁にも有用成分が溶け出しているので捨てずに汁ごと使う。

❷レンコンは皮をむき、おろし器ですりおろす。
シメジは石突きを切り落とし、粗みじんに切る。
❸鍋にⒶとレンコンを入れ 、強火にかける。
沸騰したら中火にして10分ほど煮こむ。
*ここでブレンダーやミキサーにかけると、より滑らかな口当たりになる。
❹③にクコを戻し汁ごと加え、シメジも入れて、ひと煮する。
❺塩、コショウで味を調える。

出来上がり!
解説者のプロフィール

井上正文(いのうえ・まさふみ)
木暮医院漢方相談室薬剤師。群馬県前橋市にある木暮医院の漢方相談室で、自分の体は自分で守るというコンセプトのもと、患者一人一人の体質にあった漢方を処方。著書に『心と体にやさしい漢方の知恵』(上毛新聞出版)がある。雑誌や講演などで、漢方への理解を深める活動にも積極的に取り組む。
●木暮医院
群馬県前橋市清野町104-1
TEL 027-251-9101
http://www.kogure-iin.com/
【材料】(2人分)
クコ……30粒
レンコン……1節
シメジ……1/4パック
Ⓐ鶏ガラスープの素……小さじ1/2
水……400ml
酒……大さじ2
魚醤(めんつゆやしょうゆで代用可)……小さじ1
塩、コショウ……少々