歩くと、かかとが痛む。そんな症状に悩まされている人は、いらっしゃいませんか?
それは「足底筋膜炎」かもしれません。
長時間の立ち仕事やスポーツが原因で起こりやすく、近年はランニング・ブームの影響で患者数が増えているといわれます。
足底腱膜炎は多くの場合、保存的治療で治りますが、なかには痛みが慢性化してしまう人もいます。
慢性化した足底腱膜炎では従来、手術しか治療の選択肢がありませんでした。
しかし近年、体を傷つけずに済む「体外衝撃波治療」が保険適用となり、しだいに普及しています。
この治療を多く手がけている、船橋整形外科病院スポーツ医学・関節センターの高橋謙二先生にお話を伺いました。
【取材・文】山本太郎(医療ジャーナリスト)
解説者のプロフィール

高橋謙二
船橋整形外科病院 スポーツ医学・関節センター副部長。
1992 年、徳島大学医学部卒業。千葉大学整形外科入局。安房医師会病院医長等を経て2008 年より現職。ミュンヘン大学留学。膝、足関節の鏡視下手術、体外衝撃波治療を中心に診療を行う。日本整形外科学会専門医、日本臨床スポーツ医学会代議員、日本運動器Shock Wave 研究会世話人など。NTT コミュニケーションズシャイニングアークスチームドクター。
●船橋整形外科病院
http://www.fff.or.jp/seikei/
かかとや土踏まず 朝起きて一歩目に強い痛み
──足底腱膜炎とは、どのような病気なのでしょうか?
私たちの足は、たくさんの骨が組み合わさって、前後方向と横方向にアーチ状の構造を作り、歩行や起立時の衝撃を吸収しています。
このアーチを下から支えるのが足底腱膜(足底筋膜ともいう)という膜状の腱組織で、かかとの骨から足の指の付け根まで広がっています。
この足底腱膜に炎症が起こり、かかとや土踏まずの部分などに痛みを生じるのが、足底腱膜炎です(下記図参照)。
特徴的な症状は、朝起きて、歩こうとしたときの一歩目に強い痛みを感じるというものです。

歩くうちに痛みは徐々に軽くなりますが、しばらく座っていて、また歩き始めると再び痛むこともあります。
炎症の起こっている部分を押すと痛みを感じるのも特徴です。
足底腱膜炎は、長時間の歩行や立ち仕事、ランニング、ジャンプの多い運動などで足に負担をかけている人に起こりやすいものです。
看護師や調理師など、立っている時間が長い職業の人には多く見られる傾向があります。
また、高齢になると土踏まずのアーチがくずれ、いわゆる扁平足になってきます。
すると足の後方に重心がかかりやすくなり、その部分の負担が増し、炎症が起こりやすくなります。
典型的な例では、レントゲンでかかとの骨にトゲ(骨棘)ができてしまっているのが観察されます。
ほかに、体重の増加や姿勢のくずれ、足に合わない靴をはいていることなども、足底腱膜炎の原因になります。
足底腱膜炎はごくありふれた病気で、アメリカのデータでは人口の約10%に起こるといわれています。
自然に治ってしまうことも多いですが、足底腱膜炎と診断された人の1割程度に症状が慢性化し、常に痛みを生じるようになるケースがあります。
ひどくなると、松葉杖を使わずには歩けないこともあります。
なお、足の裏の痛みでも、朝より夕方に痛みが強くなったり、歩いているうちに痛みが強くなったりする人、足の指先が痛む人は、ほかの病気の可能性があります。
足底腱膜炎は症状などから比較的容易に診断できますので、足の裏の痛みが数日たっても治まらない場合は、整形外科を受診することをお勧めします。
第一選択肢はインソール、ステロイド剤の局所注射、難治性には保険適用の体外衝撃波治療
──足底腱膜炎の治療は、どのように行われるのですか?
治療の基本は、足にかかる負担を減らし、安静にすることです。
足のストレッチや姿勢を改善するためのリハビリテーション、足底腱膜をサポートするインソール(靴の中敷き)の装用などが第一選択肢です。
また、痛みへの対処として鎮痛消炎効果のある湿布や、塗り薬などの外用薬がよく用いられます。
それでしばらく様子を見て、症状が改善しなければ、ステロイド剤の局所注射をするというのが、一般的な治療の流れです。
ステロイド注射は炎症を抑えて、痛みを和らげるのに有効ですが、何度もくり返し行うと、しだいに効果が現れなくなってきます。
また、過剰に行うとステロイド剤の副作用で組織が弱くなり、腱が切れてしまうおそれがあります。
ですから、私たちのようなスポーツ医学の医師は、ステロイド剤はなるべく使わずに治療するというのが基本です。
ほかには、関節炎などによく用いられる、ヒアルロン酸の注射も行われることがあります。
ただし、ヒアルロン酸は効く人には効きますが、効かない人もいて、一定して効果が期待できるとはいえません。
こうした治療を行っても、痛みが治まらずに慢性化してしまった場合、従来は足底腱膜の一部を切除する手術しか治療の選択肢がありませんでした。
しかし、手術は体を傷つけますから、傷あとが残ったり、術後に患部が腫れて、治るまでに3ヶ月くらいかかったりするといった課題がありました。
そうした中、新たな治療の選択肢として近年登場したのが「体外衝撃波治療」です。
2012年に保険適用となりました。
リハビリテーションなどの保存的な治療を6ヶ月以上継続しても効果が見られない、難治性の足底腱膜炎に対して行われています。
体外衝撃波治療を終えると、マッサージした後のように痛みが和らぐ
――どのような治療なのですか?
体外衝撃波治療はもともと、尿路結石に対して用いられていたものです。
尿路結石は腎臓にできた石(カルシウムなどのかたまり)が尿管や膀胱に詰まって痛みを起こす病気ですが、体外から衝撃波を当てることで、この石を破砕するというものです。
尿路結石の治療に用いられる機器と比べると、足底腱膜炎に用いられる体外衝撃波の機器は、パワーがかなり低く抑えられています。
それでも患部に衝撃波を当てると、患者さんは最初、痛みを感じることが多いものです。
しかし、しだいに慣れてきますので、患者さんの反応を見ながら、徐々に出力を上げて治療を行っていきます。
体外衝撃波治療が、足底腱膜炎に効くしくみは、実ははっきりとはわかっていません。
衝撃波が痛みを伝える末梢の神経を壊したり、細胞を活性化させて傷んだ足底腱膜の修復を促したりして、痛みを和らげると考えられています。
実際に、MRIの画像から組織の修復が観察できるケースもあります。
治療機器は現在、超音波エコーを当てて焦点を確認しながら患部に衝撃波を照射するタイプのもの(下の右側の写真)と、エコーがない小型タイプでパワーが少し低いもの(下の左側の写真)の2種類があります。

パワーが強いほうが有効といわれていますが、私の印象では、効果にそれほど大きな差はないようです。
高齢で骨の強度に不安がある患者さんなどは、安全性を考慮し、あえて低パワーの機器を用いたりもしています。
治療を終えると、マッサージした後のように痛みが和らいでいることが多く、患者さんは喜ばれます。
ただ、1回で治ることはまれで、しばらくすると、また痛みが出てくるので、間隔を空けて何度か治療を行います。
当院では、2週間から1ヶ月の間隔で3回の治療を1クールとしています。
なお、治療に要する時間は1回15分程度です。
2回目くらいから、痛みの改善効果を感じる人が多いです。
というのは、症状の改善には、単に痛みを発している神経を壊すだけでなく、組織の修復が促されることが大事で、組織の修復にはある程度の期間が必要なためだと考えられます。
かかる医療費は回数にかかわらず、3ヶ月以内で5万円となっています。
例えば、患者さんの自己負担額が3割なら1万5千円です。
アキレス腱炎、ジャンパーひざ、テニス肘にも有効
──治療の効果は、どうでしょうか?
私たちは、2008年からこの治療を取り入れています。
治療前の痛みのレベルを10とすると、痛みレベルが0~5まで下がる、つまり「痛みが半分以下になる」のを治療成功例とした場合、1クール(3ヵ月)の治療で約6割、1年で約8割の人に有効という結果が得られています。
多くは再発もありません。
ここで具体的な症例を紹介しましょう。
70代の女性Aさんは華道のお師匠さんですが、足底腱膜炎が悪化して歩くのが苦痛で出げいこができなくなり、引退を考えていたそうです。
すでに6ヵ月以上の保存的な治療を行って、効果がなかったと当院を紹介されてきたので、体外衝撃波治療を行いました。
3回の治療を終えたころには痛みが出なくなって、「また元気に出かけられるようになりました」と喜んでいらしゃいました。
また近年、マラソンやランニングがブームとなっていますが、「足が痛くて走れなくなった」と来院される患者さんが増えてきています。
そうした患者さんが治療を受けて「また走れるようになりました!」と報告してくださるケースもよくあります。
体外衝撃波治療は、治療中に痛みを感じることのほかには、副作用はほとんどなく、安全性の高い治療といえるでしょう。
しいていえば、治療後に一時的に痛みが増すことはありますが、その痛みが持続してしまうようなことはありません。

──体外衝撃波治療を受けたい患者さんはどうすればよいでしょうか?
治療機器が高価なため、まだどこの病院でも受けられる治療というわけではありませんが、徐々に普及してきています。
インターネットなどで検索して、お近くの病院を探してみてはいかがでしょうか。
なお、保険適用にはなっていませんが、アキレス腱炎やジャンパーひざ、テニスひじなどに、体外衝撃波治療が有効であることがわかってきています。
これらもスポーツ選手によく見られる病気で、保存的治療が有効でなければ、現在は手術の選択をせまられます。
スポーツ医学の立場からすれば、今後は、こうした病気にも体外衝撃波治療の保険適応が広がっていくことが期待されます。
硬い靴、合っていない靴はNG。症状の改善には、かかとの上げ下げが効果的
──足底腱膜炎を悪化させないためには、どんなことに気をつけたらよいでしょうか?
まず、靴選びは重要です。
硬い靴や足に合わない靴を無理してはいていると、足底腱膜炎になりやすいので注意しましょう。
また、家庭で簡単に行える予防・改善の方法としてはストレッチが有効です。
足の前半分を段差に乗せ、かかとをゆっくりと下げていき、次に上げていくことを1日に10回ほどくり返すといいでしょう。
転ばないように、必ず手すりや壁などで体を支えて行ってください。
特に、体力に自信のない人や高齢の人は無理をせず、段差の低い場所で行うようにしてください。
ほかに、イスに座って床に広げたタオルを足指でつかんだり、たぐり寄せたりする運動も効果的です。