【お悩み】おならをしたときに便が漏れる
ときどきですが、うっかりオナラをしたときなど、下着に便がついていることがあります。
これが「便失禁」というものでしょうか。
外出や旅行などがおっくうになってきました。
聞いたところによると、手術しかないとのことですが、どうすればよいでしょうか。
(60代女性)
解説者のプロフィール

佐々木みのり
大阪肛門科診療所副院長。
大阪医科大学卒業。日本でも十数名しかいない女性の肛門科専門医・指導医であり、国内唯一・元皮膚科医という経歴を持つ。そのため、肛門周辺の皮膚疾患の中でも、特に「肛門そう痒症」については独自の治療を行い良好な成績を得ている。学会での講演実績も多数。
●大阪肛門科診療所
大阪府大阪市中央区釣鐘町2-1-15
TEL 06-6941-0919
https://osakakoumon.com/
お尻を洗浄しすぎるとバリア機能が傷つく
「ニセ便失禁」対策 【前編】に引き続き、「便失禁」のお悩みについて、お答えします。
前編は、便失禁で悩んで当院に来られている人の実に9割が、肛門機能に異常がない「ニセ便失禁」であること、その原因の多くは、肛門付近に便が残っている「出残り便秘®」であることをお伝えしました。
このような人たちは、下着に便が付着したり、肛門周りがベタついたりするのが気になるため、「必ず温水洗浄便座を使う」「お尻を何度もふく」という傾向が強いようです。
なかには、ウェットティッシュや肛門専用のスプレー剤を使っている人、痔を併発しているために消毒薬を使っている人もいるようです。
しかし、これらの行為は、今すぐやめてほしい行動です。
今回は、こうした誤ったお尻のお手入れ方法について、警鐘を鳴らしたいと思います。
まず、温水洗浄便座。
肛門周りの不快症状でお困りの方は、今すぐやめてみてください。
皮膚は皮脂膜で覆われていて、これがバイ菌などの侵入を防ぐバリア機能を果たしています。
皮脂膜は非常に薄い層なので、温水洗浄便座の水が強く当たると、はがれてしまいます。
すると、皮膚は皮脂膜の代わりに分泌液を出して体を守ろうとします。
これによって、よけいに肛門周りがベタつくといったことが起こってくるのです。
温水洗浄便座の水が肛門の中まで入り、出残り便と混ざることでも、便が液状になってさらに漏れやすくなります。
また、皮脂膜がはがれて炎症を起こした皮膚は、硬くなって縮んでいきます。
そうなると、肛門に狭窄が生じて、ますます出残り便秘が悪化します。
さらに恐ろしいことに、肛門の締まりがゆるくなっているところへ温水洗浄便座の水を噴射すると、直腸を傷つけてしまうことがあります。
実際に、直腸から大出血して当院に駆け込んできた人もいました。
温水洗浄便座をまず、やめてみる
そしてもう一つ、温水洗浄便座は感染症の原因にもなります。
温水洗浄便座のノズルは菌やウイルスがいっぱい。
特に、出残り便秘の人は、肛門付近に便が残っているわけですから、洗浄すると、その便が落下してノズルにつきます。
それがしぶきで飛び散ると、菌やウイルスがバラまかれます。
自分一人のトイレならまだしも、家族全員が使うトイレや公共のトイレには、菌やウイルスがウヨウヨいるということです。
しかも、先ほど述べたように、温水洗浄便座を使っている人は皮脂膜がはがれてバリア機能が傷害され、皮膚免疫が低下しているので、菌が侵入しやすい状態になっています。
感染のリスクはより高いといえます。
近年、肛門の性病が多発していること、なかには子どもの感染者もいることを考えると、温水洗浄便座が感染源になっている可能性は高いでしょう。
大腸菌由来の膀胱炎や膣炎も増えているそうです。
泌尿器科の医師による「再発性膀胱炎は温水洗浄便座が原因」とする論文も発表されています。
もはや「洗うな、危険!」と声を大にして言いたいくらい、温水洗浄便座は多くの危険をはらんでいるのです。
温水洗浄便座を使っていなくても、お尻を何回もふいたり、石けんでゴシゴシ洗っている人は、やはり皮脂膜がはがれて、皮膚がボロボロになっています。
ウェットティッシュやお尻ふき、肛門専用スプレーを使っている人も同様です。
消毒薬にいたっては、正常な常在菌まですべて殺してしまいます。
お尻のお手入れは、過剰な洗浄は禁物。
排便後はポンポンと優しく押さえぶきをして、ふく回数は3回まで。
入浴時も石けんで洗ったり、シャワーを直接当てたりせず、体から流れていくお湯だけでじゅうぶんです。
では、最後に、本当に肛門の締まりがゆるい人のために、肛門括約筋を鍛えるセルフケア法をご紹介します。
肛門括約筋を鍛えることは、ニセ便失禁の改善にも、とても効果的です。
やり方は、お尻の穴をギューッと締めるだけ。
お尻のほっぺに手を当てて、そこが硬くなるように力を入れればOKです。
呼吸は止めずに、10秒間を目安に息を吐きながらお尻の穴を締めます。
息を吐き切ったら、おなかをゆるめると自然に息が入ってきます。
これを10回くり返してください。
朝・昼・晩の1日3回行うとよいでしょう。
電車の中や信号待ちのとき、家事をしながらなど、時間を見つけてやってみてください。
お尻に優しい手入れの仕方
