解説者のプロフィール
「不快おしっこ」は尿トラブルを招く
「トイレに入ってから、外出しよう」「コンサートが始まる前にトイレに行っておかなければ」。皆さんは、こんな理由でトイレに行っていませんか?
そのとき、実際には尿意を感じてなくても、「念のため」と思って、無理におしっこを出していませんか?
実は、こんな習慣が頻尿や尿もれ、骨盤臓器脱、膀胱炎、前立腺肥大症などの原因になったり、悪化を招いたりしているのです。
私は、北海道旭川市で泌尿器科のクリニックを開いています。排尿のトラブルを抱える患者さんを診察する中で、気づいたことがあります。それは、多くの人が無意識に「いきんでおしっこを出している」ということです。
自然な排尿は、いきむ必要がありません。トイレに行き、リラックスして脱力すると、自然に膀胱が収縮し、膀胱の出口にある尿道括約筋の緊張が一気にゆるみ、尿が勢いよく出るのです。それは、「快感おしっこ」そのものです。
それに対し、尿意がないのにしておかないと不安だから、といった理由でいきんでする、いわば「不快おしっこ」では、快感がないどころか、あらゆる排尿トラブルを招くのです。不快おしっこを続けるとどうなるか、具体的に見ていきましょう。
頻繁にトイレに行くと、さらに頻尿になる
まず、排尿時にいきむと膀胱に無理な力が加わり、部分的に伸びて変形してしまいます。また、本来は柔軟性がある膀胱の筋肉の壁が厚くなり、伸展性が悪くなり、硬くなって、よく膨らまなくなってしまいます。
すると、膀胱に尿を十分にためられなくなるので、頻尿となり、トイレでいきむ回数が増え、さらに膀胱に負担がかかります。それにより、ますます頻尿の症状が進むという、悪循環を起こします。
また、膀胱がきちんと伸縮しないと、血行障害を起こし、膀胱の抵抗力が低下してしまいます。その結果、細菌に感染し、膀胱炎などのトラブルを起こす可能性が高まるのです。
負担がかかっているのは、膀胱だけではありません。排尿時にいきむと、尿道括約筋を含めた、骨盤底筋群にも無駄な力が加わり、尿もれや、骨盤臓器脱の原因を作ることになります。
また通常、排尿時は心身をリラックスさせる副交感神経が優位になり、尿道が開きます。ところが、本来の排尿のタイミングでないときに、いきんで尿を出そうとすると、全身の活動力を高める交感神経が優位になったままです。
すると、尿道は開かないのに、そこを無理に押し広げて尿を出すことになります。当然、膀胱の筋肉に負荷がかかり、先に挙げたようなトラブルを悪化させてしまいます。
不快おしっこが、さまざまなトラブルに関係することが、おわかりでしょう。では、それに対し、快感おしっことは、どのようなものでしょうか。

「快感おしっこ」で手術を回避!
快感おしっこは、どこにも力を入れなくとも、自然に勢いよく出て、量は300mL程度、出しきるまでの時間は30秒弱です。男性なら、隣に並んだ人とおしゃべりができます。
実際に、排尿トラブルのある患者さんに、不快おしっこから快感おしっこをするようにしてもらったところ、さまざまな効果が見られました。
60代の男性患者さんは、前立腺肥大があり、尿の出が悪いので手術を希望していました。しかし検査をすると、肥大前立腺による圧迫は強くなく、尿がまったく出なくなるような状態ではなかったので、手術の代わりに、快感おしっこの仕方をお伝えしました。
すると、1ヵ月ほどで気持ちの悪い残尿感がなくなったそうです。前立腺肥大そのものが治ったわけではありませんが、不快な症状が治まり、手術を回避でき喜んでいました。
また、他院で手術の予定だった、尿もれに悩む女性患者さんにも、手術の順番を待つ間に快感おしっこをしてもらいました。すると、骨盤底筋群への負担が減り、臓器が下がらなくなったおかげもあり、尿もれをしなくなり、結果として手術もせずにすみました。
膀胱炎を月に何回もくり返していた女性も、快感おしっこにより症状が出なくなりました。この2年、膀胱炎にはなっていないそうです。
渋谷秋彦
1961年、北海道生まれ。1988年、札幌医科大学卒業。同大学付属病院、登別厚生年金病院などを経て2003年より現職。「排尿のかかりつけ医」をモットーに地域に根差した診療を行う。著書に『気持ちいいオシッコのすすめ』(現代書林)。