解説者のプロフィール

石井泰憲
長崎大学医学部卒業。東京大学医学部非常勤講師、埼玉社会保険病院泌尿器科部長を経て、2005年より現職。医師だけでなく、医療・介護の関係者で身近な問題を検討できる埼玉老年・泌尿器科研究会を設立、代表世話人。雑誌や新聞での泌尿器トラブルの解説多数。
●石井クリニック
http://www.ishii-clinic.jp/index.html
細菌感染のない膀胱炎で近年増えている
膀胱炎は女性に多い病気です。通常の膀胱炎は、細菌による感染が原因で、たいていは抗生物質で治ります。
しかし、細菌感染が原因でない、特殊な膀胱炎があります。「間質性膀胱炎」と呼ばれるもので、近年増えています。患者のほとんどは女性で、代表的な症状は、頻尿、尿意切迫感(急激な尿意を感じてがまんできなくなる)、膀胱の痛みです。
通常の膀胱炎でも頻尿は起こりますが、間質性膀胱炎では、強い尿意切迫感を伴うのが特徴で、頻尿の程度も強くなります。膀胱の痛みも特徴的で、痛みは膀胱に尿がたまると強くなり、排尿すると軽減します。
通常の膀胱炎では、膀胱に尿がたまるだけでは痛まず、排尿の終わりごろから排尿後にかけて、しみるように痛みます。この点が、通常の膀胱炎の症状との大きな違いです。
本来、膀胱壁は、尿がたまるにつれてよく伸び、広がります。普段の厚さは1.5cmほどですが、伸びたときは3mmくらいまで薄くなります。
これにより、個人差はあるものの、成人で250〜600mL、平均で500mL程度の尿がためられます。
しかし、間質性膀胱炎を起こした人の膀胱は、萎縮して、伸びが悪くなっています。そのため、尿がたまって引き伸ばされると痛むのです。
進行すると、膀胱にためられる尿量が50mL程度まで落ちることもあります。腎臓で作られる尿量は、平均して1時間60mL程度ですから、進行すると、1時間分の尿をためることさえ難しくなるわけです。
間質性膀胱炎の原因は、今のところ不明ですが、自己免疫疾患(病原体から体を守る免疫のしくみが、誤って自分の組織を攻撃して起こる病気)の一種ではないかといわれています。
治療としては、膀胱の収縮を抑える抗コリン薬や鎮痛薬の投与、麻酔をして膀胱に生理食塩水を注入し、膀胱壁を拡げる「水圧拡張術」などがあります。水圧拡張術は、入院設備のある泌尿器科で行います。
必要に応じてこれらを受けるとともに、重要なのが食事です。
間質性膀胱炎の症状を悪化させるNG食品を避け、悪化させるおそれが少ない食品を取るようにすると、症状の改善につながります。

柑橘類やコーヒー、 大豆、タマネギはNG
NG食品と、食べてもOKな食品の例は、表のとおりです。全般的に、酸味や刺激の強いもの、熟成の進んだものは、NG食品の傾向があります。
このほか、人工保存料、人工甘味料、うま味調味料、香料なども、できるだけ避けましょう。サプリメントやビタミン剤も、刺激になる場合があるので、注意が必要です。
ただし、どんな食品でどう悪化するかは、個人差があります。そこで、食べた食品と症状の現れ方を記す「食事日記」をつけると、自分のNG食品がわかってきます。それと合わせて、睡眠・便通・体調・天気・月経周期なども記録すると、参考になる場合があります。
なお、なかには間質性膀胱炎を、通常の膀胱炎と診断され、抗生物質を処方されて、なかなか改善できないケースもあります。
ここに挙げた症状に思い当たる場合は、泌尿器の専門医を受診してみましょう。