解説者のプロフィール

山田豊文(やまだ・とよふみ)
●杏林予防医学研究所
TEL 075-252-0008
http://kyorin-yobou.net/
杏林予防医学研究所所長。
あらゆる方面から細胞の環境を整えれば、誰でも健康に生きていけるという「細胞環境デザイン学」を提唱し、本来あるべき予防医学と治療医学の啓蒙や指導を行う。
2013年6月に「杏林アカデミー」を開校。
細胞環境デザイン学を日本に広めていくための人材育成に力を注いでいる。2015年9月には、東京・赤坂に「アカサカフロイデクリニック」を開院。
クリニックのCEOとして、細胞環境デザイン学に基づく医療を提供している
。主な著書に『細胞から元気になる食事』(新潮社)、『脳がよみがえる断食力』(青春出版社)、『死ぬまで元気に生きるための七つの習慣』(山と渓谷社)など。
断食で内臓を休ませ細胞の老化を防ぐ
断食は私たちの体と心を健康にし、さらなる可能性も引き出してくれます。
断食でこのような効果が得られる理由は、ズバリ「現代人は食べすぎているから」です。
物を食べると消化しなければならないため、内臓に負担がかかります。
また、食べ物を摂取することで、農薬や添加物などの有害物質が体に入ることも避けられません。
食べるという行為は、栄養を摂取すると同時に、実は体にダメージを与える行為でもあるのです。
食べすぎると、消化にエネルギーが費やされて、栄養素を有効利用したり、有害物質を解毒・排出したりする代謝のエネルギーが不足します。
石炭ストーブに例えると、灰や燃えカスがたまり、いくら燃料を入れてもうまく燃えなくなっている状態です。
こうなると「食べすぎなのに栄養不足」状況になります。
断食は、いったん燃料を入れるのを止めることで内臓を休ませ、たまったゴミを掃除し、栄養の吸収を高めるのに役立ちます。
では、断食をすると、体には具体的に何が起こるのでしょうか。
1つは、細胞が若返ります。
私たちの体は60兆個の細胞でできています。
細胞が正しく機能している状態=健康です。
細胞が老化することで、体にさまざまな問題が発生します。
細胞を若返らせるのに重要なのは、「元気なミトコンドリアを増やすこと」です。
ミトコンドリアは、体のエネルギー生産工場ともいうべき器官で、1つの細胞内に500~1000個も存在しています。
この数が減ったり、働きが低下したりすると、エネルギーが作られないだけでなく、活性酸素(※代謝の過程で体内で発生する物質で、老化の原因になると言われている)が大量に発生し、細胞の老化が進みます。
ミトコンドリアの特徴は、「負荷をかけると元気になり、数も増えること」です。
そこで有効なのが、断食です。
断食で飢餓状態にして負荷を与えることで、元気なミトコンドリアが増加します。
これが細胞を若返らせることに通じるのです。
体に負荷をかけると、細胞内では身を守るためのタンパク質(ヒートショックプロテイン)がつくられることもわかっています。
また、昨年東京工業大学の大隅良典特任教授がノーベル賞を受賞して話題となった「オートファジー」も、絶食時に活発になります。
オートファジーとは、細胞が体内のゴミや異常なタンパク質を食べたり、必要なものの材料に作り替えたりする機能のことです。
私たちが物を食べているときは、細胞がゴミを食べる機能は働きません。
私たちが食べていないときに、細胞は不要なものを食べて体を掃除してくれるのです。
断食によって体内の大掃除が始まると、腸の細胞が若返り、オートファジーも活性化されるので、腸内環境も整います。
また、腸内には500~1000種類、数にして100兆個もの腸内細菌が存在します。
これらの細菌はお花畑のように群生し、「腸内のフローラ」を形成しています。
腸内細菌は食物繊維を食べて短鎖脂肪酸という物質を作り、体の炎症を抑えるなど重要な働きを行っています。
ところが、腸内細菌のバランスが崩れると腸内環境が悪化し、炎症を抑える物質が作られなくなって、腸漏れ(※腸内の炎症が原因で腸管壁に損傷ができ、全身に不調を及ぼす状態。リーキーガット症候群という)やガンなどが発生しやすくなります。
腸内細菌のバランスを改善し、人の体に有用な働きをしてもらうためにも、食べることをいったんストップすることが有効です。
そうすることで腸内の炎症も抑えられ、腸漏れなども改善していきます。

脳のα波も増加し潜在能力が引き出せる
もう1つ、断食の見逃せない効果は、「脳が活性化すること」です。
断食をするとブドウ糖が入ってこなくなるため、体内に蓄えられた脂肪を分解してケトン体を作り、それをエネルギーとして利用するようになります。
ケトン体が増えると、脳でα波という脳波の発生量が増加することがわかっています。
α波は適度にリラックスし、適度に集中している状態のときに現れる脳波です。
この状態のとき、人は潜在能力を存分に発揮すると言われています。
断食を行うことで宗教家が悟りを開いたり、スポーツ選手のパフォーマンスが上がったりするのは、このためです。
実際、キリストや釈迦、モーゼ、空海などの歴史上の人物も断食を取り入れてきました。
このように断食をすると、体に本来備わっている生命システムが、正常に作動し始めます。
60兆個の細胞を味方につければ、体もおのずとベストな状態になっていきます。
そうすれば、病気や痛みなどを予防・改善することにつながっていきます。
細胞を味方にするには、細胞が喜ぶ生活をすること。
それはすなわち、断食を定期的に行う生活なのです。
1日1食を抜くだけでも全然違いますが、私が提唱するのは、ミネラルなどの栄養素と水分をしっかりとりながら行う独自の断食法「ミネラルファスティング」です。
次の記事ではミネラルファスティングのやり方について説明しましょう。