解説者のプロフィール
尿量を少なくする効果もあるロキソニン
いわゆる「トイレが近い」状態を、頻尿と言います。
一般的な排尿回数は、1日4〜6回で、夜間は0〜1回です。これを超えたら、ただちに頻尿というわけではありませんが、1日8〜10回、夜間2回以上になると、頻尿と言われるようになります。
頻尿の原因として多いのは、女性では過活動膀胱、男性では前立腺肥大症などです。
過活動膀胱は、膀胱が過敏になって収縮しやすくなるもので、急に強い尿意が起こって頻尿になる(切迫性頻尿)のが特徴です。圧倒的に女性に多く、加齢とともに増加します。
前立腺肥大症は、膀胱の下の、尿道を囲む位置にある前立腺(男性生殖器の一つ)が、熟年以降に肥大して尿道を圧迫するもの。膀胱に尿が残りやすくなり、その刺激で頻尿になります。
こうした頻尿の治療薬として主に使われてきたのは、膀胱の収縮を抑える抗コリン薬(イミダフェナシンなど)でした。抗コリン薬は、1日を通じて頻尿症状を改善する薬です。
数年前からは、ロキソプロフェンという薬が、夜間頻尿に効果的なことがわかってきました。この薬は「ロキソニン」という商品名で知られていますので、以下、この名称で呼びながら話を進めましょう。
ロキソニンは、一般に消炎鎮痛薬として知られていますが、尿量を少なくする作用も持っています。そのため、頻尿に効果を発揮するのです。
現在の頻尿治療は薬物での治療が中心で、薬で一日中頻尿を抑えたり、夜間頻尿を抑えたりするのが基本となっています。
しかし、頻尿で困っている患者さんの訴えを聞くと、「どうにかしたい」という声が多いのは、日中にさまざまな仕事やイベントがあるときです。
コンサートや映画を見にいく、飛行機に乗る、重要な会議がある、仕事で運転をする、旅行で渋滞に巻き込まれた……などのさいに、頻尿が出ることで困っている人が多いのです。
逆に言うと、その2〜3時間の頻尿さえ抑えられたら、自宅にいるときや、自由にトイレに行けるときは、たとえ頻尿でも、それほど困っていない人が大部分なのです。
頻尿の代表的な薬であるコリン薬は、作用時間が長いだけに、そうしたピンポイント的な効果はあまり望めません。
実際に、抗コリン薬を使っていても、前記のような仕事や用事のときには、頻尿で困っている患者さんが大勢いました。
30分前の服用で平均3時間効果が持続
そこで私が考えたのが、すでに夜間頻尿に有効と確認されているロキソニンを、日中の頻尿に対する「頓服薬」として用いてはどうか、ということでした。
頓服薬とは、防ぎたい症状があるとき、一時的に飲む薬のことです。たとえば、船に乗る前に、船酔いを防ぐ薬を飲むのがこれに当たります。
酔い止めの薬と同じような感覚で、仕事やイベントの前に、ロキソニンを飲んで頻尿が抑えられたら、毎日ずっと薬を飲む必要はなくなります。
また、ロキソニンは、飲んでから30分ほどで効き始め、数時間効果が持続するので、この目的にぴったりです。
そこで、頻尿の患者さん50人(32〜63歳、男性31人、女性19人)に、仕事やイベントで頻尿を抑えたいとき、事前に(効かせたい時間の30分前)ロキソニン1錠(60mg)を飲んでもらい、頻尿への効果を調べました。
その結果、ほぼ全員の排尿間隔が長くなりました。その程度が「満足」と答えた人は50人中38人で、有効率は76%でした。
この研究成果については、第22回日本排尿機能学会・学術総会で発表しました(発表時のデータは、20人中15例に有効で、有効率75%)。
有効例の排尿間隔は、投与前の30〜60分から、投与後は90〜320分となり、大部分で180分以上になって、「安心してイベントや会議に臨めた」という喜びの声が多く聞かれました。
頻尿で悩んでいる人は、頓服薬として、ロキソニンを活用してみてはいかがでしょうか。

ロキソニンは薬剤師が常駐している薬局で購入可能
注意点と購入方法
ただし、ロキソニンを使うさいは、以下に注意してください。
・腎臓や心臓が悪い人、むくみがある人は使わないこと。
・あくまでも一時的な効果を得る頓服薬として使用すること。飲む量は1回1錠で、一度に大量に飲んだり、長期に連用したりしないこと。
・薬に添付されている使用上の注意をよく読み、使用を避けたほうがいい例に当てはまる場合は、使用しないこと。
ロキソニンは市販もされていますが、第一類医薬品(薬剤師のみ販売できる薬品)ですので、調剤薬局や薬剤師が常駐している薬局でないと購入できません。
なお、頻尿に対してロキソニンを処方している泌尿器科は、今のところ、当院などごくわずかです。その場合、頻尿に対する薬としては保険が適応されないので、自費となります(当院でも自費扱いにしています)。
こうした制度上の難点はあるものの、一時的に頻尿を抑えたいときに、ロキソニンは便利で効果的な薬です。腎機能などの点で問題がなければ、上手に活用するとよいでしょう。
石井泰憲
長崎大学医学部卒業。東京大学医学部非常勤講師、埼玉社会保険病院泌尿器科部長を経て、2005年より現職。医師だけでなく、医療・介護の関係者で身近な問題を検討できる埼玉老年・泌尿器科研究会を設立、代表世話人。雑誌や新聞での泌尿器トラブルの解説多数。