解説者のプロフィール

済陽高穂(わたよう・たかほ)
西台クリニック理事長、外科医。1970年、千葉大学医学部卒業。73年、アメリカ・テキサス大学外科教室に1年間留学。91年、東京女子医科大学助教授。94年、都立荏原病院外科部長。2003年、都立大塚病院副院長。08年、三愛病院医学研究所長、トワーム小江戸病院院長。同年11月、西台クリニック院長。17年、西台クリニック理事長に就任。消化器手術4000例を執刀するも、手術に成功し、抗がん剤、放射線治療を経ても約半数が再発し亡くなる現実に気づき、食事療法にがん撲滅の活路を求め、「済陽式食事療法」を確立。その治癒率は60%を超える。『今あるガンが消えていく食事』(マキノ出版)など、著書多数。
●西台クリニック
東京都板橋区高島平1丁目83-8
http://www.ncdic.jp/
健康維持の要となる「消化」を促進する大根
大根は、日本人には極めてなじみの深い野菜です。
刺し身のつまやおでんに欠かせませんし、焼き魚や天ぷらにも、大根おろしが添えられています。
大根の効能は、神代から知られていたようで、出雲神話にはこんな話があります。
因幡の白ウサギを助けたことで知られる大国主命は、人望が厚く、それを妬んだ周りの神々が、もちのごちそう攻めにして命を奪おうとしました。
それに気づいた大国主命は、事前に大根を食べて、事なきを得ました。
しかし、一緒にもちを食べた他の神々は、七転八倒の苦しみで成敗されたということです。
すでにこの時代、大根に消化を助ける働きのあることがわかっていたのです。
昔の人は、生の大根をかじりながらご飯を食べていました。
大根でご飯の消化をよくするためです。
また、当たらない役者を「大根役者」というのも、「何を食べても当たらない」という、胃腸障害を予防する大根の食効にちなんだものです。
消化機能は、健康を維持するうえで非常に大事です。
食べたものがきちんと消化・吸収されて初めて、体内でさまざまな代謝が行われます。
もし、食べたものが十分に消化されずに体内に入ったら、代謝障害が起こって、万病のもとになるでしょう。
どんなに体によいものでも、最小の分子に分解されなければ、体が利用できないのです。
その消化吸収を助けるのが、大根です。
大根には、ジアスターゼという消化酵素が含まれています。
この主成分は、でんぷんを分解するアミラーゼです。
それ以外にも、脂肪を分解するリパーゼ、たんぱく質を分解するプロテアーゼという消化酵素が含まれています。
天ぷらに大根おろしが欠かせないのは、これらの大根の消化酵素が、でんぷんも脂肪もたんぱく質も分解するからです。
ちなみにジアスターゼは、健胃・消化酵素薬として、多くの医薬品に使われています。
大根のもう一つの注目すべき成分は、イソチオシアネートという大根の辛味成分です。
これは、大根をはじめとするアブラナ科の植物に多い硫黄化合物で、大根おろしのピリッとした辛さのもとです。
イソチオシアネートには、優れた殺菌作用と抗酸化作用があり、体を酸化させる毒性物質である活性酸素を消去して、がんや動脈硬化、血栓の形成などの予防や抑制に役立ちます。
それ以外にも、食物繊維、ビタミンB群、ビタミンC、カリウム、カルシウム、鉄分などが大根には含まれています。

皮ごとすりおろしすぐに食べるとよい
こうした大根の効能を余すところなくとるには、生で食べるのが一番です。
ジアスターゼのような消化酵素は、加熱すると活性が失われるからです。
また、イソチオシアネートは、生の大根を細かく刻んだり、すりおろしたりして、細胞が壊れて空気と触れることにより作られます。
ですから、大根は、生で、大根おろしなど、なるべく細かくして食べるのが、最もお勧めです。
イソチオシアネートを作る酵素は、大根の皮と身の間に多く含まれているので、大根おろしを作るときは、皮付きのまますりおろすといいでしょう。
消化酵素もイソチオシアネートも、時間をおくと変性し、効力を失います。
食べる直前に大根をおろし、なるべく早く食べてください。
1日の食べる量は、100g(大根を輪切りにして2cmほど)くらいを目安にします。
また、大根おろしの汁を捨ててしまう人がいますが、これはもったいない話です。
大根のおろし汁には、酵素やイソチオシアネート、ビタミンCなどの水溶性成分が溶け出しています。
ですから、なるべく汁も一緒に食べるようにしてください。
私も大根おろしは好きで、週に2~3回は食べます。
たいていは夕食時に、肉や魚の付け合わせにしています。
もちろん、患者さんにも、食事指導の一環として勧めています。
自然食の食事指導で100年の歴史を持つ栗山食事研究所では、朝と晩に必ず、小鉢1杯の大根おろしを食べるように指導しています。
これは、もちろん消化不良を防ぐためですが、それだけではありません。
大根おろしがおいしく感じられれば体調に問題なく、おいしくなければどこかに故障があるという、健康のバロメーターにもしているのです。
この栗山食事研究所で食事指導を受けた美容家のメイ牛山さんは、ご主人の膵臓病を食事で克服され、ご自身も96歳で亡くなるまで第一線で活躍されていました。
おそらくメイさんも、忠実に大根おろしを召し上がっていたものと推察されます。
ぜひこれを機に、食卓に大根をとり入れて、健康維持にお役立てください。