うつの身体症状は冷えと同じ
私のクリニックでは、「心を温めること」と「体を温めること」は治療の両輪です。
うつ、不眠、適応障害、過食症、引きこもり、パニック障害、不登校など、さまざまな症状の患者さんの治療に、半身浴を取り入れています。
半身浴で体を温めることが、精神面でも自己肯定感を高めることにつながります。
その結果、カウンセリングや抗うつ剤だけでは完治まで今一歩だった患者さんたちの治療効果が、格段に上がっているのです。
精神的な病を抱えている人で、体が冷えていない人はほとんどいません。
実際、うつ病の身体症状は、冷えによる症状ととてもよく似ています。
不眠、下痢、頭痛、肩こり、集中力低下、便秘、だるさなど、ほぼ同じです。
ストレスを受けると、アドレナリンや副腎皮質ホルモンが分泌され、自律神経(※1)の一つである交感神経が活性化され、血管が収縮します。
血流が悪くなり体温が下がると、免疫力も低下し、代謝も悪くなりますから、脂肪が蓄積して血管も細くなります。
血液循環が悪化して、さらに冷えてしまいます。
体温が1℃下がると、免疫力が3割以上下がるといわれています。
これは、生命活動を維持するためのさまざまな化学反応を起こしている酵素が活動するための適温が、37~38℃(深部体温)だからです。
体温が下がれば、その分、酵素の働きが悪くなり、内臓の働きや代謝が鈍くなって、病気の原因となっていきます。
また、うつは精神的なエネルギーの枯渇ですが、冷えは体内のエネルギーを消耗します。
試しに、氷を37℃まで温めるのに使われるエネルギーを想像してみてください。
冷えは、心身のエネルギー切れにつながります。
それを防ぐためにも、半身浴は非常に有効なのです。
半身浴の適温は諸説ありますが、私は37〜39℃のぬるま湯をお勧めしています。
42℃の湯に10分つかると体温は0.9℃上がるが10分後には元に戻るのに対し、38℃の湯に10分つかると体温が0.4℃上がり20分後まで持続したという調査があります。(※2)
42℃以上の熱めの湯に入ると、交感神経が刺激され、心身の緊張が増すとともに、末梢の血管が収縮してかえって血行が悪くなってしまうからです。
※1血管や内臓の働きを無意識のうちに調整している神経
※2渡邊賀子漢方と最新治療8(4)、1999
うつ・不眠を改善する「オボ式」半身浴のやり方

ぬるま湯入浴で免疫力もアップ!
反対に、40℃以下のお湯では、交感神経と拮抗するように働く副交感神経が優位になります。
すると、心身の緊張がほどけ、リラックスして末梢血管が拡張し、血行がよくなります。
また、ぬるいお湯に長時間つかると、皮膚や脂肪層より深いところから温まることができるため、毛穴にある皮脂腺やアポクリン腺から、老廃物や有害物質を含む汗や皮脂を出すことができるのもメリットです。
これは体温調節のための通常の汗とは違う分泌物で、色やにおいがあり、お湯が汚れるほどの量が排出されることがあります。
「湯にドロドロの油が浮いた!」と驚いて駆け込んで来た人もいましたが、心配いりません。
さて、半身浴で体の芯まで温まり、リラックスしたところで、もう一つ、ぬくもりを与えてほしいところがあります。
それは、心の中にいる「子どもの自分」です。
「子供の自分」にもぬくもりを与える
2~3歳児のころの、ありのままの本音、本能で生きている自分といってもいいでしょう。
それに対し、「大人の自分」は建前、社会的役割、責任を重視する、理性で生きる自分です。
自分の中にいる「大人の自分」と「子どもの自分」の関係性、これを私は「自分関係」と名付けています。
その関係性の悪さが、最大のストレス源であり、さまざまな病気の根本原因であると私は考えています。
今まで冷淡に扱い、寂しい思いをさせてきた「子どもの自分」にまず謝り、存在を認め、大好きだよ、と声を掛けてください。
心の奥底から、ジワァッと温かい気持ちがわいてくるのが感じられると思います。
心が疲れたときは、体も冷えているもの。
半身浴で体内深部から温まり、心身の健康を守りましょう。
解説者のプロフィール

於保哲外(おぼ・てつがい)
オボクリニック院長。
1976年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院分院神経科、社会保険中央総合病院内科を経て、1986年、久徳クリニック東京院長。1995年、オボクリニックを開院。『うつは体を温めて治す』(成美堂出版)、『体も心も"冷え"で壊れる』(リサージュ出版)など著書多数。
●オボクリニック
東京都新宿区高田馬場2-16-6 宇田川ビル5F
TEL 03-3200-1510
http://www.oboclinic.com/