【女性の尿もれ】医師の私が「腹圧性尿失禁」のTOT手術を決断した理由

【女性の尿もれ】医師の私が「腹圧性尿失禁」のTOT手術を決断した理由

私自身も18年間、腹圧性尿失禁の尿もれに悩まされました。しかし、3年前の56歳のとき、尿失禁の手術を受けたことで、尿もれのわずらわしさから解放され、好きなことが自由にできるようになりました。今は、手術を受けて本当によかったと思っています。【解説】大河原節子(みさと健和病院回復期リハビリテーション病棟医長)


38歳のときから尿もれに悩む

「尿がもれる」「トイレが近い」でお困りではありませんか?

 尿失禁は、誰にでも起こる可能性のある病気です。ちっとも恥ずかしいことではありません。ですから、尿トラブルで悩んでいる人は、まずは一度、専門医の診察を受けてください。

 私自身も18年間、尿もれに悩まされました。
 しかし、3年前の56歳のとき、尿失禁の手術を受けたことで、尿もれのわずらわしさから解放され、好きなことが自由にできるようになりました。今は、手術を受けて本当によかったと思っています。

「尿もれに悩んでいるけど、どうしたらいいかわからない」「恥ずかしい」「手術に踏み出す勇気もない」……。
 そんな人のために、私自身の体験を交えながら、ささやかなアドバイスをしたいと思います。

 私が尿もれに悩むようになったのは、38歳のとき。初めての出産の後でした。
 高齢出産にもかかわらず、産休に入って気持ちのタガがゆるみ、食欲のおもむくままに食べたのが悪かったのか、あっという間に太ってしまいました。

 なんとか経膣分娩でお産をしたものの、3800gという大きな赤ちゃんだったので、会陰裂傷がひどく、出産後、会陰を縫合する手術を受けました。

 尿もれに気づいたのは、退院してしばらくしたころです。子どもをだっこしたり、小走りしたりすると、尿がもれてしまいます。それから、パッドを当てる生活が始まりました。

 そのころ、尿もれで困っていることを、お産を経験したことのある女性医師や看護師に話すと、一様にびっくりされました。お産をした人がみんな尿もれになるわけではなく、むしろ私の年齢で尿もれになる人は、少ないようです。
 このことがまた、自己管理が悪かったのではないかと、自分を責める原因になりました。

腹圧性尿失禁なら手術でほぼ95%の人が治る

 女性の場合、尿失禁は大きく二つに分類できます。

①おなかに力を入れたときに尿がもれる「腹圧性尿失禁」

②突然膀胱が収縮して尿意を感じ、がまんできずに尿がもれる「切迫性尿失禁」

 どちらか一つだけでなく、この二つが混合しているケースもあります。

 私は腹圧性尿失禁でした。飛び跳ねたり、重いものを持ったりすると尿がもれるので、趣味のテニスやジョギングはできなくなりました。
 しかし、寝ている間は問題なく、昼間も腹圧がかかるようなことをしなければ、特別不便はありません。
 それでも、仕事を持っている私は、いつ尿がもれるかわからないので、パッドは外せませんでした。私が使っていたのは生理用パッドでしたが、暑い時期は蒸れて困りました。

 後で知ったのですが、生理用パッドは血液を吸収するようにできており、失禁用パッドは水分を吸収するようにできているそうです。使用感も、失禁用はサラサラして肌にやさしく、蒸れにくいようです。

 また、尿失禁を改善するという観点から、一般に、骨盤底筋体操が勧められています。私も試しましたが、うまく習得できず、またどれくらいすれば効果があるのかもわからず、このときは、結局続きませんでした。
 こうして18年も尿失禁とつき合って、「もうこのままでいいかな」と思っていたとき、たまたま昔の友人の泌尿器科医と会い、尿失禁の手術のことを知りました。
 腹圧性尿失禁なら、手術で95%の人が完全に治るそうです。それを聞いて心が動きました。

 私は、回復期リハビリ病棟で医師として勤務しており、日々、患者さんの尿の問題に直面しています。
 特に女性の場合は尿路感染を起こしやすく、よく患者さんが高熱を出します。私も、それまでひと冬に1~2回は膀胱炎を起こしていました。これから年を取れば、さらに感染の頻度は増えるでしょう。

 また、膀胱機能の低下も心配でした。尿失禁があると、失禁が心配で、早めにトイレに行きます。すると、膀胱がしっかり尿をためる前に出してしまうので、膀胱が膨らんで収縮するという、膀胱本来の機能が落ちてしまうのです。

 膀胱機能が落ちれば、尿路感染も起こしやすくなりますし、おむつも必要になります。
 こうしたリスクを避けるためにも、できることはやっておいたほうがいいのでは、と考えるようになりました。
 そんな折、1泊の入院で手術をしてくれる医師が見つかり、手術を受けることにしました。

尿失禁の手術にはTVT手術と、それを改良したTOT手術の2種類がある

 尿失禁の手術には、TVT手術と、それを改良したTOT手術の2種類があります。どちらも、尿道の後ろにメッシュテープを通し、テープで尿道を支える手術です。

 腹圧がかかると、尿道が下がって尿がもれやすくなりますが、テープで尿道を支えることによって、それを防ぎます。
 最初に開発されたのはTVT手術でしたが、TVT手術は臓器を傷つけるおそれがあるため、現在はTOT手術が主流になっています。

 この手術は、腹圧性尿失禁だけに有効なので、事前に検査を受けます。私は、純粋な腹圧性尿失禁と診断され、手術の適応とされました。

 手術は、局所麻酔で20分程度で終わります。私は退院した日の翌日から通常どおり出勤しましたが、術後1ヵ月は、無理な運動はできません。
 その後は、走っても何をしても尿がもれることはなく、快適な生活を送れるようになりました。
 なお、手術が適応しない切迫性尿失禁は、薬物療法が治療の中心ですが、セルフケアとして、骨盤底筋体操や膀胱訓練が有効です。

 また、排尿日誌をつけると、自分の膀胱機能が把握できます。
 それぞれについて、簡単に説明しましょう。

【骨盤底筋体操】
 尿道や膣を支えている「骨盤底筋群」を鍛える体操です。
 一人ですると効果が実感しにくく、継続がむずかしいので、できれば、体操を指導できる医療機関を受診し、きちんと指導を受けて始めるといいでしょう。
 骨盤底筋体操は、私自身も、手術後から再び行っています。いくら手術で尿もれが止まったとはいえ、きちんと骨盤底筋を鍛えておかないと、加齢に伴って筋肉が弱り、また尿もれを起こすおそれがあるからです。
 体操する時間を生活の中に組み込むと、継続しやすいようです。私の場合、電車での10分の通勤時間に、立ったまま骨盤底筋体操をする、と決めています。これは、一生続けていくつもりです。

【膀胱訓練】
 頻尿や尿もれのある人は、膀胱に尿をためられなくなっていますから、尿意があったら、5分でも10分でもがまんして、なるべく膀胱に尿をためるようにします。
 初めは100~200mLくらいしかためられなくても、がまんする時間を延ばしていくと、300mLくらいまでためられるようになります。

【排尿日誌】
 500mLの水が入るプラスチックのコップを用意し、50㎖ずつの目盛りをつけます。トイレに行くたびにコップに直接排尿し、量を測って記入します。同時に、水分摂取量や尿もれした時間なども書き込みます。
 2日分くらい記入すると、自分の排尿傾向がわかります。泌尿器科を受診するときに持って行くと、非常に役に立ちます。

 私は、自分のこうした経験から、頻尿や尿もれ、排尿困難などの尿の問題に関心を持つようになりました。現在では、患者さんに向けたセミナーで、尿トラブルやセルフケアについてのお話をさせていただくほか、コンチネンス・ケア(排泄ケア)の普及などにも努めています。

 尿トラブルに限らず、排泄の問題は、誰にでも起こりうることなのに、多くの人は自分のこととして考えていません。
 排泄は、人間の尊厳にかかわる問題であり、介護する側から見ても先の見えない、大変な問題です。
 いかに自分の排泄をコントロールするか、排泄の障害が出たらどうすればいいのかなどについて、すべての人が知識を持ち、考えていく必要があると思います。

大河原節子
1956年生まれ。群馬大学医学部卒。現在、みさと健和病院回復期リハビリテーション病棟医長。NPO法人日本コンチネンス協会会員で、認定排泄ケア専門員、電話相談員の資格を持つ。コンチネンス・ケアの啓蒙と普及に努めている。著書に、自らの体験も交えた尿トラブルについての本『おしっこの本』(三一書房)がある。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

この健康情報のエディター

関連する投稿


【手汗の最新手術】手のひらの多汗症を治す!合併症ほぼゼロの治療法「ETS」とは

【手汗の最新手術】手のひらの多汗症を治す!合併症ほぼゼロの治療法「ETS」とは

手のひらや足の裏、わきの下などに多量の汗をかく「多汗症」。けっしてまれな病気ではありません。治療法はいくつかありますが、手のひらの多汗症には近年、内視鏡を用いた手術が行われるようになっています。従来は、手のひら以外からの多汗(代償性発汗)などの合併症の問題がありました。【解説】山本英博(山本英博クリニック院長)


男のチョイもれを防ぐ!泌尿器科医が座りションを勧める理由

男のチョイもれを防ぐ!泌尿器科医が座りションを勧める理由

男性の中には、奥さんから自宅での「立ちション禁止令」を出されている方が多いのではないでしょうか。洋式トイレで男性が立ちションをすると、尿の跳ね返りで壁などが汚れます。泌尿器科医の私は、世の奥さんたちを支持します。その理由は、トイレの衛生環境のためだけではありません。【解説】髙橋悟(日本大学医学部附属板橋病院副病院長)


夜間頻尿にはむくみ対策が有効!下半身に溜まった水分を流す「足上げ」ポーズ

夜間頻尿にはむくみ対策が有効!下半身に溜まった水分を流す「足上げ」ポーズ

スウェーデンの研究期間が行った調査では、夜間頻尿のある人はそうでない人に比べて、心筋梗塞や脳梗塞(心臓や脳の血管が詰まって起こる病気)にかかりやすく生存率が低いことも確認されています。夜間頻尿の原因は「むくみ」にあるのです。その対策法を紹介します。【解説】菅谷公男(北上中央病院副院長)


頻尿・尿もれを改善する男の骨盤底筋体操「ながら肛門締め」のやり方

頻尿・尿もれを改善する男の骨盤底筋体操「ながら肛門締め」のやり方

50~60代以上の中高年男性に多く見られる前立腺肥大症という病気をご存じでしょうか。前立腺は精液を作る場所で、膀胱の下部、尿道を囲むように存在する臓器です。健康な人の前立腺はクルミ大のサイズですが、40代半ばからこれが硬くなり、それから徐々に大きくなっていくといわれています。【解説】持田蔵(西南泌尿器科クリニック院長)


くしゃみで尿が漏れる 対策はミネラルバランスを整える“50℃”の味噌汁

くしゃみで尿が漏れる 対策はミネラルバランスを整える“50℃”の味噌汁

私が主宰する料理教室では、身近な食材を使って、健康で美しい体を作る知識と調理方法をお伝えしています。その中で重要なカギとなっているのが、「酵素」です。酵素は、体内で起こるさまざまな化学反応を促進する物質です。【解説】人見惠子(ミレット・スタイル代表)


最新の投稿


脳が活性化する親指の体操で明るく前向きになれる!意欲がわいてくる!

脳が活性化する親指の体操で明るく前向きになれる!意欲がわいてくる!

親指刺激を行っているうちに、手の動きと脳の働きが同時によくなり、薬の管理がうまくできるようになったというお年寄りもいます。認知症に関する効果だけでなく、肩こりや冷えが軽減した、姿勢がよくなったという人も多いのです。【解説】長谷川嘉哉(認知症専門医)


巻き爪を予防する「正しい爪の切り方」深爪やバイアスカットが陥入爪も招く

巻き爪を予防する「正しい爪の切り方」深爪やバイアスカットが陥入爪も招く

フットケア外来を開設して驚いたのは、ほとんどの患者さんが正しい爪の切り方を知らないことでした。巻き爪や陥入爪(巻いた爪が皮膚に食い込む状態)といった爪のトラブルを防ぐには、スクエアカットといって、爪を̻四角に切ります。絶対してはいけないのが深爪とバイアスカットです。【解説】高山かおる(済生会川口総合病院皮膚科主任部長)


老廃物をグイグイ流して血流を改善「足の指刺激」のやり方

老廃物をグイグイ流して血流を改善「足の指刺激」のやり方

私は若い頃から拳法で鍛え、道場で拳法家の育成にも努めています。30代前半までは、仕事に、拳法にと精力的な日々を送っていましたが、30代後半になると、とたんに肩こりや座骨神経痛など、さまざまな痛みが生じるようになりました。【解説】原田秀康(国際足健法協会会長)


漢方薬剤師に聞く「干しぶどう」の効果効能「夜は酒・昼は酢」で使い分ける

漢方薬剤師に聞く「干しぶどう」の効果効能「夜は酒・昼は酢」で使い分ける

私は以前から、目の症状を訴えるかたがたに「干しブドウ酒」を勧めてきました。実際に、干しブドウ酒を試したかたがたからは、「目が疲れにくくなった」「目の痛みが取れた」「見えやすくなった」「かすみ目が改善した」など、さまざまな声をいただいています。【解説】井上正文(木暮医院漢方相談室薬剤師)


【息子の婚活】服装を親が選んではダメ!第一印象アップの秘訣を“モテ”のカリスマが指南

【息子の婚活】服装を親が選んではダメ!第一印象アップの秘訣を“モテ”のカリスマが指南

最近の”婚活”の主役は40代ですが、親御さんのセミナー参加が多くなったのも特徴です。特に、「どうすれば息子は結婚できるのでしょうか」という、お母さまからの切実な相談が増えています。【解説】白鳥マキ(Change Me結婚相談所代表・モテるメール評論家)