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食後に痰がでる【嚥下障害】の原因と対策 進行した場合の治療法

食後に痰がでる【嚥下障害】の原因と対策 進行した場合の治療法

食事をすると、よくむせてしまう。固形の物を嚙んで飲み込みにくくなった。食後に痰が出やすくなった……。そんな症状があったら、「嚥下障害」かもしれません。嚥下障害は脳卒中の後遺症として起こることが多いほか、老化に伴って起こってくることもあります。【解説】藤島一郎(浜松市リハビリテーション病院院長)




食事をすると、よくむせてしまう。
固形の物を嚙んで飲み込みにくくなった。
食後に痰が出やすくなった……。

そんな症状があったら、「嚥下障害」かもしれません。
嚥下障害は脳卒中の後遺症として起こることが多いほか、老化に伴って起こってくることもあります。

放置すると、食事ができないことによる栄養低下や、死亡者の多い誤嚥性肺炎という病気につながる危険があります。
嚥下障害のリハビリテーションに国内随一の治療実績がある、浜松市リハビリテーション病院の藤島一郎先生に、嚥下障害を予防・改善するための体操や日常生活における注意点など、お話をうかがいました。

[取材・文]医療ジャーナリスト山本太郎

解説者のプロフィール

藤島一郎(ふじしま・いちろう)
浜松市リハビリテーション病院病院長、医学博士。
専門は脳のリハビリテーション( 以下リハビリ)、嚥下障害。東京大学農学部林学科卒業後、浜松医科大学に入学。
初めは脳神経外科を専攻( 専門医取得、学位は脳腫瘍のレーザー治療) したが、リハビリの大切さを知り、リハビリ科に転向( 専門医、指導医)した。中でも嚥下障害のリハビリを専門として臨床、および研究を行っている。

嚥下障害がおこる原因は主に3つ

─嚥下障害は、どのような原因で起こるのでしょうか?

藤島:私たちは普段なにげなく、物を食べたり飲んだりしていますが、なんらかの原因で、食べた物や飲んだ物をうまく飲み下せなくなることがあります。
これを嚥下障害と呼びます。

嚥下障害が起こる原因は、大きく分けて、三つあります。

①器質的原因
飲み込むときに使う舌やのどの構造そのものが損傷されている場合。
具体的には、舌・咽頭・喉頭・食道などの腫瘍やその術後、あるいは外傷、先天的なものがある。

②機能的原因
舌やのどの形には問題がなくても、それを動かす神経・筋肉などに原因がある場合。
具体的には脳卒中や神経筋疾患(パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症など)、老化に伴う機能低下、薬の副作用など。

③心理的原因
器質的・機能的に問題がなくても、心因性の要因で嚥下障害になる場合。
具体的には、うつ病に伴う食欲不振などが原因。

脳卒中の後遺症の約6割に嚥下障害が起こる

その中で機能的原因として主に挙げられるのが、脳卒中の後遺症です。

脳に障害を受けると、筋肉への指令がスムーズに伝わらなくなり、さらに感覚にも障害をきたすため、嚥下障害が起こりやすくなります。
脳卒中を発症した患者さんのうち、急性期には6~7割以上の高い割合で嚥下障害が認められます。

1ヵ月ほど経過して回復期に入っても、2割程度の人に認められます。
そして、脳卒中になった患者さんの5%くらいで、慢性期に入っても嚥下障害が後遺症として残るといわれています。

嚥下障害が肺炎のリスクを高める

また、老化に伴う嚥下障害は、多くの高齢者がその可能性を持っているといえます。
年を取ると、筋力の低下や歯の数の減少によって、食べ物を咀嚼する力や咽頭へ送り込む力がどうしても弱くなってくるからです。

「75歳を過ぎたら嚥下障害があると疑うべき」という考え方もあります。
嚥下障害になると、飲み込みにくいからと食べやすい物ばかりに食生活が偏ってしまい、その結果として栄養障害に陥りやすくなるので要注意です。

また、口にした水や食べ物は通常、食道を通って胃に行きますが、気管から肺のほうへ行ってしまうことを「誤嚥」といいます。
元気であれば、誤嚥しても、すぐに「ゴホンゴホン」とセキが出て、気管に入った物を出すことができます。
しかし、嚥下障害があると吐き出す力も弱まっているため、飲み込んだ物といっしょに細菌が肺に流れ込み、肺炎を引き起こすことがあるのです。

現在、日本人の死因の第3位は肺炎ですが、その多く、特に75歳以上の肺炎死の80%は誤嚥が原因だといわれています。
嚥下障害は生活の質を下げるばかりか、下手をすれば死にもつながりかねない問題でもあるわけです。

嚥下障害の治療と対策

──嚥下障害には、どのように対処すればいいのでしょうか。

藤島:一口に嚥下障害といっても、障害の程度によって治療や対策が異なってきます。
大きくは、次の3段階に分けて治療を考えるのがわかりやすいでしょう。

食べることはできるが、むせてしまう「軽症」。
食べられる物が限られて、栄養障害が起こり、入院が必要となる程度の「中等症」。
そして、自力で食べることがまったくできなくなってしまう「重症」です。

嚥下障害は、軽症のうちに適切に対策すれば大きな改善が見込めます。
進行してしまうと治療も難しく、大がかりになります。

「予防が最善の治療」であることは、ぜひ強調しておきたいと思います。

予防が最善の治療


もし「最近、どうも飲み込みにくいな……」と感じているようなら、ぜひ以下の対策に取り組んでみてください。

まず、私が患者さんに指導している「藤島式嚥下体操セット」をご紹介しましょう。
「食べる前の準備体操」として、
まずは①の首回し。嚥下にかかわる首の筋肉の緊張をリラックスさせます。

②の呼吸法はのどの動きを意識して、食べるための準備を整える効果も狙っています。
食事の直前に行うことで嚥下がスムーズになります。
準備体操は食前に行うとよいでしょう。

次に本格的な「藤島式嚥下体操セット」の一部をご紹介します。
この体操は食前でなくてもかまいません。
どの時間帯でもよいので、1日1回は行ってください。

代表的な「嚥下おでこ体操」は、のどの筋肉を鍛えます。
額を片手で押して抵抗を加えながら、へそをのぞきこむように下を向きます。

このとき、もう片方の手でのどを触ると筋肉に力が入るのがわかるはずです。
「グーッ」と5秒くらい力を入れ続けるパターンと、「グッ、グッ、グッ、グッ、グッ」と瞬間的に5回力を入れるパターンを交互にくり返します。

「ペットボトルブローイング」は、肺が広がって呼吸機能が改善されるとともに、痰を出しやすくしたり、嚥下機能を高めたりする効果があります。
ほかには「発声訓練」で声帯を鍛えるのも有効です。

物を飲み込むとき、声帯の間にあるすき間が閉じ、物が気道に入らないようにブロックします。
この働きを強化するのです。

日ごろから歌ったり、たくさんおしゃべりしたりするのもいいでしょう。

【やり方】藤島式嚥下体操セット~代表的な体操~

食べる前の準備体操

①首を回す

②息がのどに当たるように強く吸って止め、3つ数えて吐く

嚥下おでこ体操

<意義>
嚥下筋力の強化

おでこに手を当てて抵抗を加えながら、へそをのぞき込む

毎日1セット実施 5~10分

ペットボトルブローイング

<意義>
嚥下改善、呼吸改善、鼻咽喉閉鎖機能・口唇閉鎖機能の改善

ペットボトルに穴を開けてストローをさし、ぶくぶくと吹く。
(ふたの閉め方を調節することで呼気の力の調整が可能)

毎日1セット実施 5~10分

口腔内を清潔に保つことが予防になる

口腔ケアも重要です。
口の中にはたくさんの細菌がいます。

これらの細菌が誤嚥によって肺に入ることで肺炎を引き起こします。
一日三度の食事の後と寝る前には、歯ブラシや歯間ブラシ、デンタルフロスなどを使って、しっかりと口の中のお手入れをしましょう。

また、舌ブラシなどを使い、舌苔(舌につく汚れ)を取り除くことや、定期的に歯科医院で歯石を除去してもらうことも大切です。
神経筋疾患のような病気が原因の場合を除けば、これらの対策は誤嚥の改善にたいへん有効です。

【症例紹介】嚥下障害から隠れ脳梗塞を発見することもある

印象的だった症例をご紹介しましょう。
70代の男性・Aさんはゴホゴホとむせることが増え、近隣の医院を受診すると、カゼと診断されました。

しかし、処方された薬を飲み続けてもいっこうに改善せず、おかしいと思っていたところ、ケアマネジャーさんから「嚥下障害では?」と指摘されて当院を受診しました。

セキだと思っていたのは、嚥下が悪く、物を飲み込んだときにむせていたのです。
Aさんに嚥下体操セットを実践してもらったところ、じきに症状は完全になくなりました。

80代の男性・Bさんは食事量が減り、体重も減少したことから、やはりケアマネジャーさんが嚥下障害を疑い、受診を勧めました。
実は、ご本人も食事がのどを通りにくくなったと自覚していましたが、料理してくれる家族に気づかい、言い出せなかったようです。

そうこうするうちに嚥下障害が進んでしまうケースも実際によくありますから、注意してください。
Bさんにも嚥下体操セットを実践してもらうとともに、ご家族に協力していただき、高たんぱく・高脂質で食べやすい食事に切り替えました。

その結果、嚥下障害が改善するとともに体重も元に戻り、元気になられました。

このお2人は脳卒中の発作こそ起こしていなかったのですが、画像検査をすると、脳の細い血管が詰まる多発性脳梗塞、いわゆる「隠れ脳梗塞」が見つかりました。
嚥下障害の患者さんに、多発性脳梗塞が見つかることはよくあります。

手足のマヒのような大きな症状がなくとも、脳がダメージを受けている可能性があります。
嚥下障害が起こる背後には、単に老化によるものだけではなく、腫瘍や神経筋疾患などの病気がかかわっていることもあります。

ですから、飲み込みにくさが気になったら、決して放置せず、専門の医療機関を受診してください。


嚥下障害が進んだ場合の治療法

──嚥下障害が進んでしまった場合には、どんな治療があるのですか?

藤島:嚥下ができなくなり、口から食べられなくなった場合、栄養を補給するための方法がいくつかあります。
一時的な方法としては、末梢静脈への点滴や、鼻から胃に管を入れて栄養や水分を注入する「経鼻胃管」。

長期的な方法としては、心臓に近い太い血管に点滴用のチューブを留置する「中心静脈栄養」や、おなかに人工的な穴を作って直接的に胃に栄養を送り込む「胃ろう」があります。

胃に穴を開けると聞くと、もう口から食事ができなくなるのではと思われるかもしれません。
しかし、胃ろうを作って栄養状態を改善しながら、リハビリテーションを行うことで、また口から食べることができるようになる人も多くいるのです。

健康保険適用になった新たな治療法「間歇的口腔食道経管栄養法(OE法)」

また最近、必要なときだけ口から食道までチューブを入れて栄養剤を注入する「間歇的口腔食道経管栄養法(OE法)」という治療が健康保険の適用になりました。
チューブを食道に入れるさいに嚥下が生じるので、OE法をくり返し行うことでリハビリテーションの効果があります。

このほか、誤嚥性肺炎をたびたびくり返していたり、重度の意識障害や誤嚥で苦しんでいる患者さんには、「嚥下機能改善手術」や、誤嚥を完全になくすための「誤嚥防止手術」などの専門手術が行われることもあります。
後者の手術は気管と食道を完全に分離するもので、多くの場合、発声機能を失ってしまうので、慎重な検討が必要です。

嚥下障害は放置すれば命にかかわる事態を招きかねませんから、治療を専門的に行っている医療機関(リハビリテーション科や耳鼻咽喉科、神経内科、歯科など)を受診してください。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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