
健康診断では見つからない!怖い食後高血糖
「血糖値」「ヘモグロビンAlc」「糖尿病」……。
これらの言葉を見て、「私はだいじょうぶ」と思ったあなた。安心するのはまだ早いかもしれません。
健康診断で血糖値に問題がなくても、食後に血糖値が急上昇しているかたは多いからです。
後ほど詳しくお話ししますが、血糖値の急上昇は、血管を傷つけ、死亡リスクを高めます。
左のグラフを見てください。糖尿病のかた(Aさん)、健康なかた(Bさん)、食後に血糖値が急上昇・急降下しているかた(Cさん)の、1日の血糖値の変化です。
糖尿病のAさんは、血糖値がずっと高いまま。健康なBさんは血糖値が低く、数値の上がり下がりも緩やかです。注目していただきたいのが、Cさんです。食事のたびに血糖値がドカンと急上昇し、その後、急降下しています。まるでジェットコースターのようです。
Cさんに見られる、血糖値の急上昇・急降下を「血糖値スパイク」と言います。食後に血糖値が急上昇するので「食後高血糖」とも言います。
実は、食後高血糖を起こしている人は、糖尿病と同じように動脈硬化になりやすいことがわかっています。動脈硬化になりやすければ、脳卒中や心筋梗塞になる可能性も増えます。
山形県で実施された、40歳以上の住民を対象にした調査で、「食後高血糖を起こしている人ほど、心臓や血管の病気で死亡する確率が高くなる」という結果が発表され、注目を集めました。ヨーロッパでは「食後高血糖を起こしている人は、血糖値が安定している人より、死亡率が2倍から2・3倍も高くなる」という調査結果も出ています。
怖い食後高血糖ですが、自分が当てはまるのか、健康診断ではわかりません。健康診断では、空腹での血糖値を測るからです、ちなみに、「ヘモグロビンAlc」は、過去1~2カ月の血糖値の平均値を表す指標ですが、糖尿病の予備軍とされる程度の異常であれば、食後高血糖を起こしている可能性が高いと考えられています。
ですから、健康診断で血糖値が正常、ないしはヘモグロビンAlcが糖尿病の基準に達していなくても、食後高血糖を起こしている可能性はじゅうぶんあります。
食後高血糖は老化の原因物質を増やす!
食後高血糖が起きると、まず影響を受けるのが、血管の内側です。
血管の内側には、「内皮細胞」があります。内皮細胞は、血圧を調整したり、血管の炎症を抑えたりと、血管の健康を保ってくれている、たいせつな存在です。
血糖値の乱高下は、後述する「活性酸素」を大量に発生させることで、内皮細胞を傷つけることがわかっています。内皮細胞が傷つけば、血圧を安定させたり、動脈硬化の原因となる炎症を抑えたりする内皮細胞の働きも悪くなります。血管の弾力が失われ、硬い血管になっていきます。まさに、「血管の老化」です。
血管には、全身の細胞に酸素と栄養を届けるという役割があります。ですから、血管の老化は、全身の老化を進めることになります。
イタリアの研究グループが、食後高血糖が起こっている状況を人工的に作ったところ、細胞の中で、活性酸素の大量発生が認められました。
活性酸素は、だれにでも発生するもので、悪い細菌やウイルスを撃退してくれる、体にとって必要不可欠な存在です。
ただ、過剰な活性酸素は血管だけでなく、他の細胞まで傷つけてしまいます。これが、ガンなどさまざまな病気や老化の原因になるのです。
また、食後高血糖で傷ついた内皮細胞には、傷ついたところからコレステロール(※1)が入り込み、たまっていきます。
このコレステロールが、活性酸素と結びつくと「酸化コレステロール」になります。
酸化コレステロールは、体内では異物ですから、やっつけるために内皮細胞に白血球が集まってきます。白血球は、酸化コレステロールを食べたあと、その場で息絶えます。
この白血球の死骸が、血液の流れを詰まらせる原因になり、動脈硬化の危険が高まるのです。
※1…LDLコレステロール

糖質は食べてOK!ただし食べ方を工夫する
食後高血糖を防ぐには、やはり血糖値を急上昇させる唯一の食べ物である「糖質」を減らすことです。
とはいえ、糖質を厳しく制限する必要はありません。間食のスイーツや、ご飯の量を3分の1から半分ほど減らしたり、食べ方を工夫したりすれば、食後高血糖を防げます。
食後高血糖を防ぐ最初の一歩として、食事を始める前に、目を閉じて、次の言葉を1回、唱えましょう。
「ご飯、麺、パン、いも、フルーツ」
目を開けたとき、先ほどの食材が目の前にたくさんあれば、食べる量を3分の1から半分ほど減らします。これが、私が患者さんに勧めている「なんちゃって糖質制限」です。
つらい食事制限はないので、無理なく続けられます。ただし、食べる順番には気をつけてください。
●最初に食べるもの:食物繊維
まずは、食物繊維の多いものから食べましょう。食物繊維を最初に食べておくと、糖質を食べたとき、腸で吸収される時間が遅くなります。
糖質の吸収が遅くなれば、食後高血糖を防ぐことができます。
大豆は血糖値を上がりにくくする食べ物
食物繊維が多い食材には、海藻やきのこ、葉野菜などがありますが、私が勧めているのは「大豆」です。
大豆には、100gあたり約18gの食物繊維が含まれています。
食物繊維の多い印象があるゴボウが5.7gですから、大豆の食物繊維量は、数ある食材の中でもトップクラスです。
また、たんぱく質が豊富なところも、大豆を勧める理由です。
「なんちゃって糖質制限」とは言っても、糖質を減らすことに変わりはありません。糖質を減らしたら、たんぱく質が不足しないよう気をつけてください。たんぱく質が不足すると、筋肉量が落ちるからです。
筋肉が、糖分の保管場所であることをご存じでしょうか。また、筋肉は、血糖値を調節している組織でもあります。
そのため、筋肉量が落ちると、糖分の行き場がなくなってしまいます。血糖値が急上昇しても、血糖値をうまく下げられないという事態になりかねません。事実、やせた女性には食後高血糖が多いこともわかっています。
たんぱく質不足では、肌の調子も悪くなるので、見た目の老化にもつながります。
大豆には、100gあたり、33.8gもたんぱく質が含まれています。また、大豆は、たんぱく質の優秀さを評価する「アミノ酸スコア」が、満点の100点。量も質も、たんぱく源として言うことがありません。
大豆イソフラボンも更年期障害に効果
実は私は、30代の頃に、メタボ気味だったことがあります。
そのとき、やせるために極端な糖質制限をしました。すると、おもしろいように体重が落ち、うれしくて、いっそう糖質制限に励んだのです。
そんなある日、鏡の前に立った私は愕然としました。目の前には、まるでヨボヨボのおじいさんが立っていたからです。

今、振り返ると、たんぱく質が明らかに足りていませんでした。
その後、納豆や豆腐、大豆の水煮などを最初に食べる食事法である「大豆ファースト」を始めたところ、筋肉量を維持したまま、減量に成功しました。肌もきれいになり、30代の頃より、50代の現在のほうが若々しくなりました。
大豆の利点は、まだあります。腹持ちがいいので、食事量が自然に減るのです。おかげで、糖質も無理なく減らせます。
また、大豆に含まれる「大豆イソフラボン」は、女性ホルモンの1つである「エストロゲン」に似た働きをするので、更年期障害による不定愁訴の緩和にも役立ちます。
血糖値と便秘の両方に効く「蒸し大豆ヨーグルト」の作り方
大豆を、どう食べたらいいか、悩まれるかたもいるかもしれません。いちばん手軽なのは、「蒸し大豆」です。蒸し大豆は、大手のスーパーなどで入手できます。
しかも150円前後と安い!
私も、市販の蒸し大豆を愛用しています。サラダに入れたり、ご飯に混ぜたり、口寂しいときにそのまま食べたりと、毎日欠かすことはありません。出張カバンには、おやつ代わりに蒸し大豆が入っています。

蒸し大豆の活用法としてお勧めしたいのが、ヨーグルトに入れる「蒸し大豆ヨーグルト」です。
大豆の食物繊維と、ヨーグルトに含まれるオリゴ糖や乳酸菌が合体した、最強の整腸食です。これだけで、1日に必要な食物繊維のほとんどをカバーできます。
私は毎朝、蒸し大豆ヨーグルトを食べています。そのおかげか便秘に悩んだことは一度もありません。
3時のおやつの代わりに、蒸し大豆ヨーグルトを食べることもあります。腹持ちがいいので、間食のチョコレートやおせんべいを食べることが、パタリとなくなりました。
患者さんにも蒸し大豆ヨーグルト勧めていますが、「腹持ちがいい」と好評です。
「血糖値が下がった」「便秘が解消した」など、食物繊維の効果も現れています。
立ったまま食べると血糖値が上がりにくい
最後に、もし家庭環境が許されるなら、「立ったまま食事をする」のもお勧めです。
例えば、体育の授業のあとは、食欲が湧かない。そんな経験はありませんか。これは、運動したことで交感神経(※2)が活発になり、副交感神経(※3)が主役の消化吸収機能が、抑えられてしまうからです。
立つだけでも交感神経は優位になりますから、糖質の吸収も緩やかになります。最近、立食スタイルの外食チェーンが流行していますが、血糖値上昇を防ぐ意味で、とても理にかなっています。
私の家では、子育てがひと段落したので、妻と二人で夕飯を食べています。よく、キッチンカウンターをテーブルの代わりにして、一杯やりながら食事を楽しんでいます。
慌ただしい朝も、キッチンカウンターで朝食を作り、その場で食べる立食スタイル。時間短縮にもなり、お勧めです。
※2、3……意志とは関係なく、発汗や体温、血液循環など、生命維持に欠かせない機能を調節している神経を、自律神経と言う。自律神経には、活動時に優位になる交感神経と、休息時に優位になる副交感神経がある
解説者のプロフィール

池谷敏郎(いけたに・としろう)
池谷医院院長・医学博士。
1962年、東京都生まれ。1988年、東京医科大学医学部卒業後、東京医科大学病院第二内科に入局、血圧と動脈硬化について研究する。1995年、池谷医院内科・循環器科勤務。1997年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。現在も臨床現場に立つ。心臓、血管、血圧などの循環器系のエキスパートとして、数々のテレビ番組に出演し、わかりやすい解説が好評を博す。日本内科学会認定総合内科専門医。日本循環器学会認定循環器専門医。東京医科大学循環器内科客員講師。
●池谷医院
東京都あきる野市秋川1-3-7
TEL 042-550-0005
http://www.iketaniiin.com/index.html