解説者のプロフィール

髙橋弘
麻布医院院長・ハーバード大学医学部内科元准教授。
1951年、埼玉県生まれ。77年、東京慈恵会医科大学卒業後、同大大学院(内科学専攻博士課程)へ進み、同附属病院で臨床研修。85年、ハーバード大学医学部に留学。同大学附属マサチューセッツ病院にてフェロー、助手、助教授を経て准教授となる。東京慈恵医科大学教授などを経て、2009年より現職。食事と病気の関係に着目してファイトケミカルの研究に情熱を注ぎ、ファイトケミカルスープを考案。『ハーバード大学式「野菜スープ」で免疫力アップ!がんに負けない』(マキノ出版)など、著書・監修書多数。
●麻布医院
東京都港区麻布十番1-11-1 エスティメゾン麻布十番 3階
TEL 03-5545-8177
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お酒を飲まない人の脂肪肝が急増中
「肝臓を大切にするために気をつけるべきこと」といえば、まず、お酒を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
確かに、アルコールは肝臓に悪影響を与えます。長期にわたる過度の飲酒は、アルコール性の脂肪肝の原因となります。
脂肪肝とは、肝細胞の3割以上に脂肪が沈着した状態のことです。お酒をやめないと、多くがアルコール性肝炎、アルコール性肝硬変へと進みます。
ところが最近は、お酒とかかわりなく起こる脂肪肝が増えています。お酒を飲まないか、少量飲むだけの人に起こる脂肪肝は「非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)」と呼ばれます。
内臓脂肪型肥満をはじめとする、いわゆるメタボ(メタボリックシンドローム)を原因として起こる脂肪肝で、現代人に急増しています。肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病がある人ほど、発症リスクが高いことが知られています。
問題なのは、増えていることだけでなく、その一部が肝炎や肝硬変、そして肝がんに進むことです。
これまで長い間、脂肪肝は良性の病気で、放置していても心配ないと考えられていました。しかし、最近になって、NAFLDの約2割が、「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」という病気に進むことがわかってきたのです。
NASHは、炎症や線維化(肝細胞が硬く変質すること)を起こす進行性の肝臓病です。NASHになると、約10年で3割が肝硬変、肝がんに進みます。
鉄のとりすぎは最悪の活性酸素を作り出す
NAFLDやNASHは、アルコールのほか、肝炎や肝硬変の原因として知られる肝炎ウイルスや自己免疫疾患(免疫のしくみの異常から起こる病気)ともかかわりなく起こります。
つまり、メタボなどの生活習慣病を背景として増えてきた新しいタイプの進行性の肝臓病といえます。
NAFLDやNASHを防ぐ、あるいは食い止めるには、糖質をとりすぎないことや、野菜などに多い抗酸化物質をとることなどがポイントになります。これらに加えて、ぜひ気をつけてほしいことがあります。
それは、「シジミなどの貝類やレバーなど、鉄の多いものを控える」ということです。
シジミ汁は汁だけ飲んで身は残せ
「えっ、シジミやレバーは肝臓にいいのでは?」
と驚く人も多いでしょう。
実は、「シジミやレバーが肝臓にいい」「鉄をとったほうがいい」というのは、重大な誤りです。実は、過剰に摂取した鉄は肝臓にたまって「フェントン反応」という化学反応を起こし最悪の活性酸素「ヒドロキシルラジカル」を作り出すのです。
活性酸素は、体内で必ず一定量ができる有害物質で、肝炎や肝がんの原因になります。活性酸素にもいくつかの種類があり、日常的に体内でできるものに対しては、無毒化する酵素が体に備わっています。
ところが、過剰にとった鉄が肝臓にたまってフェントン反応が起こると、体内で無毒化するすべのない強力なタイプの活性酸素「ヒドロキシルラジカル」ができてしまうのです。これが、肝炎や肝がんの大きな要因になります。
「肝臓のために」と、シジミやレバーをせっせととっていると、逆に肝臓を痛めつけて肝臓病を悪化させる恐れがあるので要注意です。肝臓が悪い人、特にNASHの人は、1日にとる鉄は7㎎未満にしましょう。
たとえば、100gの豚レバーには13㎎、シジミには5.3㎎の鉄が含まれています。これらは控えたほうが安心です。
「シジミ汁が肝臓によい」という言い伝えがありますが、それはシジミ汁にオルニチンという肝臓によい成分が溶け込んでいることが、経験的に知られてきたためと考えられます。シジミの汁を飲むのはよいのですが、身は残しましょう。
鉄欠乏貧血のときは、食品や鉄剤による鉄の摂取が勧められますが、その場合も、とりすぎには注意しましょう。
そのほかにも、鉄をため込んで肝臓を傷めないために、下の表のような心がけが大切です。
鉄の取りすぎから肝臓を守る生活習慣
