
挫折を招く「引き算食べ」成功を招く「足し算食べ」
糖質を敵にするか、味方にするかは、食べ方次第です。糖質は悪者ではありません。問題なのは、糖質を取った後、血糖値が急激に上昇する食後高血糖です。
糖質は、食べ方のコツさえ知っていれば、血糖値を急激に上げることなく、糖質をおいしく取ることができるのです。上手に取れば、ダイエットや病気の予防もできます。
その極意は「引き算食べでなく、足し算食べをする」こと。
引き算食べとは、まさしく「糖質制限」や「カロリー制限」のように、何かを「引く」食事法。足し算食べとは、油やたんぱく質、果物などを「足す」食事法です。
引き算食べは、短期間ならできるかもしれませんし、効果も上がるでしょう。
しかし、人は制限されるとストレスを感じ、食べる幸せを奪われるようで、なかなか続きません。
私は管理栄養士として、長年、医療機関で食事指導をしてきましたが、自分自身、おいしいものを食べるのが好きなので、そうした「引き算食べ」は指導してきませんでした。食事を引き算すれば、けっきょく挫折して、かえってドカ食いに走り、血糖値や体重がリバウンドする事例をたくさん見てきたからです。引き算食べの考え方では、食べ物の悪い点ばかりが強調されて、患者によっては何を食べていいのかわからなくなってしまう人もいます。
また、糖質は、脳や筋肉のエネルギー源として重要です。極端に糖質を制限すると、頭がボーッとしたり、元気がなくなったりすることもあります。その意味でも、害にならない工夫をしながら、一定量の糖質は取るほうがいいのです。
そこで、誰でも失敗や挫折をしないで続けられ、体にも安心な足し算食べを考案し、指導してきたというわけです。足し算するといっても、めんどうだと続かないので「ちょい足し」、つまり手軽にパッと足せる方法になっています。
敵は糖質ではなく食後の高血糖
しかし、普通は「食品を足すとカロリーがふえて太るはず」と誰しも思うでしょう。足し算食べでは、なぜ食品を足しても太らず、むしろやせられるのでしょうか。それを理解するキーワードは「食後血糖」です。糖質を食べると血糖値が上がります。それを下げるために出てくるのがインスリンというホルモンです。食後の血糖値が急激に上がるほど、多くのインスリンが出てきます。
インスリンは、血糖値を下げるホルモンですが、同時に余った糖質を脂肪に変えて、脂肪細胞に蓄積させる働きもしています。ですから、食後の血糖値の上昇を緩やかにするほど、インスリンの分泌が抑えられ、脂肪の蓄積、すなわち肥満を招かなくてすみます。そして、食後の血糖値の上昇を緩やかにするために、大きな力を発揮するのが「足し算食べ」なのです。
下のグラフは、ご飯だけを食べたときと、ご飯をオリーブ油で炒めて食べたときの血糖値の変化を比べたものです。明らかに、後者のほうが、血糖値の上昇が緩やかになっているのがわかるでしょう。そこに、肉や卵といったたんぱく質を足してチャーハンにすると、さらに血糖値の上がり方が緩やかになります。

油やたんぱく質は、糖質のように血糖値を上げないうえ、胃から小腸に糖質が移動する速度を遅くするからです。食材にもよりますが、胃から、栄養素が吸収される小腸に移動するのに、おおむね、糖質は最大2時間しかかからないのに対し、脂肪は4時間以上、たんぱく質は2時間以上かかります。
これらが適度に混じることで、糖質の移動も遅くなるため、血糖値の上昇が緩やかになるのです。糖質の摂取量は同じでも、その分、インスリンの分泌が抑えられて太りにくくなります。つまり、敵は糖質そのものではなく、食後の高血糖というわけです。
腹持ちがよくドカ食いを防ぐ
多くの人は、「チャーハンのほうが高カロリーで太るのでは?」と思うかもしれません。
しかし、油やたんぱく質を一緒に取ることで、血糖値の急上昇が防げるだけでなく、腹持ちもよくなるので、次の食事でドカ食いしなくてすみ、過度な間食も防げます。油とたんぱく質がじゅうぶん入っていることが重要です。
太りたくないからと、少量のお茶漬けやおにぎりですませると、血糖値が急激に上がるうえ、腹持ちも悪いのであとで食欲が爆発しがちです。それよりも足し算食べです。さらに大事なことは、よくかむことです。
足し算食べで血糖値の上昇を緩やかにすることは、糖尿病やその予備群の人にとっても重要なのは言うまでもありません。また、肥満を防げるので、高血圧や動脈硬化が気になる人にもお勧めです。

解説者のプロフィール

足立香代子(あだち・かよこ)
一般社団法人臨床栄養実践協会理事長。管理栄養士。せんぽ東京高輪病院名誉栄養管理室長。1968年、中京短期大学家政科食物栄養専攻卒業後、医療法人病院を経て、1985年からせんぽ東京高輪病院に勤務し、2014年より現職。医療現場で過剰栄養に対する栄養指導や入院患者への栄養管理を実践した経験をもとに、食事に経腸栄養、静脈栄養を含めたトータルコーディネートができる人材育成にあたっている。日本臨床栄養学会理事協会評議員、日本静脈経腸栄養学会名誉会員。著書に『太らない間食』(文嚮社)、『ズルイ食べ方ー人生を守る「足し算食べ」SEST100』(ワニブックス)ほか多数。