糖尿病を予防する「ショウガ」の効果
ショウガの体を温める作用が注目されていますが、意外に知られていないのが、糖尿病に対する効果です。
2015年、イランで次のような研究が発表されました。
1日2gの粉末ショウガを取ると、空腹時血糖値や、ヘモグロビンA1c(過去数ヵ月の血糖の状態を表す指標で正常値は6.5%未満)が下がり、活性酸素を抑える酵素が増える、というものです。
これはヒトで行われた実験の研究結果です。
糖尿病で困るのは、やはり合併症です。
太い動脈から毛細血管まで、血管が糖によって障害されると、さまざまな病気を誘発します。
合併症の発症に深く関わっているのが、「糖化」という反応です。
血糖値が高くて血中に糖がたくさんあると、それが血管からしみ出て、体内にあるたんぱく質に結合します。
これが糖化反応で、その結果作られた劣化たんぱく質を、「AGE」といいます。
体内で糖と結び付きやすいたんぱく質は、コラーゲンです。
例えば、皮膚のコラーゲンに糖が結合すると、皮膚の色が濁ってシミやくすみになります。
糖尿病の指標であるヘモグロビンA1cも、糖化反応が進行している途中でできる物質です。
したがってヘモグロビンA1cが高いほど、糖化反応が進行しているといえます。
その結果、作られたAGEが体内に過剰に沈着すると、糖尿病性の合併症が発症します。
白内障の進行を抑制すると判明
インドの国立栄養研究所が、糖化に対して、どの食材に抑制効果があるか調べたところ、17品目中ショウガが首位で、なんと93%の阻止率でした。
この結果を受けて、実際に合併症に対して有効か、ラットを使って実験をしています。
薬で糖尿病を発症するラットをつくり、ショウガを与えないA群、ショウガ粉末を0.5%濃度で与えたB群、3%濃度で与えたC群に分け、何もしていない正常ラットD群と比較しました。
発症した糖尿病性白内障の進行状況を2ヵ月後に比べたところ、ショウガを与えなかった群はステージ2.5まで進行したのに対し、ショウガを与えた群の進行は有意に抑えられており、3%の群ではステージ0.8にとどまりました(下の表参照)。
白内障の発症自体は止められませんが、明らかに進行は抑えられています。

血糖値を下げ合併症も予防する
糖尿病が進んで、AGEが蓄積してくると、毒性の強い活性酸素が生成され、炎症を引き起こします。
この糖化、酸化、炎症という三つのステップで合併症は発症します。
白内障もその産物で、糖尿病のある人は、ない人の5倍も白内障の発症が多いという、頻度の高い合併症です。
ショウガが糖尿病性白内障の進行を抑えたのは、この三つのステップを抑制する作用があるからです。
①糖化を防ぐ
イランの報告でもわかるように、ショウガには、血糖値を下げる作用があります。
筋肉などの細胞の中には、糖を取り込むグルット4(GLUT4)という物質があります。
ショウガはこれを活性化して、糖を細胞の中に取り込みやすくします。
それによって血中の糖が減少すれば、高血糖の状態が解消されて、糖化反応が起こりにくくなります。
②酸化を防ぐ
ショウガの主成分であるショウガオールやジンゲロールには、過剰になった活性酸素を減らす抗酸化作用があります。
③炎症を抑える
活性酸素が減れば炎症が抑えられますが、ショウガの成分ショウガオールにも、炎症物質を抑えて、炎症を鎮める抗炎症作用があります。
こうした作用を考えると、ショウガは白内障だけでなく、網膜症や腎症、神経障害など、糖尿病の合併症全般に、抑制効果があるものと期待されます。
ただし、すでに発症してしまった合併症を治すことはできません。
期待できるのは、進行を抑える効果です。
摂取量の目安
では、そのためにどれくらいのショウガを取ったらいいのでしょうか。
イランの実験では、ヒトで1日2gでした。
これまでの研究を見ると、1g以上で健康効果が得られますが、糖尿病への効果を期待するなら、最低1.6gくらいは取ったほうがよさそうです。
これは、粉末ショウガの量です。
生ショウガなら、この約10倍くらいの量、1日16~20gになるでしょうか。
ショウガは辛いので、一度にたくさん取ることはできませんから、飲みやすいショウガ紅茶にして、1日3〜4杯飲むといいでしょう。
ハチミツや黒糖を入れると飲みやすくなりますが、糖尿病の人は入れ過ぎに注意しましょう。
それ以外にも、ショウガを積極的に料理に使うといいでしょう。
ちなみに私は毎日、粉末ショウガをいろいろな料理に使っています。
なお、AGEは焦げたベーコンや鶏の皮などの食品に多く含まれています。
そういうものは、なるべく控えるようにしてください。
解説者のプロフィール

平柳要(ひらやなぎ・かなめ)
●食品医学研究所
http://h-and-w.jp/
食品医学研究所所長。
東京大学大学院医学研究科修了。
ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学客員研究員、日本大学医学部准教授などを経て、食品医学研究所を設立。
科学的根拠に基づいた健康食品の研究、開発に携わる。