解説者のプロフィール

髙橋悟(たかはし・さとる)
日本大学医学部附属板橋病院副病院長。
日米の病院で泌尿器科の診療を重ね、2003年には天皇陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームに加わったスペシャリスト。
立ちションは中高年男性には不向き
最近、男性の読者の中には、奥さんから自宅での「立ちション(小便)禁止令」を出されている方が多いのではないでしょうか。
洋式トイレで男性が立ちションをすると、尿の跳ね返りで壁などが汚れます。
それで、奥さんから出されるのが、立ちション禁止令、言い換えれば「座りション令」です。
「座って小便をするなど男の沽券にかかわる」と、根強く抵抗している人も多いでしょう。
しかし、泌尿器科医の私は、世の奥さんたちを支持します。
その理由は、トイレの衛生環境のためだけではありません。
排尿後の尿もれ「排尿後滴下(はいにょうごてきか)」
実は、多くの男性が悩んでいる「排尿後の尿のチョイもれ」を防ぐのに、座りションのほうが好都合だからです。
排尿後のチョイもれの医学的な正式名は、「排尿後尿滴下」といいます。
早い人なら30~40歳代から見られ、50歳代以降はしだいに増えていきます。
加齢に伴うオシッコの悩みのうち、最初に出てくるものといえるでしょう。
チョイ漏れの原因は筋肉の衰え
多くの男性を悩ませるこのチョイもれは、なぜ起こるのでしょうか。
下の図を見てください。
膀胱の下から出ている管が尿道です。
排尿のさいには、普段は膀胱の出口を締めている尿道括約筋がゆるんで、膀胱が収縮し、尿道の中を尿が流れます。
排尿の最後は、尿道の上部がキュッと締まって、尿を余さず排泄するしくみになっています。
最後に尿道の上部をキュッと引き締めるのは、球海綿体筋という筋肉の役目です。
これは、陰茎のつけ根を下から支えている筋肉です。
加齢とともに、この筋肉の力が衰えると、排尿後、尿道に尿が残りやすくなります。
その場所は、膀胱の下を横向きに走っている「球部尿道」という部分で、少し太くなっているところです。
ここに尿が残っていると、排尿後に陰茎を下向きに戻した後、球部尿道にたまっていた尿がタラッと出てきます。
これがチョイもれの正体です。
チョイもれ対策は誰でも簡単にできる
しかし、ご安心ください。
チョイもれを防ぐ確実な方法があります。
それは、ヨーロッパの泌尿器学会でも、排尿後尿滴下の対策として推奨されている「ミルキング」という方法です。
やり方はいたって簡単です。
ミルキングを行うと、球部尿道にたまった尿が押し出されるので、その後、下着やズボンを汚すチョイもれは起こらなくなります。
ミルキングは、立ちションをしてズボンの外から行うこともできますが、やはり座りションで、直接指を当てて行うほうが確実です。
これが、私が座りションを推奨する理由です。
もし、ミルキングで出てくる尿で手が汚れないか気になる場合は、陰茎の先にトイレットペーパーを当てるとよいでしょう。
ミルキングでチョイもれを防ぐとともに、球海綿体筋を強化することが、チョイもれの根本的な対策になります。
それには、この筋肉と連動している「骨盤底筋(骨盤の下にあるハンモック状の筋肉)」を引き締めることが役立ちます。
肛門をキュッと引き締めることは、効果的な骨盤底筋体操になります。
男性なら排尿の最後に、無意識に骨盤底筋を引き締めますが、これをより意識して行うとよいでしょう。
ミルキングのやり方

こぶしサンド体操でチョイもれ対策
ちなみに、陰茎が勃起する際、中心的に働くのも球海綿体筋です。
ですから、骨盤底筋体操でこの筋肉を鍛えると、ED(勃起不全)の対策にもなります。
もともとEDはチョイもれと同時進行しやすいものです。
また、高齢男性を悩ませる前立腺肥大とチョイもれも、深く関係しています。
なぜなら前立腺肥大で排尿の勢いが衰えることでも、尿道に尿が残りやすくなるからです。
骨盤底筋体操と合わせてチョイもれを改善するためには、骨盤内の血流をよくすることが役立ちます。
そのためにお勧めなのが「こぶしサンド体操」です。
やり方は上図のとおりでとても簡単です。
ミルキングとともに、これらも取り入れて、チョイもれ知らずの快適な生活を送ってください。
こぶしサンド体操のやり方
