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【潰瘍性大腸炎の治療と手術】血便や下痢が1週間続くと可能性有り

【潰瘍性大腸炎の治療と手術】血便や下痢が1週間続くと可能性有り

潰瘍性大腸炎では一般に、薬物療法が行われますが、場合によっては大腸を摘出する手術が行われることがあります。従来は手術後、人工肛門を余儀なくされていましたが、近年では肛門を温存し、自然に近い排便機能を維持する手術が主流になっています。【解説】木村英明(横浜市立大学附属市民総合医療 センターIBDセンター部長)




「潰瘍性大腸炎」といえば、安倍晋三首相が2007年の退陣時の理由とした体調悪化にかかわった病気として、知られているかもしれません。
血便や下痢、腹痛などの症状が起こるこの病気は、いまだ原因不明の難病の一つですが、近年、患者数が大幅に増加しています。

潰瘍性大腸炎では一般に、薬物療法が行われますが、場合によっては大腸を摘出する手術が行われることがあります。
従来は手術後、人工肛門を余儀なくされていましたが、近年では肛門を温存し、自然に近い排便機能を維持する手術が主流になっています。

潰瘍性大腸炎の手術を年間40~50件も行っている名医、横浜市立大学附属市民総合医療センターの木村英明先生にお話を伺いました。

解説者のプロフィール

木村英明
横浜市立大学附属市民総合医療 センターIBDセンター部長。
1993年、札幌医科大学医学部卒業。横浜市立大学消化器・腫瘍外科入局。横浜市立市民病院等を経て2009 年より現職。潰瘍性大腸炎、クローン病の診断や外科治療が専門。潰瘍性大腸炎に対する、肛門機能温存と根治性のバランスを考慮した回腸嚢肛門管吻合術、一時的人工肛門を作成しない1期的手術に定評がある。また、市民講座などで病気や手術への啓蒙を行う。

1000人に1人くらいの割合で発症

――近年、患者数が増加しているという潰瘍性大腸炎はどんな病気なのですか?

木村:潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらん(ただれること)や潰瘍ができる炎症性の疾患です。
血便が出る、下痢が長く続く、頻繁に腹痛が起こるなどの症状が特徴的です。

また、発熱や貧血、皮膚病変の出現や関節に痛みが起こるなど、大腸以外のところにも全身に合併症が起こることがあります。
患者さんご自身が血便に気付いて、受診されるケースが多いですが、必ずしも出血を伴うとは限りません。

その場合、目安となりうるのは、下痢の期間です。
単に消化不良による下痢は長くても数日、細菌などの感染症が原因でも普通は1週間ほどで症状が治まるものです。

ところが半月、1ヵ月も下痢が続く……そうした場合には、潰瘍性大腸炎を疑ったほうがいいかもしれません。
潰瘍性大腸炎が起こる原因は、まだわかっていません。

腸内細菌の関与や、本来は外敵から身を守る免疫機構が正常に機能しなくなる、免疫反応の異常などがかかわっていると考えられています。
一つ言えるのは、この病気は現代になって急増しているということです。

近年、わが国でも、潰瘍性大腸炎で医療受給者証などの交付を受けた登録患者が16万人を超えています。
少なくとも1000人に1人くらいの割合で起こる病気になっているということです(下のグラフ参照)。

30年前は数百~1千人ほどしかいなかったのですから、大幅に増えているわけです。
さらに、潰瘍性大腸炎は日本よりも先行して欧米先進国で増えており、米国では日本の2倍以上の発生頻度となっています。

このことから、現代的な食生活や生活環境の影響があるのではないかと考えられています。
発症年齢のピークは20~30代と比較的若いですが、若年者や高齢者にも発症しますし、男女比はほぼ同じで、性別による差はありません。

潰瘍性大腸炎の診断では、まず、同様の症状(血便を伴う下痢など)を引き起こす感染症と区別するための便検査や血液検査を行います。
その後、大腸の状態をより詳しく調べるために、エックス線や内視鏡を用いた検査を行います。

潰瘍性大腸炎では、病変が直腸(大腸の最下部、肛門の直前の部分)から連続的に上に向かって広がっていくなど、特徴的な所見があり、そうしたことから診断していきます。

治療の第一段階は薬物療法

――潰瘍性大腸炎の治療は、どのように行われるのですか?

木村:潰瘍性大腸炎は原因不明で、残念ながら、治癒(完治)するとは言いがたい病気です。
多くの場合、寛解(症状が落ち着いている状態)と再燃(症状が悪化している状態)をくり返します。

治療では、症状の落ち着いている寛解の状態へと導き、それを維持することが目的になります。
基本となるのは、薬物療法です。

炎症を抑える作用のある「5‐ASA(5アミノサリチル酸製剤)」という薬が最も広く使われています。
炎症が強い場合は、炎症を抑える効果の高いステロイドを一定期間、併用することもあります。

そのほかにも、免疫の働きを調節する薬や、潰瘍性大腸炎の炎症に直接関与している「TNFα」という物質の働きを抑える薬(生物学的製剤)など、近年、潰瘍性大腸炎の治療薬はバリエーションが増えています。
昔に比べると、薬物療法による症状のコントロールはしやすくなっていると言えるでしょう。

よく、患者さんから「薬は飲み続けなければならないのですか?」という質問を受けます。
薬をやめても長期間、再燃が起こらない人もいますが、原則としては「飲み続けたほうがいい」とされています。

5‐ASA製剤は長期服用しても安全であると確認されていますし、きちんと飲んでいた人のほうが、やはり再燃が少ないとの報告があります。
また、5‐ASA製剤には、合併症として起こる大腸ガンの予防効果があると期待されています。

潰瘍性大腸炎を発症してから10年以上経過している患者さんは、同じ年齢の一般の人に比べて大腸ガンになりやすい傾向があり、特に病変範囲の広い患者さんは発症率が高くなるとされています。
ですが、5‐ASA製剤を飲んでいた人は、飲んでいなかった人に比べて、大腸ガンの発症率が低いと報告されているのです。

いずれにせよ、服薬中止は自己判断で行わず、医師の指示に従うようにしてください。
さて、薬物療法によってじゅうぶんな治療効果が得られないときや、重症度の高いときには外科的治療、すなわち手術を考えることになります。

大腸を取り小腸と肛門をつなぎ合わせる

――どのような場合に手術が行われるのですか?

木村:私たちは、わかりやすく、次の三つのパターンで説明しています。

1.重症炎症が重度で腸管に穴が開いてしまう(穿孔)、大腸内に毒素やガスがたまって膨らんでしまう(中毒性巨大結腸症)、大量出血が見られるといった場合は、放置すると命にかかわるため、緊急手術を行う必要があります。
極度の腹痛や発熱を伴うような全身状態の悪い場合も、対象となることがあります。

2.難治薬物療法など内科的治療の効果が見られなかったり、副作用が強くて継続できないなどの問題が起こったりする場合、生活の質を考えると、手術を行ったほうがよいと判断することがあります。

3.ガン大腸ガンを併発していたり、放置すると発症のリスクが大きく高まったりすると考えられる場合。
このうち、緊急手術では救命することが主目的なので、まずは病変のある大腸のかなりの部分を摘出し、一時的に小腸に人工肛門(腸の一部をおなかから外に出し、肛門に代わる便の出口にする)を作るのが一般的です。

緊急性の低い待機手術の場合であっても、従来は大腸から肛門まで全部取ってしまい、人工肛門にする手術が一般的でした。
しかし、人工肛門には抵抗感のある人が少なくありません。

そこで近年では肛門を温存し、なるべく自然に近い排便機能を残そうというのが、主流の考え方となってきています。


――どんな手術が行われるのですか?

木村:手術は大きく、次の二つのステップに分けて考えられます。
まず、原則として大腸は全摘、すなわち全部取ってしまいます。

昔は、大腸の病変がある部分だけを取り、病変のない部分を残す手術が行われていましたが、結局、残した大腸もすぐに同じように悪くなることがわかってきました。
そのため、現在では最初から大腸を全部取るのが標準的な方法です(下の図①参照)。

なお、大腸の主な機能は消化吸収された食べ物のカスを固めて便をつくり、水分を吸収することですが、なくても生命に支障はありません。
栄養を消化吸収する働きは、主に小腸が担っています。

大腸を取った後、小腸と肛門をつなぎ直しますが、このときに小腸の端をそのままつないだのでは、便をためておく機能がないため、排便頻度が著しく増える、便がもれやすくなるといった問題が生じます。
そこで、小腸の端で袋を作り、便をためる働きを代用させることを行います。

小腸の最下部を回腸というので、この袋のことを「回腸嚢」と呼んでいます。
ここから、肛門へのつなぎ方が二通りあります。

一つは、回腸嚢と肛門管と呼ばれる部分を残してつなげる「回腸嚢肛門管吻合術(IACA)」(下の図②参照)で、もう一つは回腸嚢と肛門をじかにつなげる「回腸嚢肛門吻合術(IAA)」です。
当院では、前者のIACAを多く行っています。

条件がよければ手術は1回で完了

肛門と直腸の間には、肛門括約筋という筋肉で囲まれた、肛門を閉める働きをする部分が3~4cmくらいあり、ここを肛門管といいます。
肛門管を残したほうが、縫合不全(つなぎ目のもれ)が少ない、便もれが少ないなどのメリットがあるとされています。

一方、厳密には肛門管の中に大腸の組織がわずかに残るため、理論的には、その部分の炎症の再燃や発ガンの危険性があります。
ですが、この残った部分にガンが発生した例はきわめてまれで、現実的には残った大腸の組織が問題となることは、ほとんどありません。

こうした手術を条件がよければ1回で行いますが、全身状態や直腸肛門の病変の程度などによっては、2~3回に分けて行うこと(分割手術)もあります。
分割手術では、一時的に人工肛門が必要です。

通常は3~6ヵ月後に次の手術を行い、最終的に人工肛門は閉じることができます。

術後約2週間で退院食事制限はない

――手術後の経過はどのようになるのですか?

木村:術後1週間は絶食になり、点滴で栄養を取ります。
その後、肛門に入れた管から造影剤を入れ、つなぎ目の状態を確認します。

問題がなければ食事を開始します。
日を追って、流動食からおかゆに変更していき、おかゆの摂取が問題なくなれば退院です。

当院では、順調にいくと、術後約2週間で退院になります。
退院後は、特に制限はなく、通常の食事をして構いません。

術後の排便については、小腸の袋で代用しているとはいえ、大腸がありませんので、やはり頻便となり、多少の便もれが残る場合もあります。
排便の頻度は手術直後は1日十数回、1年くらいたつと平均6~7回程度になります。

健康な状態からすれば、多いと思うでしょうが、排便が規則的になり、ある程度はがまんもできるので、患者さんにとっては大きな違いです。
例えば、仕事中に急に腹痛や下痢に襲われ、どうしようもなくなってしまう事態は避けられます。

出血も伴いませんので、ほとんどの人は日常生活に差し支えがなくなります。
職場などへの社会復帰は、業務内容にもよりますが、退院後2~4週間で復帰する人が多いようです。

なお、潰瘍性大腸炎で手術を受ける患者さんの割合は、国内では最近の正確な大規模調査のデータがありませんが、だいたい5%前後ではないかと思われます。
長年、薬を飲んでいてもなかなか改善せず、生活にさまざまな制限のあった患者さんが手術を受け、わずらわしい症状から解放されて、元気に社会生活を営んでいるケースは数多くあります。

手術を必要以上に怖れず、必要に応じて検討していただければと思います。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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