解説者のプロフィール

西川眞知子(にしかわ・まちこ)
●アーユルヴェーダネイチャーケア学院
TEL 03-6228-6778
http://www.jnhc.co.jp/
アーユルヴェーダネイチャーケア学院代表。
アーユルヴェーダ・ライフコンサルタント。
上智大学外国語学部を経て、仏教大学卒業。
第24代ミス横浜。
幼少期の病弱を自然療法で克服したのをきっかけに、大学時代にインドやアメリカを歴訪し、ヨガや自然療法に出合う。その経験と研究を基に「日本ならではのアーユルヴェーダ」を提唱。
著書多数で近著に『アーユルヴェーダで我慢しないアトピー生活』(農文協)、『ヨガのポーズの意味と理論がわかる本』(マイナビ)好評発売中。
60歳過ぎたら人は皆、乾燥して冷えてくる
60歳を過ぎると、多くの人は「風」、そして「空」が体や心に増えていき、風と空の体質になっていきます。
風の体質というのは、カサカサと乾燥して、冷えがあり、心情的にはソワソワと落ち着きがなく、気ばかり焦って、眠りが浅い、そんな体質のことです。
空というのは、正しくは「腔」という漢字のほうが近いでしょう。
体質としては、中身が空洞化して、忘れっぽくなり、心情的には寂しい、かまってほしいという気持ちが強くなります。
風と空の体質は、死に向かって散っていく準備でもあるので、生命の自然な流れともいえます。
しかしそれでも、最期を迎えるその日まで、健康で幸せに過ごしたいものです。
そこで私がお勧めしているのが、5000年の歴史があるインドの伝統医学「アーユルヴェーダ」の智恵です。
前述の「風」「空」は、アーユルヴェーダの考え方です。
風と空のほかに、「地」「水」「火」という五つの元素(エネルギー)があり、自然や人間、この世のすべてのものは、五つの元素で成り立っていると考えます。
現在でもインドでは、西洋医学と並行してアーユルヴェーダは活用されており、とても信頼できる伝統医学の一つです。
余談ですが、アーユルヴェーダでは、紀元前から内科や婦人科などの診療分野があり、アンチエイジング(抗加齢)科まであったそうです。
そして、頭頸部科(頭と首)は、特に重要視されていたようです。

頭をもむと、不足しているエネルギーを補える
では、風や空の体質でも、毎日を健康で幸せに過ごすにはどうしたらよいでしょうか。
それには、地、水、火といったほかの要素を取り入れることです。
これで心身のバランスを整えることができます。
ちなみに、地は、肉や骨、臓器などをつくる構造のエネルギーであり、ものごとをくっつける働きがあります。
水は、水分や油分、または体液などを表し、潤いや若々しさの象徴でもあります。
火は、体温や代謝などに関係し、温かさをつくり出します。
地、水、火という、自分に不足しているエネルギーを補う最適な方法として、私がお勧めしているのが「頭もみ」です。
優しく丁寧に自分を労わりながら行う
今回ご紹介する頭もみは、頭の後方、左右にある、完骨、風池、天柱という三つのツボを優しく刺激します(基本的なやり方は下の画像参照)。
完骨、風池、天柱は、東洋医学の用語ですが、ここではわかりやすく、この名称を使用します。
行うときは、頭を手のひらで優しく包み込んで、ゆっくり、丁寧に、優しく、愛を持って行ってください。
また、「いつもありがとう」「ご苦労さま」と自身を労わりながら行うと、風のエネルギーが和らぎます。
風は、ものをバラバラにしたり動かしたりするエネルギーで、循環器系や神経の流れの力の源となります。
呼吸にも関係があるので、できるだけたくさん人と会話をすることもお勧めします。
誰かに話をすることや聞いてもらうことは、心の隙間(空)を埋めるという点からも、心身のバランスを整えるのにとても有効です。
ちなみに、風のエネルギーが増え過ぎているのは、60歳以上の人だけではありません。
常に時間に追われている人や、早口で早足の人、また、手足やおなかが冷えていたり、メールの返信がないことで気持ちが乱れたりする人は、年齢が若かろうが、風のエネルギーが過剰といえます。
また、東京や大阪などの大都市も、街そのものが「風」のエネルギーにあふれています。
流動的で、殺伐としていて、人が冷たい……。
逆に、田舎は「地」のエネルギーが強いといえるでしょう。
どちらがいい悪いではなくて、すべてはバランスです。
年を重ねて、風や空の体質になっても、心や体には潤いと温かさを保って、毎日を健康で幸せに過ごしたいものです。
「頭もみ」のやり方図解
行う前に…
●素手で行ってもいいが、白いゴマ油を人肌に温めたものを、少量、手に取って行うと、手のすべりがよくなる。
ゴマ油には抗酸化作用があるので、全身がサビついてくる更年期以降の年代には、安定と落ち着きを与えてくれるので、ゴマ油を使用するのがお勧め。
●自分に優しい気持ちを持って行う。
「これから頭をもんでいきますよ」と自分に話しかけて、心で自分を包み込むようなイメージを持って行う。
頭もみを行う場所

1.完骨

耳の後ろの、出っ張った骨(乳様突起)の下端に、くぼみがあります。そこが完骨の場所です。

①両手の親指を、それぞれ完骨に当てる。
その他の4指は側頭部を挟んで固定させる。
②わきを締め、親指をゆっくり優しく上下にさする。
※10往復ほど行う。
効果・効能
完骨は、アーユルヴェーダでは「土」と「水」のゾーン。水の流れをよくするので、むくみが取れ、小顔効果があります。また、頭重感やだるさの解消にも役立ちます。
2.風池

後頭部の髪の生え際にあるツボです。後頭部の中央にある凹みと、耳の後ろにある骨のでっぱりを結んだラインの中間辺りに位置しています。

①両手の親指を、それぞれ風池に当てる。その他の4指は側頭部を挟んで固定させる。
②わきを締め、親指で後頭骨の下端一帯を円を描くように動かす。円が下から上に動くときは頭皮を持ち上げるようにし、上から下に動くときは力を抜く。ゆっくり、丸く動かす。
※10回ほど回す
効果・効能
風池は、アーユルヴェーダでは「火」のゾーンです。乾いた心を温め、情熱やパワーを取り戻します。冷え症や肩こりの解消や、代謝も促進するので、丸い背中もスッキリしてきます。また、目の疲れなどの症状、イライラやモヤモヤした気持ちの解消にも役立ちます。
3.天柱

後頭部の髪の生え際、中央のくぼみ(ぼんのくぼ)の両わきにある太い筋肉の上端、左右の外側にあるくぼみにあります。

①片方の手は額に当てて頭を支え、もう片方の手の親指を同側の天柱に当てる。
②天柱に当てた指を、ゆっくりと長めに上下にさする。
※10回ほどさすったら、反対側も、同様に行う。
効果・効能
天柱は、アーユルヴェーダでは「風」のゾーンです。長めにゆっくり刺激することで、神経が落ち着き、不眠の解消に効果的です。
仕上げに

頭部全体を指の腹でまんべんなくもむ。
軽く、優しく行う。

■心配や不安なとき、さみしいときは
両手の手のひらをこめかみに当て、指全体で額を覆う。手の温もりを感じながら、自分を自分で包み込む。額の中央は急所(マルマ)で、直観力をつかさどる場所。優しく温もりを伝えることで、心身のバランスが整う。テーブルに両ひじをついて行ってもよい。