ホクロは普通、健康上の問題はありませんが、大きくなったり、盛り上がってきたりすると取ってしまいたいと思う人もいらっしゃるでしょう。
でも、ちょっと待ってください。
以前はなかったのに、急に目立ってきたホクロの中には、正常とは異なる「危険なホクロ」が隠れていることが……。
皮膚の腫瘍の中でも極めて悪性度の高い「メラノーマ」の始まりの可能性があるのです。
この危険なホクロを見落とし、安易な美容的治療を受けていると、重大な事態に陥ってしまう恐れもあるそうです。
赤須医院(皮膚科)の赤須玲子先生に「安全なホクロ」と「危険なホクロ」の見分け方と治療について、お話を伺いました。
解説者のプロフィール

赤須玲子(あかす・れいこ)
●赤須医院.皮膚科クリニック
東京都港区六本木7-18-12
シーボンビュービル4F
TEL 03-5771-2081
http://www.akasu.or.jp/
赤須医院院長。
1984年、東海大学医学部卒業。
山梨医科大学(現・山梨大学)皮膚科助手、カナダ・トロント大学病理リサーチフェローを経て、98年より現職。
確かな臨床経験と美容に精通したきめ細やかな診療が定評。
専門はシミ、シワ、ニキビ、ホクロなど。
日本皮膚科学会皮膚科専門医、アメリカ皮膚病理学会認定医。
著書に『赤ちゃん肌に変わる「顔そりスキンケア」』(マキノ出版)などがある。
ホクロの数と場所は遺伝的に決まっている
――そもそも、ホクロはどうしてできるのでしょうか?
赤須 私たちの皮膚の中には、「メラニン」という色素があります。
メラニンが多いと皮膚は黒っぽくなり、少ないと白っぽくなります。
つまり、肌の色を決定しているのがメラニン色素なのです。
メラニンは有害な紫外線を吸収し、皮膚の細胞のDNA(遺伝子の情報が書き込まれた物質)を守る働きをしています。
メラニンは皮膚の色素細胞(メラノサイト)の中に均一に存在していますが、この色素細胞が塊になって存在することがあります。
それがホクロなのです。
ホクロの多い少ないは遺伝によるところが大きく、家系的に顔や腕にたくさんホクロがある人がいます。
将来、どれくらいのホクロがどこに出てくるかは胎生期のころにおおよそ決まっています。
通常ホクロは、生後2~3年から30歳くらいまでの間に少しずつ出てきます。
最初は、ほんの小さな点のようなものですが、体の成長とともにだんだん大きくなってきます。
色は茶色か黒で均一。
形は円形ないし楕円形で、境界がはっきりします。
ほとんどが平らですが、中には盛り上がってくるものもあります。
顔のホクロは、ドーム状に盛り上がり、色が薄く抜けてくることが多いです。
こうした経過をとるホクロは、美容的に問題になることがあっても、医学的には取る必要のない安全なものです。
年を取ってからの見慣れないホクロは注意
――一方で「危険なホクロ」もあるそうですね。どのようなものでしょうか?
赤須 一見ホクロに似ていますが、悪性度の高い「メラノーマ(悪性黒色腫)」という皮膚ガンがあります。
メラニンを作る色素細胞(メラノサイト)がガン化した腫瘍です。
メラノーマは、初期はホクロと見分けがつきにくいものもあるため注意が必要です。
一方で、安全なホクロに不適切な処置を加えて、メラノーマのような悪性細胞が現れたケースもあります。
これについては後ほど詳しく述べましょう。
安全なホクロと危険なホクロの見分け方ですが、まず、30歳くらいまでに出てゆっくり大きくなるホクロは、ほとんどが心配ありません。
気を付けたいのは、年を取ってから出てきたホクロです。
特に紫外線を過去にたくさん浴びた人ほど、ある年齢に達すると一気に増える傾向にありますので、注意が必要です。
「こんな場所にホクロがあったかしら?」と気付くためには、普段から皮膚をしっかり観察する必要があります。
ちなみに、毛の生えているホクロは安全の証です。
メラノーマには、次のような特徴があり、これが安全なホクロと見分ける上での基準となります。
・左右非対称
安全なホクロは丸や楕円形ですが、メラノーマはいびつな形をしています。
・不規則で不鮮明な外形
安全なホクロは周囲との境界がはっきり区別できますが、メラノーマは輪郭が不規則で、周囲の皮膚との境界が不鮮明になっていることが多いです。
・多彩な色
安全なホクロは茶か黒の単色ですが、メラノーマは茶、黒、赤、灰白色、青など色が多彩で、まだらになっていることもあります。
・直径が6mm以上
正常なホクロは直径6mmより大きくなることは少ないので、それ以上のサイズの場合には注意が必要です。
ただし、生まれつき(幼少期から)の大きいホクロについては、6mmを超えても心配ありません。
・大きくなる、盛り上がるなどの変化が急に生じた
ホクロの細胞は本来、おとなしいもので、短期間に大きく変化することはありません。
数ヵ月程度の短期間で急に大きさに変化が生じたら要注意です。
特に、痛みやかゆみなどの自覚症状がないのに、急に盛り上がってきたり、出血をともなっているような場合には、メラノーマの中でも悪性度の高いものの可能性があります。
また、メラノーマは日本人の場合、足の裏や手のひら、爪に発生する割合が多いので、こうした部位に見慣れないホクロや皮膚の色の変化があった場合も気を付けたほうがいいでしょう。
安全なホクロと危険なホクロの見分け方

安易なレーザー治療が重大な事態を招くことも
――もし、危険と思われるホクロを見つけたら、どうすればいいですか?
赤須 先ほどの特徴に当てはまる場合には、メラノーマの可能性がありますので、皮膚科の受診をお勧めします。
メラノーマ自体、そう頻度は多くありませんが、ホクロの中には「異型母斑」(上の写真参照)と呼ばれる特異なものが存在します。
体中に複数個持っている白人などでは、そこからメラノーマが発生しやすいと考えられています。
安全なホクロかそうでないかは、ダーモスコピーという検査機器を用いると、かなりの精度で診断が可能になります。
この検査は、皮膚科で行っている、ほんの数分で済む簡便なものです。
痛みをともないませんので、気になるホクロがある場合は、皮膚科専門医を受診してください。
メラノーマは皮膚の悪性腫瘍の中で最も悪性度が高いです。
以前は治療予後がよくありませんでしたが、近年、その治療に大きな変化が起こりつつあります。
2014年に登場した「免疫治療薬」と呼ばれる薬(抗PD‐1抗体)がメラノーマに非常に有効で、副作用が少ない上、これまで治療不可能だった進行したメラノーマにも著効が現れるケースがあると、大いに注目されています。
現状ではまだ薬価が高いという問題点もありますが、メラノーマが治療可能になってきたのは画期的な出来事です。
一方、美容ニーズが高まっている昨今、安易にホクロを取るような行為を見かけることが多くなりました。
知識のない人によってホクロに処置を施され、大きくなってしまったケースを経験しました。
実例を紹介しましょう。
当時35歳の女性Aさんは、エステティックサロンでほほにあった2mm大のホクロを取りました。
あまり説明を受けないまま、キャンペーンということで、半ば無理やり取られたかたちです。
目隠しされての処置だったので、何をされたのかわからなかったということでしたが、いったんなくなったように見えたホクロが3ヵ月後、再び現れてきました。
だんだん大きくなってきたので、心配になって当院に来院されました。
ダーモスコピーで観察すると「安全なホクロ」とは異なる所見が得られましたので、患者さんには手術の必要性を説明し、除去手術をしました。
切除した組織内には、悪性を疑わせるような細胞が見られましたので、サロンでの処置が原因しているものと思われます。
ホクロの細胞は本来おとなしいものですが、物理的刺激(外傷)や温熱刺激を受けると、活発に増殖し始めることがあります。
「ホクロを引っかいていたら大きくなった」という経験のある人もいるでしょう。
ですから、ホクロを安易に取ろうとするのはよくないことなのです。
取るのならば、完全に取り残すことのないように除去しなければならないのです。
Aさんのホクロは手術後5年が経過していますが、現在まで再発していません。
大事にいたらず、ほんとうによかったと感じています。
そもそもサロンでホクロを取るのは違法行為なので、言語道断ですが、医療機関だからといって安心とは限りません。
メラノーマの知識なしにホクロの処置を行うことの危険性を、医師は再認識しなければなりません。
実際、ホクロと思ってレーザー治療をくり返していたところ、メラノーマだったという悲劇的なケースが報告されています。
美容的なホクロ除去の方法

受診のさいは美容皮膚科の専門医を
――美容の観点から安全なホクロを取りたいという場合には、どのような治療が行われるのですか?
赤須 ホクロを取る場合は、傷を残さずいかに綺麗に完全に取るかがポイントになります。
大きく分けて、レーザー治療と手術で取る場合があります。
レーザー治療は、ホクロ組織を削り取る炭酸ガスレーザーと、ホクロのメラニン色素に吸収されて焼き切るルビーレーザーがあります。
一般にレーザー治療は簡便にでき、傷残りにくいことがメリットとされていますが、ある程度の大きさのホクロや盛り上がったホクロにはあまり効果がありません。
3mm以下小さなホクロで隆起のないものは、レーザー治療が適しています。
1回の照射で、完全に取りきれない場合は、1ヵ月以上間隔を空けて、数回の照射が必要です。
一方、手術の場合は、円筒形の器具を使ってホクロをく貫く方法と、メスでホクロを切除してから皮膚を縫い合わせる方法とがあります。
前ページの写真は、鼻にできたホクロをくり貫き法で切除したものです。
傷跡もほとんど目立たないことがわかるでしょう。
一般に、くり貫く方法のほうが跡は残りにくですが、ホクロのできている場所や形によっては切除して縫う方法のほうが適していることもあります。
いずれの方法にせよ、適切かつ綺麗にホクロを治療することが望まれます。
ホクロの治療に熟練している皮膚科(美容皮膚科)の専門医をお勧めします。
――ホクロは遺伝による要因が大きいのことですが、予防はできないのでしょうか?
赤須 残念ながら、ホクロの出現は遺伝的に決まっている情報なので「出ないようにする」ことはできません。
ただし、ホクロが増えたり、大きくなったりするのには、紫外線の照射量が大きくかかわっていますので、普段からの紫外線対策は必要です。
実は、18歳くらいまでの間に紫外線対策をきちんとしておくと、後々のホクロの増え方や変化に、かなり差が出てきます。
若いときに屋外での遊びやスポーツを熱心にやっていた人は、30代以降になって急にごま塩のようなホクロが増えてくることがあります。
いったん現れたホクロは、消えることなく大きくなってきますので、早めに治療するのがよいでしょう。