解説者のプロフィール

松原のぶえ
1961年、大分県生まれ。79年に『おんなの出船』でデビュー。同曲で日本レコード大賞新人賞ほか数々の賞を受賞。2009年に慢性腎不全治療のための生体腎移植手術を受けるが、術後3ヵ月でステージに復帰。今年2月には新曲となる『十勝厳冬』を発表。実力派演歌歌手として数々のステージをこなしている。
腎臓の異常から声が出なくなった
来年で芸能生活40年を迎える私ですが、「もう歌手生命は終わりだな」と覚悟したことがありました。
原因は、慢性腎不全です。
45歳のとき、突然疲労感から抜け出せなくなり、歌うときにも声に力が入らなくなってしまったのです。
おかしいと思って病院へ行くと、腎臓が2%しか機能していないことがわかりました。
人工透析(低下した腎機能に代わって血液を人工的に浄化する療法)を受けるようになったものの、普通は4~5時間かけて全身の血液をきれいにするのに、私は3時間で全身硬直が起きて、途中で中断しなければなりませんでした。
そのため、血液の汚れが毎回残ったままとなり、やがて、顔色は青黒く、声はかすれて出なくなってしまったのです。
できるのは歌うことだけという歌手の私にとって、声がかすれるというのは、声を失ったも同然です。
もう歌をあきらめて、母が暮らす大分に帰ろうとも考えました。
そんな私を救ってくれたのが、弟でした。
弟が「僕の腎臓を提供するから、腎移植をしよう」と言ってくれたのです。
本当にありがたくて、今でも感謝しています。
そして、平成21年5月に弟の腎臓をもらい、生体腎移植手術を受けました。
弟の腎臓が私の体に適応して、正常に働き始めると、かすれて出なかった高音が出るようになったのです。
術後3ヵ月には、ステージに立ち、元気なころと変わらないほどの声で歌えました。
まるで夢のようでした。
一度はあきらめた歌をまた歌えたのですから。
今では音域がさらに広がってきた
歌手ですから、もともとのどには気を使っていましたが、声が戻ってからは、それまで以上にのどを大切にするようになりました。
特に、腎臓は免疫(病原菌から体を守る働き)にもかかわっています。
ちょっとしたカゼが重症化し大変なことになることもあります。
そのため、最も気を付けているのが、のどの加湿です。
加湿器を持ち歩き、楽屋では常に稼働させています。
のどあめも常時携帯しています。
また、寝るときには、乾燥を招く口呼吸にならないよう、口にテープを貼ります。
専用のテープもあるようですが、私は伸縮性のあるサージカルテープを細長く切って、縦に1~2本貼っています。
そして、その上から、水で湿らせたマスクをします。
私が愛用しているマスクはスポンジに似た素材でできているので、水を含ませてからギュッと絞ると適度な水分を保持して、着けていても水が垂れてくることもありません。
マスクは、外出時にも欠かせません。
それでも朝起きたときに、のどがいがらっぽいときがあります。
そんなときには、ハチミツをスプーンですくって1さじなめると、のどが滑らかになって声を出しやすくなります。
甘さがきつく感じることもありますが、寝ていた声帯が目覚める感じがします。
私は直接ハチミツをなめていますが、白湯にハチミツを溶かしたハチミツ湯も、飲みやすくてお勧めです。
また、歌った後はのどの筋肉が硬くなりやすいのですが、ここが硬いままだと、声が出にくくなります。
なので、耳の後ろから鎖骨にかけての筋肉(胸鎖乳突筋)を気が付いたときにもみほぐして、常に軟らかさを保つように心がけています。
そのほか、首を冷やさないようネックウォーマーを愛用したり、プロポリスなど健康食品も積極的に取ったりしています。
元来、面倒なことは苦手な私なのですが、のどのケアだけは欠かせません。
歌手にとって声はいちばん大事なものですし、ましてや、一度声を失いかけた私にはなおさらです。
そのかいあって、すっかり以前の声が戻り、手術から8年たった今では、高温と低温の声域がさらに広がってきています。
この健康と声を大切にして、より多くのかたに私の歌をお届けできたらと願っています。
松原さんが心がけるのどのケア

●加湿器で部屋の乾燥を防ぐ
どこでも使えるよう、加湿器を持ち歩いています。
●寝るときに口にテープを貼る
口を開けて寝ると、のどが乾燥する口呼吸になりがちです。
テープは口呼吸防止に効果てきめんです。
●外出時や寝るときにはマスク
濡れマスクは、さらに乾燥を防ぐ効果が大きくなります。
●ハチミツをなめる
私はスプーン1杯のハチミツをそのままなめていますが、白湯に溶かしたハチミツ湯を飲むのもお勧めです。
●耳の後ろをマッサージ
のど周りの筋肉の緊張をほぐすため、耳の後ろから鎖骨にかけてをもんで軟らかくしています。