解説者のプロフィール

新開省二(しんかい・しょうじ)
愛媛大学大学院医学研究科博士課程修了。
愛媛大学医学部助教授を経て、1998年より東京都老人総合研究所勤務。
2005年より現職。
低栄養についての普及と改善についての著書『50歳を過ぎたら「粗食」はやめなさい!』(草思社)が好評発売中。
日本の高齢者の多くは低栄養状態
「体のためには粗食が一番」「肉や卵はメタボのもと」「中高年になったら少食を」最近は、こういったことが「健康の常識」とされているようです。
しかし、ちょっと待ってください。
これらの考え方は、若くて、過食や肥満がある人には当てはまりますが、日本の多くの高齢者には当てはまりません。
それどころか、年を取ってもこういう考え方をしていると、脳卒中や認知症のリスクを高めてしまうのです。
私たちは、これまで延べ5000人の高齢者を対象に、疫学研究(集団を対象に病気の原因などを調べる研究)を行ってきました。
その結果から、高齢者の病気や死亡の意外な原因が見えてきました。
それは「低栄養」です。
低栄養とは、文字どおり、栄養が少な過ぎること。
「現代にそんなことがあるのか」と思われるでしょうが、粗食や少食のあまり、低栄養になる人が多いのです。

低栄養と余命の関係
低栄養の指標としては、血中のアルブミンというたんぱく質やコレステロール、ヘモグロビン、そして、肥満の指標とされるBMI(ボディマスインデックス)などが用いられます。
例えば、秋田県に住む65歳以上の1700人を対象にこれらの指標を調べ、余命との関係を見たところ、いずれも数値が低い人ほど余命が短かったことがわかりました。
低栄養の人ほど、脳卒中や心臓病を起こしやすく、認知症になりやすいことや、寝たきりになって要介護率が高まることもわかっています。
ちょっと太っているくらいが健康的
低栄養が続くと、当然のことながら、筋肉も衰えてきます。
というのも、粗食が続くと、体の中でエネルギーが不足するため、体は筋肉をアミノ酸に分解して、エネルギーを得たり、体内のあちこちの不足分を補ったりするからです。
そうなると、サルコペニア(筋肉が減少し足腰が弱る病気)や骨粗鬆症(骨が弱くなる病気)の危険性が高まり、転びやすくなったり骨折しやすくなったりして、寝たきりのリスクが高まってしまうのです。
つまり、栄養をたっぷり取らないと、老化を早めることになってしまうのです。
前述した低栄養の四つの指標のうち、一般の人がチェックしやすいのは、BMIでしょう。
BMIは体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で出る数値で、通常、22がベストで25以上は肥満といわれます。
しかし、私たちの研究結果からすると、これではやせ過ぎです。
特に高齢者は23〜27がベストで30近くまでは健康的です。
また、よく悪玉コレステロールといわれるLDLコレステロールは、健診などで140以上になるといけないといわれますが、私たちの調査結果では、160くらいまでは心配なく、むしろ100以下になると危険であることがわかっています。
一言でいうと、粗食や少食の「草食系老人」は、生命や健康の危険が大きいのです。
低栄養にならない食事7カ条
現在、私たちは、「50歳を過ぎたら粗食や少食はやめて十分な栄養を取ろう」と呼びかけています。
そのためには、1日に体重(kg)×1.3倍をグラム数にした、たんぱく質を取ることが大きなポイントになります。
ざっくりした目安ですが、これで割り出されるたんぱく質の量を5倍すると、肉・魚・卵などの重量になります。
例えば、体重50㎏の人なら、1日に65gのたんぱく質が必要で、それを取るには325の肉や魚や卵が必要です。
低栄養にならない7ヵ条を挙げると以下になります。
①食事は1日3回バランスよく
②動物性たんぱく質は十分取る
③肉と魚はほぼ同量にする
④油脂も不足しないように取る
⑤牛乳は毎日200㎖飲む
⑥野菜は多種類を取り、加熱して摂取量を増やす
⑦食欲がないときはおかずから食べてごはんを残す
一日にできるだけ多種類の食品をとる
このほか、1日に多種類の食品を取ることも大事です。
私たちは、1日に1回でも取ったら(量は問わない)、1点と数える「多様性スコア」というものを推奨しています。
目指せ10点!「さあにぎやか(に)いただく」

「さあにぎやか(に)いただく」と頭文字で覚えて、7点以上を目指してください。
実際に、低栄養が続いて危険な人でも、この多様性スコアが改善されていくと、元気で活動的になって筋肉も増え、血液検査の結果も改善していきます。
みなさんも50歳を過ぎたら、ぜひ、ここで述べたことを心掛け、肉や魚をしっかり食べて、筋力を維持して、元気で長生きしてください。
