解説者のプロフィール

清澤源弘(きよさわ・もとひろ)
●清澤眼科医院
東京都江東区新砂3−3−53 アルカナール南砂2階
03-5677-3930
https://www.kiyosawa.or.jp/
清澤眼科医院院長。
1978年、東北大学医学部卒業。同大学院修了。北里大学病院、フランス原子力庁研究員、米国ペンシルバニア大学フェロー、米国ウイリス眼科病院臨床フェロー、東北大学講師、東京医科歯科大学眼科助教授を経て、2005年より現職。神経眼科分野のパイオニアとして、最新鋭機材を揃えた医院であらゆる疾患の診療を行っている。順天堂大学非常勤講師、東京医科歯科大学臨床教授。日本眼科医会学術部委員。
放置していると失明に至る
近年、患者数が増加している加齢黄斑変性は、年を取ると誰にでも起こる可能性のある目の疾患です。
とはいっても、加齢黄斑変性は進行すると失明率が高く、その点で老眼や飛蚊症などの、一般的な目の老化とは深刻度が大きく異なります。
なぜ、年齢とともに黄斑変性が発症しやすくなるのでしょうか。
まず、病名についている「黄斑」とは、網膜中央部にある「黄斑部」のことです。
ここは、物の形や大きさ、色や距離など光からの情報の大半を識別する場所。
それだけに黄斑部は、長い年月をかけて光にさらされています。
つまり、年齢とともに黄斑部には障害が発生しやすくなるわけです。
その障害を修復しようとする過程で、網膜に栄養を送っている脈絡膜から新たな血管が網膜に向かって延びます。
すると、目によくない新生血管(脈絡膜新生血管)ができてしまいます。
新生血管は、その構造がぜい弱で、網膜の表や裏で出血を起こすのです。
それにより、網膜の黄斑部が変形すると、物がゆがんで見える変視症や、視野の一部に見えない暗点が出て、やがて視力低下が起こります。
放置すると最悪の場合、失明に至ります。
こうした理由から、眼科では、加齢黄斑変性を発症した患者さんに対しては、元凶の新生血管をなくすために、眼内に特殊な薬剤を注射する治療法が行われるのです。
カロテノイドが必須栄養素のビタミンAに変化
一方、黄斑部はカロテノイド(カロテン)という色素成分が原料になっています。
カロテノイドは黄色や赤色などの天然にある色素です。
このカロテノイドが体の中に入ると、皮膚や目の網膜を正常に保つ必須栄養素のビタミンAに変化し、やがて網膜の視物質に変化します。
カロテノイドは、動物や微生物の組織にも存在していますが、果物類や野菜類にも多く、とりわけニンジン、トマト、ホウレンソウなどの緑黄色野菜での含有量が豊富です。
そのため、ニンジンなどの緑黄色野菜を取ると、網膜の黄斑部にカロテノイド成分が取り込まれて利用されるわけです。
眼科の領域でも、カロテノイド成分の加齢黄斑変性に対する予防効果はよく知られています。

加齢黄斑変性になるリスクが低減
この予防効果を実証する疫学調査が、アメリカのハーバード大学で行われました。
同大学では1980年代から20年以上にわたり、アメリカ人に多発する加齢黄斑変性と食事の関係を調べる大規模な疫学調査を続けてきました。
その疫学調査の結果が同大学でまとめられ、2015年10月に米国医学会の機関誌『ジャマ・オフィシャルモロジー』(JAMA Ophthalmology)に掲載されたのです。
内容を要約してお伝えしましょう。
疫学調査の対象者は、50歳以上、延べ10万人の男女です。
その人たちが20年以上もの間、食事で何を食べていたかを追跡しました。
そして、追跡データをカロテノイド成分を多く取っていた群と少なく取っていた群に分けて、加齢黄斑変性の発症率を比較したのです。
その結果、ルテインやゼアキサンチンといったカロテノイド成分を含む食品をいちばん多く取っている群は、いちばん少ない群に比べて、重度の加齢黄斑変性になるリスクが40%低いことが確認されました。
またβクリプトキサンチン、αカロテン、βカロテンなど、その他のカロテノイド成分を含む食品をいちばん多く取っている群は、いちばん少ない群に比べて、重症の加齢黄斑変性になるリスクが25~35%低いことも確認されました。
分析結果から、カロテノイド成分の加齢黄斑変性への予防効果が改めて実証されました。
カロテノイド成分を豊富に含む食品を食事で取っていると、年齢が進んでも、重症の加齢黄斑変性まで進行しない確率が高くなることがわかったのです。

毎日とり続けることが必要!お勧めは「ニンジンジュース」
実証された効果を得るためには、ニンジンなどカロテノイド成分を含む食品を毎日、継続して取ることが必要です。
より手軽に継続できる方法としては、手作りのニンジンジュースがお勧めです。
ただ、こうしたセルフケアだけで加齢黄斑変性を治そうとするのは勧めらません。
あくまでも、予防法として活用しましょう。
障子のマス目がゆがんで見える、ぼやけて見える、欠けて見えるといった症状が一つでもある場合には、加齢黄斑変性の発症が疑われます。
早めに眼科の検査を受け、手遅れにならないうちに治療をお始めください。