解説者のプロフィール

関泰一郎(せき・たいいちろう)
日本大学生物資源科学部教授。
http://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~cls/laboratory/labo4/post-18.html
1986年、日本大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士前期課程修了。博士(農学)。米国ミシガン大学医学部研究員、日本大学生物資源科学部准教授等を経て2011年より現職。専門は栄養生化学。共著に『健康栄養学 健康科学としての栄養生理科学』(共立出版)がある。
重要なのはにおい成分
ニンニクは、食べれば元気になる、精力がつくといった強壮作用で知られています。その一方で、独特なにおいが苦手という人も少なくありません。
しかし、ニンニクのにおい成分には、さまざまな健康効果があるのです。
まず、ニンニクの細胞の中にはアリインという物質があります。このアリインそのものに、においはありません。さらに、ニンニクの別の細胞にはアリナーゼという酵素があります。
ニンニクの細胞が傷ついてアリインとアリナーゼが触れ合い、反応すると、アリシンという成分が作られます。このアリシンが、ニンニクのにおいを生みだすのです。
アリシンは、アリインとアリナーゼが触れ合うと、即座に生まれます。調理前のニンニクがさほどにおわないのに、刻むと、とたんに強いにおいを放つのは、アリシンができるからです。
その一方で、アリシンはとても不安定な物質です。すぐに化学反応を起こし、さまざまな物質へと変化します。それらの物質の多くもニンニクのにおいのもととなります。
私たちは、このニンニクのにおい成分の一つであるメチルアリルトリスルフィド(MATS)に、「血栓の形成を抑制する働き」があることを突き止めました。
MATSは、私の前任でニンニク研究の第一人者である有賀豊彦先生が、1980年代に抗血小板作用を発見したにおい成分です。
有賀先生は、まず、おろしたニンニクに高温の水蒸気を通して調整した精油(ガーリックオイル)を用いた実験を行いました。このガーリックオイルには、さまざまなにおい成分が含まれています。その一つがMATSです。

アスピリンと同様の働きをする
そもそも、血栓はどうしてできるのでしょうか。
ごく簡単に言うと、高血圧や糖尿病で血管に負担がかかると、血管の動脈の壁が弾力を失い、もろくなります。これが動脈硬化です。
動脈硬化が進むと、血管の内壁が分厚くなり、こぶのようなものができます。このこぶが破裂すると、血液中にある血小板という細胞成分が集まり、破れた個所をかさぶたのように覆い、ふさぎます。このかさぶたが血栓です。
血栓は、血管の内壁からはがれ落ちて、血管を詰まらせてしまうことがあります。
その結果、脳梗塞(脳の血管に血栓が詰まって起こる病気)や心筋梗塞(心臓の血管が詰まって起こる病気)などの、重篤な病気に至る場合も少なくありません。
かさぶた(血栓)は、トロンボキサンA2という物質によって形成が促されます。この物質は、血小板を凝集させる力が強いのです。MATSは、体内でこのトロンボキサンA2が作られないように働きます。トロンボキサンA2が少なければ、血栓はできにくくなります。
欧米では、血小板の凝集を抑える薬として、アスピリンが一般的に用いられています。MATSの働きは、このアスピリンと同じです。
私たちは、MATSの効果を確認するため、マウスを使った実験を行いました。マウスには、あらかじめMATSをはじめとする、さまざまなニンニクのにおい成分を投与しておきます。
その上で、マウスの毛細血管をレーザーで傷つけ、人為的に血栓ができるように促したのです。実験の結果、何も投与しなかったマウスは、5回のレーザー照射で血栓ができました。一方、MATSを投与したマウスは10回の照射を要しました。
つまり、それだけ血栓ができづらかった(血栓のできるスピードが遅かった)のです。
私たちは、ニンニクのほかのにおい成分にも、血小板の凝集を遅らせ、血栓をできにくくする働きを見出しました。しかし、一番強く働くのはMATSです。
摂取の目安は1週間に2回、2~3片
人間の場合、ニンニクをどれだけ食べれば血栓ができづらくなるのかというデータは、今のところありません。ですが、私自身は、1週間に2回くらい、2~3個の鱗片を食べれば可能性はあるのではないかと感じています。
ただ、ニンニクのにおい成分が持つ血小板凝集抑制作用は、アスピリンと同様、胃の粘膜をひどく荒らします。胃潰瘍などを防ぐためにも、食べ過ぎにはご注意ください。