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【研究】ニンニクのにおい成分「DATS」とは? 実験で効果が判明

【研究】ニンニクのにおい成分「DATS」とは? 実験で効果が判明

1990年代、アメリカでガンの予防が期待できる食品群を一覧にする「デザイナーフーズ計画」というプロジェクトが発足しました。ニンニクは、そのピラミッド型の一覧図の頂点、すなわち、最もガン抑制効果が期待できる食品の一つとされています。私たちもニンニクのにおい成分を調べました。【解説】関泰一郎(日本大学生物資源科学部教授)

ニンニクの臭いに免疫増強作用がある

 1990年代、アメリカでガンの予防が期待できる食品群を洗い出して一覧にする、「デザイナーフーズ計画」というプロジェクトが発足しました。

 ニンニクは、そのピラミッド型の一覧図の頂点、すなわち、最もガン抑制効果が期待できる食品の一つとされています。

 この発表を受け、私たちもニンニクのにおい成分のガン抑制作用について調べました。その結果、ジアリルトリスルフィド(DATS)という成分に、高いガン抑制効果があることがわかったのです。

 DATSの「トリ(tri)」は、硫黄元素(S)が3個あることを意味します。Sを含む硫黄化合物は、ニンニクの独特な臭気を生みだします。またこれらの硫黄化合物は、免疫増強作用があるといわれています。

 私たちがDATSを発見する以前は、Sが2個のジアリルジスルフィドが、ニンニクのガン抑制成分として知られていました。しかし、Sが3個のDATSのほうが、その作用が強いことがわかったのです。

「ジアリルトリスルフィド」に高いガン抑制効果がある

 私たちは、シャーレの中で培養したガン細胞に、DATSを加えて経過を観察しました。その結果、ガン細胞の増殖が止まり、「細胞の自殺」ともいわれる、アポトーシスが起こるのを確認したのです。

 アポトーシスとは、不要な細胞や有害な細胞が、あらかじめ遺伝子で決められたメカニズムによって細胞死する現象です。私たち人間の体は、健康体であっても常にガン細胞が生まれています。

 ですが、それらは、アポトーシスによってすぐに消滅します。ガン細胞が増殖して腫瘍化するのは、何らかの原因によってアポトーシスが起こらなくなるためです。

 私たちは、マウスを使った実験でもDATSのガン抑制効果を確認しました。DATSを投与したマウスは、ガン細胞を植えても、さほど増殖しなかったのです。

 細胞の中には、チューブリンというたんぱく質があります。チューブリンは、普段は細胞内で、骨格の役目を果たしています。そして細胞が分裂するさいには、いち早く分解・変形します。そのため、チューブリンは「細胞分裂の司令塔」と呼ばれています。

 DATSは、ガン細胞が分裂するさいにチューブリンと反応し、分裂を抑制してアポトーシスを促します。ちなみに、正常な細胞のチューブリンには、DATSは反応しません。

抗ガン剤の副作用や投与量の軽減に役立つ可能性

 DATSは近年、抗ガン剤の副作用や投与量の軽減に役立つかどうかが注目されています。私たちも、細胞レベルの実験で、DATSの投与によって、人体への副作用の強い、白血病の治療薬の使用量を減らせる可能性があることを確認しました。

 私たちの研究は、ガン細胞そのものや、マウスを用いた実験なので、これらの知見を直接人間に当てはめることはできません。

 人間の場合、どれだけの量のニンニクを食べれば、ガン抑制効果が期待できるかは、今のところわかっていません。ただ、ニンニクにはDATS以外にも、ガン抑制効果が期待できるにおい成分が数多くあります。

 継続して食べれば、アメリカでの研究成果に見られるように、ある程度の効果は期待できるのではないでしょうか。

刻んで油と一緒に取るのがお勧め

 ガン抑制効果が期待できるDATSも、血栓をできにくくするMATSも、ニンニクのにおい成分です。ただし、ニンニクのにおいをかぐだけでは、効果が期待できるだけの濃度には足りません。

 また、におい成分を作るアリナーゼは、酵素であるため、熱に弱いという特性があります。生のニンニクは、調理前にレンジにかけるとにおいが消えます。これはアリナーゼが壊れて、におい成分のもととなるアリシンが作られないためです。

 においを消すにはよいですが、ニンニクの薬効を得ることはできません。また、ニンニクを切らずに丸ごと調理しても、アリシンはできません。

 ニンニクのにおい成分を効率的に取るためには、まず生の状態でニンニクをしっかりと刻んだり、すりおろしたりしてアリシンを作ります。その後、数分間おけば、アリシンがDATSやMATSへと変化します。

 DATSとMATSは、どちらも揮発性で熱に弱いため、加熱は最短に留めます。また、どちらも脂溶性で油とよくなじむため、オリーブオイルなどと合わせて取ることをお勧めします。

ニンニクのにおい成分を出すために切り刻んだり、すりおろしたりすることが重要

解説者のプロフィール

関泰一郎(せき・たいいちろう)
日本大学生物資源科学部教授。
http://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~cls/laboratory/labo4/post-18.html

1986年、日本大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士前期課程修了。博士(農学)。米国ミシガン大学医学部研究員、日本大学生物資源科学部准教授等を経て2011年より現職。専門は栄養生化学。共著に『健康栄養学 健康科学としての栄養生理科学』(共立出版)がある。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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