
点眼薬をささなければ徐々に視神経が損傷する
緑内障は、目と脳をつないでいる視神経が障害され、視野が少しずつ狭くなっていく病気です。日本では、中途失明の第1位はこの緑内障です。
緑内障の主な原因は、高い眼圧(眼球内の圧力)であることがわかっています。
眼圧は、房水(目の中を循環している水分)によって調整され、眼球の形を保つ働きがあります。この房水が排出されにくくなって流れが滞ると、眼圧が高くなり、視神経が圧迫されます。こうして視神経の損傷が進むと、やがて視野が欠けてくるのです。
したがって治療の基本は、眼圧を下げることです。近年、眼圧を下げるいい点眼薬も増えています。実際に、治療で眼圧が下がると、約6割の人は緑内障の進行が止まります。
ところが、残りの約4割の患者さんは、眼圧が下がっても進行がなかなか止まりません。
それはなぜでしょう。
私たちは、その要因を追究するために、全国から眼圧治療をしてもよくならない患者さんに来ていただき、さまざまな角度から検証してきました。
そのなかには、ふだん点眼薬をあまり使っていないという患者さんもいました。緑内障は、なかなか自覚症状が現れない病気なので、油断してしまうのです。検査の前日だけは、点眼薬をさすので、眼圧が下がりますが、ふだんはささないので高いまま。それでは、徐々に視神経が損傷し、視野も欠けてくるでしょう。

ですから、緑内障の治療が始まったら、眼圧を上げないよう、点眼薬の治療がとても大事だという意識を持ってください。日本人には眼圧が必ずしも高くない正常眼圧緑内障の患者さんが多いのですが、その場合もやはり眼圧を下げることが有効だとわかっています。
緑内障を進行させる要因は眼圧以外に複数ある!
さて、私たちの研究で、眼圧以外にも、緑内障を進行させる可能性を持つ要因が複数あることがわかってきました。どのような要因があるのか、主なものを見てみましょう。
❶血流不全
緑内障のある目では、視神経乳頭(視神経の束が集まっているところ)の毛細血管がなくなり、視神経が欠損しています(上の写真参照)。しかしそうなる前に、まず網膜の毛細血管の血流が悪くなります。血流が悪くなると視神経に栄養や酸素が届きにくく、視神経が弱くなっていきます。
緑内障の視野に異常がない段階の「前視野緑内障」でも、OCT(光干渉断層計)という眼底の3次元撮影が可能な検査機器で網膜を見ると、血流不全が確認できます。
❷酸化ストレス
酸化ストレスとは、活性酸素(老化や病気を招く酸化力の強い酸素)によって引き起こされる、生体へのさまざまな有害作用のことです。活性酸素は、加齢、紫外線、喫煙、ストレス、食品添加物などによって産生されます。それに対抗する抗酸化力が弱いと、細胞や血管などが酸化によって傷つきます。
私たちの研究で、酸化ストレスが高い(抗酸化力が低い)と、緑内障になりやすいことがわかっています。
❸強度の近視
強度の近視では眼球(眼軸)が長くなり、眼球の体積も大きくなります。すると網膜が圧迫されるうえに、網膜上の血管や視神経が引き伸ばされます。そのため網膜の血流が悪くなり、視神経も脆弱になって障害を受けやすくなります。
これほかにも、加齢、慢性炎症(自己免疫疾患)、低血圧、高血圧の過剰治療による低血圧、血管収縮、片頭痛、心臓の病気、貧血、肺の疾患(CОPD)、睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな要因が、緑内障のリスクを高めます。
有酸素運動や果物緑黄色野菜がお勧め!
老眼に代表されるように、加齢とともに、目の組織は柔軟性を失い、眼球もかたくなっていきます。そして眼圧が上がるたびに、視神経を圧迫するようになります。そういうなかで、血流障害や酸化ストレスなどがあると、毛細血管が傷んでなくなり、長い期間にわたり視神経が障害を受けます。
緑内障は、全部の視神経が一度に悪くなるわけではなく、部分的に悪くなります。視野が障害されている狭い部分は末期ですが、その周辺には初期や中期の段階の障害が混在しています。そうした初期、中期のものが進行しないようにするには、眼圧の変動を抑える一方、血流を改善したり酸化ストレスを抑制したりすることが大事なのです。
血流改善には、有酸素運動などの補助療法が有効です。1分間の心拍数を100〜120回まで上げる、少し汗ばむくらいの運動です。運動で血流がよくなると、血管の内皮機能が改善し、血管の炎症や動脈硬化を防いでくれます。こうした軽い運動でも、脳血流は6倍に増えるそうです。
手軽にできる運動としてお勧めしたいのは、ウォーキングです。反対に、息が続かなくなるような激しい運動は、酸化ストレスを増やすので、緑内障の人は控えてください。

少し汗ばむくらいのウォーキングがいい
酸化ストレスを抑えるには、緑黄色野菜や果物などをとるといいでしょう。これらの食品には抗酸化作用の強いポリフェノール(フィトケミカル)が豊富に含まれています。なお、ミカンの皮にはヘスペリジンというポリフェノールが多く含まれています。この成分が、視神経の酸化ストレスを抑制し緑内障を予防する効果を持つことが、私たちの研究でわかっています。
私たちは、ОCTで計測された視神経乳頭の断層画像を定量化し、緑内障の危険因子を自動で分類できるソフトウエアを開発しました。このソフトウエアを活用すると、個々の緑内障の病態を自動で細分化でき、患者さんの病態に最適な医療に近づけることができます。
緑内障は、強度近視や家族に緑内障の人がいる場合など、発病しやすい条件がいくつかあります。そういうリスクを持つ人でも、早いうちから全身の血液循環や酸化ストレスに気をつけて、眼圧を上げない生活を心がければ、予防・進行防止は可能です。
ぜひ、今日からできることを始めてください。
解説者のプロフィール

中澤徹(なかざわ・とおる)
1995年、東北大学医学部卒業。
2002年、同大学大学院医学系研究科博士課修了。医学博士。
眼科専門医。米国ハーバート大学眼科耳鼻科病院で3年間の博士研究員を経て、2007年、東北大学病院眼科講師。
2011年、東北大学医学系研究科眼科教授。
「自分にしてほしい最善の医療を低コストで」をテーマに個別化医療の開発に取り組んでいる。