
腸内環境を整える健康づくりの味方!
コンブを水に漬けて密閉し、冷蔵庫に約10日間保存して作る「コンブ酵母」が話題になっています。
水に漬けただけの「コンブ水」と異なり、酸素を遮断するため発酵が起こり、もともとコンブに付着していた乳酸菌や酵母など、増殖に酸素を必要としない微生物が増加します。このコンブ酵母を摂取することは、健康づくりの一助になると考えられます。
ご存じのように乳酸菌は、いわゆる善玉菌と呼ばれる物の代表です。乳酸菌は口からとっても、生きたまま腸まで届かないともいわれますが、死骸であっても善玉菌のえさになり、腸内環境を整える作用があります。
酵母もまた、腸内において善玉菌を活性化します。
さらに、乳酸菌と酵母は非常に相性がいいのです。これらが共生することで、相乗効果も期待できます。
加えて、コンブには水溶性食物繊維も豊富に含まれます。
コンブを水に漬けると、表面がヌルヌルし、水がとろみを帯びてくるでしょう。これが水溶性食物繊維です。水溶性食物繊維も、腸内で善玉菌などのエサになるので、腸内環境の改善に役立ちます。
私は常々、「腸内環境が整っていれば健康でいられる」といっています。
私たちの腸内には、100〜3000種類の細菌が、100兆〜1000兆個も棲息しています。一般に、人間の細胞数は60〜70兆個といわれるので、その10倍以上もの腸内細菌が存在していることになります。
腸以外に、皮膚や口腔、膣などにもたくさんの微生物がいて、消化や吸収、解毒、免疫といった重要な生命活動を共同で行っています。
私たち人間は、自分だけで生きているわけではありません。こうした多くの微生物が私たちの体内外で生態系を形成することで、私たちの生命を維持しているのです。
発酵食品を手作りすると腸内細菌の種類が増える
私は栃木県の那須烏山市というところで、公立診療所の所長として勤務しています。
大学卒業後、ウイルスの研究をするためにアメリカに留学し、帰国後は大学病院で小児科医として働いていました。
そんななかで私は、「人間の健康は食が大きく関係している」ということに気づきました。そして、食材を生み出す農業に目を向けるようになったのです。
今は、診療所の裏に畑を借りて、農薬などは使わず、作物を栽培しています。調味料や発酵食品など、生活に必要な物はできるだけ手作りしています。
日々、畑仕事をしていると、作物に養分を供給しているのは土であり、土を豊かにしているのは土中の微生物である、ということがわかります。
健康は食が基本であり、食は農が作り、農は微生物に支えられている。つまり、私たちの健康は、微生物が握っているということです。
胎児の腸内は無菌ですが、生まれた直後から細菌が棲みつき始めます。それから一生、体の細菌が外界の細菌とコミュニケーションを取りながら、私たちの体を調整していくのです。
腸内細菌は、免疫機能のボリュームにたとえられます。
免疫機能とは、病原菌やガン細胞などの異常な細胞を排除し、健康を維持するための防御システムです。免疫機能が正常に働いていれば、病気を未然に防ぐことができます。
逆に免疫機能が低下すると、感染症やガンなどの病気にかかってしまいます。
また、免疫が過剰反応して起こるのが、アレルギーや自己免疫疾患です。本来は反応しなくてもいい花粉やダニ、ダイズや卵、ソバといった食品まで、有害な異物と勘違いし、過敏に反応して排除しようとします。それが、鼻水や涙、湿疹、嘔吐、下痢という形で現れるのです。
自己免疫疾患では、本来反応すべきではない自分の細胞を異常な細胞として排除します。甲状腺ならバセドウ病、関節なら関節リウマチ、腸管なら潰瘍性大腸炎になります。
免疫が過剰反応すると、人体にとって本来異物である腸内細菌は、排出されてしまいます。
かといって、免疫が弱くなると、腸内細菌が共存している人体が、生命の危機に陥ります。
腸内細菌は自分が排出されず、共生先が死なない程度に、免疫機能のつまみを調整しているのです。
先述したように、腸内細菌は100〜3000種類。多種類の腸内細菌がいると、さまざまな局面に対応できます。種類は多いほうがいいのです。
そのためには、精製された食品だけでなく、自然の物を自然な状態で食べることをお勧めします。特に、発酵食品を手作りすると、素材についている微生物や、仕込んだ場所に浮遊する微生物を、体内に取り込むことができます。これが、多様な腸内細菌のもとになるのです。
コンブ酵母には、海水由来の多様な乳酸菌と酵母が含まれていると予想されます。免疫機能を正常にし、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、ガンやアレルギーなどの予防・改善に、大いに役立つでしょう。
解説者のプロフィール

本間真二郎(ほんま・しんじろう)
七合診療所所長。
1969年生まれ。札幌医科大学医学部卒業後、同大附属病院、旭川赤十字病院などに勤務。2001年より米国・国立衛生研究所にてウイルス学・ワクチン学の研究に携わる。帰国後、札幌医科大学新生児集中治療室室長に就任。2008年、七合診療所所長に着任、地域医療に従事しながら、自然に添った暮らしを実践。小児科医。2児の父。著書に『病気にならない暮らし事典』『病気にならない食と暮らし』(いずれもセブン&アイ出版)。