解説者のプロフィール
石橋輝美(いしばし・てるみ)
●大津整骨院
神奈川県横須賀市大津町2-1-21
TEL 046-836-0062
大津接骨院院長。ペインシフト研究会主宰。1983年に、代替療法として「ペインシフト療法」を考案し、30年以上にわたって研究活動を継続している。刊行した11冊のペインシフト関連の書籍は、累計300万部を突破。患者の痛みやつらさを和らげるべく、現在も精力的に治療活動を行っている。
腸の不調が関節の痛みやコリとして現れる!
『壮快』2018年6月号で、私が「へそさすり」をご紹介したところ、多くの反響が寄せられているそうです。へそさすりによって、めまいや耳鳴り、不眠、便秘、夜間頻尿、腰やひざなどの痛みまで改善した事実を知っていただけたのは、私にとっても大きな喜びです。
私の治療院を訪れる多くの患者さんは、体に痛みや不快な症状があって医療機関を受診したのに、「どこにも悪い箇所はない」と診断され、悩みを抱えたまま毎日を過ごしていました。
このお悩みを解消するために私が考案したのが、おなかにアプローチするへそさすりなのです。私は、5年ほど前から、患者さんにへそさすりを本格的に勧め、大きな成果を上げています。
では、あらためて、へそさすりがもたらす効果についてお話ししましょう。
おなかには、意志とは無関係に血管や内臓をコントロールする、自律神経が集中しています。自律神経には、活動時に働く交感神経と、休息時に働く副交感神経があり、互いに拮抗しながらバランスを取り、私たちの健康を維持しています。
ところが、ストレス過多や生活習慣の乱れなどにより、自律神経のバランスがくずれると、体に痛みや不快な症状が現れます。これらの症状が、前述したような、本人は実感しているのにその原因が見つからない、「不定愁訴」と呼ばれるものです。
大腸と小腸は、免疫機能の約7割を担い、自律神経のバランスの影響を大きく受ける器官です。自律神経が整っているときは腸も正常に働きますが、自律神経のバランスがくずれると、腸の機能が低下します。
すると、食べ物が、小腸での消化・吸収が不十分なまま大腸に押し出され、その未消化物が、小腸と大腸のつなぎ目の回盲部に滞留します。こうして、下腹部が張った重苦しい状態になり、ガスが発生したり、便秘や下痢になったりするのです。
ガスが腸内に滞ったり移動したりすると、各関節にも痛みやコリが出る場合があります。このように、内臓の不調が体の表面の不定愁訴として現れることを、「内臓体壁反射」といいます。例えば腰や肩が、おなかの不具合を「痛い」と代弁しているわけです。
おなかをさすり温めればギックリ腰の痛みも軽減
ここで、簡単な方法で、おなかの健康状態をチェックしてみましょう(下図参照)。
■おなかの健康状態のチェック法

みぞおちには、自律神経が集まり、太陽の光のように全方位に神経を広げている「太陽神経叢」というエリアがあります。ここは、大腸と小腸をはじめ、各内臓の働きを神経でつかさどるという重要な役割を担っています。ですから、腸が不調になると、みぞおちを押し込んだときに違和感や痛みを覚えるのです。
■腸の構造と太陽神経叢の位置

そこで有効なのが、おなかに優しく刺激を与えて自律神経を整える、へそさすりです。
へそさすりは、ガスの進行方向に沿って腸をなでるイメージで、おなか周辺を時計回りにさすり続けます。まず、みぞおちエリアをさすり、次に大腸エリア、小腸エリアの順にさすりましょう。
すると、腸のぜん動運動(便を送り出す動き)が促進され、ガスが流れやすくなります。また、血液やリンパの循環がよくなることで、臓器が活発に働くようになります。腸の機能が上がれば、自律神経のバランスも正常化します。
こうして、便秘や下痢はもちろん、内臓体壁反射による痛みなど、さまざまな不定愁訴が改善していくのです。ちなみに、ギックリ腰のような急性の痛みでも、おなかをさすって温めれば、痛みは軽減します。
副交感神経が優位になり、体がリラックスした時間が増えれば、体の痛みも、しだいに軽減します。この時間をコツコツと積み重ねれば、痛みは確実に消えていきます。へそさすりは、痛みを忘れた状態を意識づける作業、と覚えてください。
「へそさすり」の基本のやり方
「へそさすり」の体勢
●あおむけになって、リラックスした状態で行う。


●勤務先や外出先など、あおむけになれない場合は、背もたれに体を預けながら、なるべくあおむけに近い体勢で行う。
「へそさすり」のやり方
①~③の順で、1日1セット以上行う。就寝時に行うと入眠しやすい。時間がなければ①のみでもよい。
※服の上からさすってよい。
※強くさすったりもんだりしないこと。
❶太陽神経叢(みぞおち周辺)エリア

●みぞおちの右下に手のひらを置き、時計回りに円を描くように、ゆっくりとさする。1周5秒が目安。これを4~5分くり返す。
❷大腸エリア

盲腸周辺(おなかの右下)に手のひらを置き、時計回りに円を描くように、おなかの外側をゆっくりとさする。1周5秒が目安。これを4~5分くり返す。
❸小腸エリア

へその右下に手のひらを置き、時計回りに円を描くように、おなかの内側をゆっくりとさする。1周5秒が目安。これを4~5分くり返す。
腸を冷やさずに過ごせば、秋以降は不調が出にくい
今年の夏は全国的に、非常に厳しい暑さが続きました。暦のうえではもう秋のはずでも、まだ残暑が続いていたりします。
熱中症にならないよう、エアコンで室温を下げ、水分や塩分をとることは必要でしょう。しかし、体を冷やし過ぎることは、長い目で見ると、決してよいことではありません。
特に、短いパンツやスカートをはき、足を露出した状態でエアコンの風を受けたり、冷たい飲み物を多くとったりすると、腸を直接冷やすことになります。腸が冷えると、便秘や下痢が起こるだけでなく、内臓体壁反射による痛みなど、さまざまな不定愁訴が現れます。
また、腸は自律神経に支配されていますが、自律神経は、「セロトニン」という神経伝達物質によってバランスが取られています。実は、セロトニンの約9割は、腸で作られているのです。
脳と腸は密接に関係し、ストレスは腸に直にダメージを与えます。腸の働きが悪化してセロトニンの分泌量が減ると、自律神経のバランスが乱れたり、ストレスへの抵抗力がさらに落ちたりする悪循環に陥ります。
こうして、体を冷やし過ぎるという夏のツケは、さまざまな不定愁訴として現れます。よく「夏バテ」といいますが、実は、夏バテは夏に出るのではなく、夏の不養生が顕在化して秋に出るものなのです。不定愁訴の「愁」の字にも、「秋」が入っているとおぼえましょう。
おなかを丹念にさすることを毎日の習慣にすれば、さまざまな不調が軽減されます。ぜひ、今日から始めてください。
●みぞおちに手を当て、親指を除く4本の指で深く押し込んでみてください。
そのときにズシンとした感覚や痛みを感じた場合、腸の健康状態がよくない可能性が高いといえます。