
「へそさすり」はヴァータを整える効果がある
私は、インドの伝統医学であるアーユルヴェーダの専門医です。
アーユルヴェーダでは、すべての人は、「ヴァータ(活動)」「ピッタ(燃焼)」「カパ(滋養)」と呼ばれる、三つのエネルギーが備わっていると考えられています。
そして、この三つのエネルギーのバランスが、その人の健康に影響を及ぼすのです。
今回ご紹介する「へそさすり」は、3種のエネルギーのうち、特にヴァータを整える効果が期待できます。
現代人はエネルギーバランスが乱れている!
ヴァータは、風のような性質を持ったエネルギーで、体内での運搬や排出、吸収などの機能をコントロールしています。
一言にヴァータといっても、頭から下へ向かうもの、全身をくまなく循環するものなど、さまざまです。
動き方によって、名称や役割が異なります。
例えば、胸から上へと向かうエネルギーは、「ウダーナヴァータ」と呼ばれます。
呼吸や活気など、心身が活発に働くときに優勢になるエネルギーです。
一方、胸から下へと向かうエネルギーは、「アパーナヴァータ」と呼ばれます。
休息時に優勢になり、大腸や泌尿器、女性器系に関係しています。
この二つのエネルギーの働きは、西洋医学でいう自律神経(意志とは関係なく血管や内臓を働かせる神経)に似ています。
ウダーナヴァータは、体が活発になるときに働く交感神経に、アパーナヴァータは、体がリラックスしたときに働く副交感神経に対応します。
ウダーナヴァータとアパーナヴァータは、1対1のエネルギーバランスが理想です。
しかし、現代人は、日々のストレスや寝不足などが原因で、このバランスが乱れています。
心身をリラックスさせる時間が少ないため、交感神経に対応するウダーナヴァータが優勢になっている人が、圧倒的に多いのです。
ウダーナヴァータが強過ぎると、便秘や下痢、頻尿、下半身の冷え、肩や首のコリ、動悸、血行不良といった症状が起こりやすくなります。
特に女性の場合は、月経不順などの婦人科系の症状にもつながるので要注意です。
そこで、へそさすりです。おなかをさすることで、弱まったアパーナヴァータの力が増し、理想的なエネルギーバランスに整いやすくなるのです。
アーユルヴェーダの「へそさすり」
ぬるま湯で半身浴をしながら行うのがお勧め
では、アーユルヴェータの観点から、へそさすりを行うときの注意点をご説明しましょう。
へそさすりは、リラックスした状態で行ってください。
40度未満のぬるま湯で、ゆっくりと半身浴をしながら行うのがお勧めです。
もちろん、部屋であおむけになった状態で行ってもかまいません。
盲腸(右下腹部)の辺りを起点にして、時計回りに腹部全体を、大きくゆっくりとさすります。
手のひら全体を使って、優しくなでていきましょう。
強く押したり、もんだりするのは厳禁です。
白ゴマ油でマッサージすると効果がアップ!
へそさすりの効果をさらに高めたい人は、マッサージオイルとして白ゴマ油を利用するといいでしょう。
生のまましぼった白ゴマ油は、アーユルヴェーダでは、ヴァータの乱れを整える力があるとされています。
白ゴマ油は、「太白ゴマ油」という名前で、スーパーなどで手軽に入手できます。
購入したままの状態でも使えますが、鍋に入れて100度まで加熱し、それを冷ましてから使用してください。
人肌程度の物を塗るとおなかが温まり、より効果的です。
このひと手間を加えるだけで、ヴァータを整える作用がパワーアップし、白ゴマ油が最強のマッサージオイルに変わります。
みずおちをさする際は、おなかよりも優しくさするよう、くれぐれも注意してください。
アーユルヴェーダでは、みずおちは、意識と肉体の接合点であり、心の安定をもたらす場所です。
そのため、みずおちを強く触れると、精神が乱れると考えられています。
へそさすりは、ヴァータが乱れやすい午後2時から6時の間に行うといいでしょう。
1回5分が目安です。
もちろん、時間があれば何回行ってもかまいません。

白ゴマ油を塗ればさらに効果アップ!
自律神経の乱れも整う
忙しい人は、時間が空いたときに、服の上からへそさすりをするだけでも効果的です。
腸の蠕動運動(便を送り出す運動)を促す刺激になるので、便秘の人には特にお勧めです。
へそさすりでヴァータのバランスが整えば、前述した症状の改善はもちろん、自律神経の乱れもよくなり、さまざまな好影響が現れます。
ぜひ皆さんもお試しください。
解説者のプロフィール

蓮村誠(はすむら・まこと)
●マハリシ南青山プライムクリニック
東京都港区南青山1-15-2
TEL 03-5414-7555
http://www.hoyurishikai.com/
マハリシ南青山プライムクリニック院長。医学博士。
マハリシ・アーユルヴェーダ認定医。東京慈恵会医科大学卒業。
診療のかたわら、インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」医療の普及に努めるべく、全国での講演活動や執筆活動に当たっている。
近著に『かんたん毒出し健康法』(洋泉社)がある。