目の疲れはその日のうちに解消したい!
私の研究室では、人間の生活環境について、多様な角度から研究を進めています。「目周辺へのシャワー浴による目の疲労回復効果」は、その研究テーマの一つです。
現代人は、パソコンやスマホなどの普及により、目を酷使しがちです。目の疲れがひどくなると、肩・首のコリや、頭痛などの症状を併発する人も少なくないでしょう。
そうした症状の積み重ねが、より深刻な病気を招く可能性も否定できません。1日の目の疲れは、できればその日のうちに解消したいものです。
私たちは、東京ガス(株)都市生活研究所との共同研究で、次のような実験を行いました。
被験者は、20代の健康な男性10人。裸眼、もしくは矯正で、正常範囲内の視力がある人たちです。10人には、まず、目を疲れさせるため、細かいパソコン作業を、20分間、行ってもらいました。
次に、浴室でいすに座ってもらい、うつむいた状態で目を閉じ、目の周囲だけにシャワーを当てます。片目につき1分間ずつ、交互に3回くり返しました。左右それぞれで3分間、両目の合計で6分間になります。
シャワーは、毎分5Lの水量で、次の三つの条件が設定されました。
① 湯温が42度の場合
② 湯温が32度の場合
③ シャワーを浴びない場合
32度というのは、私たちの皮膚温に近い温度です。この条件を加えたのは、もし、シャワーが目に疲労回復効果をもたらした場合、それが水圧のマッサージによるものか、温熱によるものかを判別できるようにするためです。
被験者は、
● 実験(パソコン作業)開始前
● パソコン作業直後
● シャワーを浴びた直後
以上の三つのタイミングで、それぞれ視力を測定します。
いずれの被験者も、調査に3日を要しました。三つの条件下で、同じ時刻に実験を開始するよう配慮したためです。
42度のシャワーで視力が回復

ショボショボ感がへりスッキリ感が増す!
シャワーを浴びた(あるいは、浴びなかった)直後の視力と、パソコン作業直後の視力を比較したところ、最も目の疲労回復効果が高かったのは、42度のシャワーを浴びた場合でした。全体平均で、0.3近くも視力がアップしたのです(グラフ参照)。
なかには、実験開始前よりも、シャワーを浴びたあとのほうが、視力が上った被験者もいました。この人はおそらく、実験開始前から、すでに目がかなり疲れていたのでしょう。
また、32度のシャワーは、シャワーなしに比べれば多少の効果はあるものの、42度のシャワーに比べれば、その差は歴然でした。つまり、視力回復は、水圧によるマッサージ効果ではなく、温熱効果のためと考えられるのです。
では、なぜ、温かいシャワーが目の疲労回復に役立つのでしょうか。
私たちが物を見るとき、ピント合わせを行っているのが、眼球の中の、毛様体筋という筋肉です。
目を酷使すると、この毛様体筋の機能が衰えます。これが、目の疲れと、一時的な視力低下を引き起こすのです。
そこで、目の周辺に温かいシャワーを当てると、その温熱効果により、皮膚の温度が上昇。目の付近の血流がよくなります。そのため、毛様体筋の疲労が回復すると考えられます。
ところで、私たちは、この実験の先行研究で、入浴時に湯ぶねにつかることの有効性を検証しました。その結果、湯ぶねにつかって体を温めることは、全身の肉体疲労の解消に、非常に有効だとわかっています。
そこで、目のシャワー浴をする際は、湯ぶねの中で行うことをお勧めします。もちろん、湯ぶねの外でもかまいませんが、湯ぶねの中で行えば、節水を気にする必要がありません。焦らずゆったりした気分で行えば、疲労回復にも、さらによい影響があるでしょう。
実験では、片目ずつシャワーを当てましたが、これは実験結果を正確に出すためです。ご家庭で試す際には、両目に当ててかまいません。
シャワーの温度なども、ご自分で調節してください。42度で熱いようなら、少し下げてもかまわないでしょう。
ちなみに、実験の被験者からは、目の疲れについての主観的な評価も聞き取っています。これによると、42度のシャワーのあとが、ショボショボ感が最も減少し、スッキリ感が増加することがわかっています。
また、シャワーを当てる時間についても、お好みで調節してください。実験では片目につき3分でしたが、後日、自宅で試した人から、30秒ほどでもかなりスッキリしたという報告が届いています。
水圧については、弱めでもじゅうぶん効果があります。目はデリケートな器官ですので、傷めないように、くれぐれも注意しましょう。
なお、コンタクトレンズを装用しているかたは、レンズを外してからお試しください。
解説者のプロフィール

勝浦哲夫
1972年、九州芸術工科大学芸術工学部工業設計学科卒業。86年、京都大学理学博士。日本生理人類学会認定アメニティプランナー。九州芸術工科大学芸術工学部助手、千葉大学工学部講師、同助教授を経て、96年より現職。2007年より、日本生理人類学会会長。専門は生理人類学、環境人間工学。
「42度」のシャワーで疲れ目も取れる!