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【運動の健康効果】判明!筋肉が分泌する「マイオカイン」に鍵があった

【運動の健康効果】判明!筋肉が分泌する「マイオカイン」に鍵があった

「運動をすると健康になる」ということに議論の余地はないでしょう。でも運動になぜそうした効果があるのかについては、今までよくわかっていませんでした。近年、運動で筋肉が収縮するとき、筋肉からホルモンのような生理活性物質が分泌されており、それが病気を防ぐことが明らかになってきました。【解説】藤井宣晴(首都大学東京大学院教授)

解説者のプロフィール

藤井宣晴(ふじい・のぶはる)
首都大学東京大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域教授。
秋田県出身。1994年、筑波大学博士課程体育科学研究科終了後、筑波大学応用生物学化学系遺伝子実験センター、ジョスリン糖尿病センター、ハーバード大学医学部での研究を経て、2008年から現職。運動生理学、分子生物学、代謝内分泌学など、領域をまたいだ研究に従事し、現在「筋収縮」に焦点を当て、骨格筋と筋収縮の新生物学を展開している。

筋力が分泌する長寿物質「マイオカイン」

「運動をすると健康になる」ということに議論の余地はないでしょう。米国では2007年に米国医師会と米国スポーツ医学会が共同で「Exercise is Medicine=運動は薬だ」というコンセプトのもと、生活習慣病などの健康問題を解決する最も有効な手段の一つとして、運動を強く推奨しています。
運動には、みなさんが思っている以上に重要な健康効果があるのです。

 世界10カ国の23機関が協力して50万人以上を対象にした研究では、太っているか、やせているかにかかわらず、運動をしている人のほうが、死亡率が低くなることが判明しています。太っていても、運動をすれば健康が維持されるというわけです。

 運動によって免疫力にもいい影響が現れることがわかっています。近年、米国の国立ガン研究所が、「運動は少なくとも13種類のガンの発症率を下げる」という研究成果を発表しました。大腸ガン、乳ガン、子宮ガンなどの発症率が下がることが明らかになっているのです。

 さらには、運動がアルツハイマー病を予防したり、うつや不安を抑制したりといった脳疾患への作用があることも判明しています。

 でも、運動になぜそうした効果があるのかについては、今までよくわかっていませんでした。
 しかし近年、運動で筋肉が収縮するとき、筋肉からホルモンのような生理活性物質が分泌されており、それがさまざまな病気を防ぐことが明らかになってきました。

 筋肉から分泌されるホルモンのような物質を総称して、「マイオカイン(筋肉作動物質)」と言います。現在わかっているだけで30種類ほどあり、ガンや肥満、糖尿病、脂肪肝、認知症、動脈硬化などを防ぐ作用が注目されています。

つまり、マイオカインの作用こそが、運動による健康効果の鍵ではないかと今、世界中で盛んに研究されているのです。

ガンの抑制や寿命に関わる物質も発見

 筋肉からホルモンのような物質が出ているのではないかということは昔から考えられていましたが、かつてはそれを検証する手段がありませんでした。筋肉の細胞は培養が難しく、試験管の中で実際に動く(収縮する)ようにして観察することができなかったからです。

 しかし私たちは、試行錯誤を重ね、マウスの骨格筋の培養と、培養した骨格筋を電気刺激によって収縮させることに成功しました。細胞の分泌物を調べると、他の臓器で分泌されており、骨格筋で分泌されるとは考えられていなかったたんぱく質など、さまざまな成分(マイオカイン)が含まれているのを発見しました。

 次に、ショウジョウバエというハエを使った実験を行いました。遺伝子操作でハエの骨格筋から特定のマイオカインが分泌されないようにすると、ハエの寿命が短くなったり、また別の分子を抑制すると寿命が延びたりすることが判明しました。

つまり、マイオカインに寿命を左右するものが複数含まれているということです。

現在、さらにマウスを使った実験によって、それぞれのマイオカインの作用を明らかにしようとしているところです。

 マイオカインについては今、国内外のさまざまな研究機関で研究され、論文も次々に発表されています。

 例えば、京都府立大学の研究では「SPARC」というマイオカインにガン細胞を自死(アポトーシス)させる作用があり、大腸ガンを抑制すると報告されています。

 もともと運動する人ほど大腸ガンになりにくいことが知られていましたが、それは「お通じがよくなる」といった理由ではないかと思われていました。しかし、どうやらそれだけではなく、マイオカインの働きも関係しているようです。

運動すると筋肉からマイオカインが出てさまざまな臓器に働きかける

■主なマイオカインの効用
・大腸ガンの予防(SPARC)
・脂肪肝の改善(FGF-21)
・認知機能の改善(アイリシン)
・肥満・糖尿病を抑える(IL-6)
・動脈硬化を防ぐ(アディポネクチン)
・アルツハイマー病の予防(IGF-1)


※現在見つかっているマイオカインは30種類以上

筋肉を動かしている時間の長さが重要

 マイオカインの研究はまだ始まったばかりで、わかっていないことのほうが多いのですが、「運動が健康にいい理由」が解明されつつあると言っていいでしょう。将来はマイオカインの研究から、「病気の改善に有効な運動の処方箋」ができたり、新しい薬の開発に役立ったりすることが期待されます。

 このように最近の研究により、筋肉は体を支えたり内臓を保護したりといった機能だけでなく、内分泌器官のように、マイオカインを分泌して、重要な役割を果たしていることが見えてきました。「健康の源は筋肉にある」と言えるでしょう。

 といっても、なにもムキムキになる必要はありません。マイオカインの中には、筋肉が活動していないときにも分泌されているものと、筋肉が活動(=筋収縮)したときだけ分泌されるものがあります。どちらもそれぞれに重要な働きがあると考えられます。

 筋肉の量が減りすぎないように気をつけることも大事ですが、筋肉を日頃からよく動かしていることがより重要だろうと私は考えています。

 短時間だけ激しい運動をして、あとはずっと体を動かさずにいるよりは、運動の強度は弱くても、1日の中で体を動かしていない時間をなるべく少なくすることが大事です。

 ある程度の筋肉の量と質(=筋肉の若々しさ)を保つことができていれば、年をとってもいろいろな病気になりにくいと考えられます。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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