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「運動」で糖尿病の薬を減らせる可能性大!筋肉は第2のインスリン作用を生む

「運動」で糖尿病の薬を減らせる可能性大!筋肉は第2のインスリン作用を生む

糖尿病に対して、運動療法は食事療法と並んで重要な治療手段として推奨されています。でも、なぜ運動によって血糖値が下がるのかは、従来よくわかっていませんでした。そして、運動しているときには、筋肉細胞中の「AMPキナーゼ」という酵素が糖を取り込んでいる事実を突き止めたのです。【解説】藤井宣晴(首都大学東京大学院教授)

解説者のプロフィール

藤井宣晴(ふじい・のぶはる)
首都大学東京大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域教授。
秋田県出身。1994年、筑波大学博士課程体育科学研究科終了後、筑波大学応用生物学化学系遺伝子実験センター、ジョスリン糖尿病センター、ハーバード大学医学部での研究を経て、2008年から現職。運動生理学、分子生物学、代謝内分泌学など、領域をまたいだ研究に従事し、現在「筋収縮」に焦点を当て、骨格筋と筋収縮の新生物学を展開している。

インスリンが出なくても運動で血糖値は下がる

 糖尿病に対して、運動療法は食事療法と並んで重要な治療手段として推奨されています。でも、なぜ運動によって血糖値が下がるのかは、従来よくわかっていませんでした。

 筋肉を動かすことによって、インスリンの分泌が盛んになったり、効きがよくなったりするのだろうと考えられていました。

 私たちの体は多くのホルモンを作っていますが、血糖値を下げるホルモンは膵臓が分泌するインスリン以外にはないということで、そのように推測されていたのです。

 ところが、イギリスの研究者により、興味深い実験結果が報告されました。自転車こぎを行った際の血糖値の変化を見る実験です。自転車こぎは非常に多くの糖を取り込む運動で、開始から10分以内に糖の取り込みが10から15倍になります。これを2型糖尿病患者が行ったところ、健常者と変わらず糖の取り込みが起きたのです。

 この結果は、驚くべきものです。なぜなら、インスリンの作用が不全で、筋肉への糖の取り込みがふじゅうぶんであるはずの糖尿病患者が、自転車こぎという運動をしただけで、健康な人と同等に糖の取り込みができているからです。

 このことから、「運動をすると、インスリンとはまったく別のメカニズムが働いて、血液中の糖が消費される」と考えられます。

運動するとき筋肉で活性化する酵素に注目

 私は1999年に、米国のハーバード大学のジョスリン糖尿病研究センターに留学し、上司となったローリー・グッドイヤー博士とともに、運動をするとき筋肉細胞の中で何が起きているのかを研究しました。

 そして、運動しているときには、筋肉細胞中の「AMPキナーゼ」という酵素が糖を取り込んでいる事実を突き止めたのです。つまり、AMPキナーゼが、第2のインスリンのような働きをして、血液中の糖を消費する働きをしていたのです。

 AMPキナーゼは、もともと筋肉細胞に存在する酵素ですが、構造が複雑なこともあり、なんのために存在しているのか、よくわかっていませんでした。それがようやく解明されたというわけです。

 昔から糖尿病治療に使われている「メトフォルミン」という薬があります。実はなぜ糖尿病に効くのか、わからないまま使われていたのですが、この物質もAMPキナーゼを活性化していることが最近、判明しました。つまり、運動がもたらす効果と似た働きをする物質だったわけです。

運動による効果は薬より大きい

 さらに、運動をするとAMPキナーゼの分泌が高まるだけでなく、インスリンの感受性が高まる(効きがよくなる)こともわかっています。

 AMPキナーゼは運動をやめると活性がしだいにおさまり、30分~1時間後くらいには筋肉への糖の取り込みもおさまります。

 ところが、それとは別に、いったん運動をすると、その後もインスリン感受性が高まった状態が続くようになるのです。糖尿病の治療薬の多くはインスリン感受性を高めるものですが、運動による効果は、そうした薬よりも大きいくらいなのです。

 しかも、すでに糖尿病になってしまった患者さんでも、運動によってインスリンの感受性が高まる効果が期待できます。
 仮に、インスリン注射をしなければならないほど重篤な糖尿病の患者さんでも、運動によって薬を減らせる可能性があるのです。

軽い運動でも継続すれば確実に効果はある

 では、具体的にどんな運動をしたらいいのでしょうか?

 低い運動強度でもAMPキナーゼが活性化されることがすでに確認されています。ですから、無理にがんばって激しい運動をする必要はありません。

 激しい運動より、1日の中でいかに長い時間、筋肉を動かしているかが重要です。日常生活で必要とされる身体活動のレベルを少しでも超えるものはすべて「運動」と言えます。

「運動しなきゃ」と気負いすぎず、まずは体を動かす時間をなるべく増やすことから取り組んでみてはいかがでしょうか。
 例えば、掃除で体を動かす、通勤時に1駅分歩いてみる、エレベーターでなく階段を使うなどでもじゅうぶんな運動になります。

 私自身のお話をすると、自宅から職場までの約13㎞を1時間かけて自転車通勤しています。途中に坂道が多いので、電動アシスト付きの自転車に乗っています。本格的にサイクリングをしている人からすれば、電動アシストで楽をしたら、たいして運動にならないと思われるでしょう。

 でも、出勤前に疲れ切ってしまうような運動は、とても毎日は続けられません。ハードルを下げても無理なく継続できる運動のほうが、長い目で見て健康効果が高いはずです。

 塵も積もれば山となるです。軽い運動でも、健康に対する効果は大きな違いとなってくるでしょう。

糖尿病の人も運動をすれば血糖値のコントロールができる

この記事のエディター

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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