解説者のプロフィール

菊池和子(きくち・かずこ)
1934年生まれ。日本女子体育短期大学卒業。
体育教師を経て「きくち体操」を創始。「動くことは、なぜ心と体によいのか」という素朴な疑問から出発し、「体をどう動かすと、体のどこにどういいのか」体のしくみを50年以上にわたり研究・実践し、確立した「健康に直結する動かし方」の集大成。
脳とのつながりに着目し、体を脳で感じ取る体操は、性別・年齢を問わず多くの支持を得ている。
著書は『はじめての「きくち体操」』(講談社)、『足の裏を刺激して一生歩ける体になる!きくち体操』(宝島社)など多数。
鍛えるのではなく体を育てる体操
私が「きくち体操」を創始して50年以上が経ちました。
「きくち体操」は鍛える体操ではありません。自分の体に意識を向け、体の変化を感じ取り、体を育てる体操です。
難しい体操は1つもありません。
手足の「グーとパー」や「足首回し」など、わかりやすい動きばかりです。
例えば、足の「グーとパー」なら、足の指を見て、さわり、1本1本をしっかり意識して動かし、その感覚や変化を感じ取ることを大切にします。
このように体の感覚を感じ取るのは「脳」の働きです。
脳は、体のすべての器官とつながっています。
足の指に「動け!」と指令しているのも脳です。
私たちが足の指を意識して動かしているときは、足の指だけでなく、足の指とつながる脳も刺激しています。「この指を動かそう」と体に意識を向けることで、脳はどんどん活性化します。
体を意識して動かす「きくち体操」は、体と脳をつなげる体操でもあります。
体の感覚や変化を感じ取り、体を意識して丁寧に動かせば、体と脳がしっかりつながり、動ける体が育っていくのです。

きくち体操は「体と脳をつなげる」体操なので、筋肉に意識を向けて感じ取りながらゆっくり動かすのがポイント
両脚切断の危機を脱出した例も
「きくち体操」の教室にはいろいろな生徒さんがお見えになります。
きれいになりたい、最期まで自分の足で歩きたい、体の不調をなんとかしたいと動機はさまざまです。
最初は体が硬くて痛い、きついなどと言う生徒さんでも、動かない筋肉に意識を向けて動かしていくうちに、徐々に体が動くようになります。
体を動かすことで体が変わると本人が感じ取れたときから、体はよみがえってきます。
「きくち体操」に真剣に取り組まれたかたは、体や心のさまざまな変化を実感されています。
ひざ痛や腰痛が治った、五十肩が治り腕を上げられるようになった、更年期障害から解放された、骨量が増え骨粗鬆症が改善した、ウエストが締まりおなかがひっこんだ。
高めの血圧や血糖値が安定した、不眠が解消した、夜中のトイレの回数が減った……。
なかには、私も驚くような変化を遂げられたかたもいます。
Jさん(男性・75歳)は、50歳のとき糖尿病と診断されました。
それから10年、糖尿病は深刻な状態になりました。検査値は、治療困難領域とされる数値を大幅に上回っていました。
「このままでは足を切断する可能性もあるし、目が見えなくなるかもしれません」と医師に告げられ、Jさんは大慌てでジム通いを始めました。
3カ月で10㎏ほどやせましたが、ジム帰りのビールがやめられません。
とうとう医師に「なんの努力もしないなら、来なくていい」とさじを投げられてしまいました。
Jさんは心機一転、ジム通いをやめ、奥さんに勧められ「きくち体操」の教室に入ると、毎日じっくり体操に取り組みました。
入会して2年、85㎏あった体重が62㎏に、ウエストは23㎝も細くなりました。
さらに2年後、検査値は正常範囲におさまりました。
「失明寸前の状態から自力で正常値に戻るのは、30~50万に1人と言われました」とJさん。
今も教室に通っておられます。
また、脳梗塞になって倒れた生徒さんは、足の指を動かし続けて、ちゃんと回復しています。
このような例は信じられない、奇跡のようだと思うかたがいるかもしれません。
しかし、体を絶対によくしようという強い思いを持ち、心を込めて体を動かせば、誰にでも体をよくする力が備わっているのです。
その力を引き出すお手伝いをするのが「きくち体操」なのです。
健康は足の指から始まる
「きくち体操」では、つま先から頭まで、全身をくまなく動かしますが、今回は基本中の基本である「足の指を育てる体操」をご紹介しましょう。
足の指は体の起点です。足の裏から足首、ふくらはぎ、ひざ、ももを経由して骨盤、背骨へとつながっています。
足の指が弱ると、それにつながる脚の筋肉と、筋肉がつないでいる骨や関節も弱くなり、足元がおぼつかなくなるといった事態が起こります。
すべては足の指から始まるのです。
今、足に不調を感じていてもあきらめることはありません。
「きくち体操」を続ければ体は変わります。体はよくしようと思いをかけて動かせば、やっただけ必ず応えてくれます。
「きくち体操」では、体をまるごと1つの「命」ととらえています。
足の指でしっかりグーとパーをする、足首をゆっくり回すなど、体を動かすときには、自分の命だと思ってするのです。
毎日体を動かし、体に向き合っていると、体や命に感謝する気持ちも湧いてきます。
自分の命に感謝するようになると、家族や友だち、周囲の人にも感謝の気持ちが湧いてきて、やさしく接するようになります。
「きくち体操」の生徒さんの感想には、「家族から、笑顔が増えたと言われます」「子どもを怒らなくなりました」という声もしばしば聞きます。
「きくち体操」は、体を動かすことを通して、体に感謝し、命に感謝し、心と体を育てる体操なのです。
次の記事ではきくち体操のやり方をご紹介しましょう。

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