解説者のプロフィール

高山かおる(たかやま・かおる)
済生会川口総合病院皮膚科主任部長、東京医科歯科大学附属病院臨床准教授。1995年、山形大学医学部卒。日本の大学病院では稀有な皮膚科のフットケア外来を開局する。難治性の巻き爪、陥入爪、肥厚爪、タコ、ウオノメなどの疾患を抱える患者に対して、トラブルの根治を目指した、原因の追及、診察、専門治療のほか、セルフケアの指導を行う。フットケア師によるフットケア、オーダーメイドのインソール作製などによる免荷療法など、それぞれの専門家と連携を取りながらの保存的治療も積極的に導入している。専門は、接触性皮膚炎、フットケア、美容。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。
足トラブルはなぜ起こるのか

足トラブルの原因は靴だけではない!
仕事柄、若い女性の足もとや姿勢、歩き方などに、どうしても目がいきます。
そして、とても心配になります。
こんな姿勢や歩き方をしていたら、将来、彼女たちの足はどうなってしまうのだろう、と。
そんな不安がよぎるのは、私がこれまで10年近く、たくさんの足のトラブルを見てきたからです。
足のトラブルは、「足病変(そくびょうへん)」といいます。
皆さんにもおなじみの外反母趾(足の第1指〈親指〉のつけ根の骨が外側に突き出た状態)や巻き爪(爪が横方向に巻いている状態)、タコ、ウオノメ、水虫などが、その代表的なものです。
こうした足のトラブルの多くは、水虫などの感染症を除いて、従来、足に合わない靴が原因だといわれてきました。
しかし、原因は決してそれだけではありません。
むしろ私は、歩き方や立ち方に問題があることのほうが多いと、最近は思うようになりました。
若い女性の8割に足の異常があった
最近の若い女性の立ち姿をよく見たことがありますか。
背中が丸まって、おなかが前に出て、何かに寄りかかるようにダランと立っています。
歩くときも、足をあまり上げず、ペタペタ歩いています。
このように立ち、歩いていたら、足は壊れていく一方です。
足には、体がバランスよく歩けるように、骨でできた山なり型のアーチが備わっています。
ところが、こうした悪い歩き方や立ち方をしていると、だんだんアーチが崩れて足が変形していきます。
その結果、起こるのが、開張足(足の横アーチが潰れて足の骨が広がった状態)や外反母趾といった足の変形です。
開張足や外反母趾があると、それを起点にさまざまな足のトラブルが起こってきます。
私たちは、若い女性の足にどれくらい足病変があるか、女子大生を対象に調べたことがあります。調べた足数は100足(50人)あまりでしたが、その75%に開張足や外反母趾、タコ、ウオノメ、巻き爪といった、なんらかのトラブルがありました。なかには、トラブルが2つも3つも重なっている人までいたのです。
これは、若い人たちが自分の姿勢や歩き方が悪いことに気付いていないからだと思います。
立っているときや歩いているときに足の指やアーチがきちんと使われていないと、足が変形したり、足の一部が圧迫されたりして、いろいろなトラブルが生じるのです。
足の筋肉や靭帯、骨は、加齢とともに衰えていきます。
若いうちから足の機能が衰えていては、年を取ったとき、どうなってしまうのだろう。そんな心配がつい募ります。

足のトラブルは複合的に起こりやすい
足のトラブルは、単独に起こることはめったにありません。
複数のトラブルを併発していることがほとんどです。
例えば、外反母趾のある人は、ほぼ100%、開張足があります。
それに加えて、内反小趾(足の第5指〈小指〉が第1指側に変形している状態)やハンマートゥ(第1指以外の指の骨が「く」の字状に曲がって固まった状態)、巻き爪や、タコ、ウオノメといったトラブルを併発することが珍しくないのです。
足のトラブルは、大きく次の3つに分かれます。
(1)骨の変形によって起こる病変(開張足、扁平足、外反母趾、内反小趾など)
(2)爪に起こる病変(巻き爪、陥入爪、肥厚爪、爪白癬など)
(3)皮膚に起こる病変(タコ、ウオノメ、水虫など)
また、骨に変形があると、爪や皮膚の病気を合併しやすくなります。
例えば、外反母趾になると、指どうしが当たったり、重なったりします。すると重なった指の爪が押されて巻き爪や肥厚爪(爪が上に重なって厚くなる状態)になったり、靴に強く当たるところや、すれるところにタコやウオノメができたりします。
フットケア外来に来られる巻き爪の患者さんを調べたところ、60%に外反母趾があり、98%に開張足がありました。開張足は病気とはいえませんが、外反母趾や内反小趾のきっかけになる足病変です。
もちろん、単独で起こる病気もあります。
水虫のような感染症や、単純に靴にすれることで起こるタコやウオノメ、爪の切り方に問題がある巻き爪などです。それらは、単独で起こっているうちなら、適切に対処すれば比較的早く治ります。
女性は開張足になりやすいので、誰でも外反母趾になる素地を持っているといえます。外反母趾があると、巻き爪になったり、その巻いた爪が皮膚に食い込んで炎症が起こったりしてきます。
さらに、足の第1指の外側にタコができて痛かったり、内反小趾を起こしていたり、と症状が2つ、3つと重なることがあります。
このように骨の変形をきっかけとして、爪や皮膚にトラブルが重複的に起こりうるということをぜひ覚えておいてください。
次の記事では女性がなりやすい足の変形の初期症状「開張足」について説明しましょう。