患者の首のV字筋が目立って浮き出ていた
私の治療院には、突発性難聴に悩む患者さんが、たくさん訪れます。
突発性難聴というのは原因不明の病気で、ある日突然に明らかな原因もなく、通常、片側の耳が聴こえなくなる病気です。また、耳鳴りや耳づまり(耳閉感)、めまいなどの症状も起こります。
日本では、年間約3万5000人がこの突発性難聴を発症し、約70%の人は、そのまま改善することなく、難聴者になるとされているのです。
ところで、突発性難聴は耳だけの問題と思われるかもしれません。しかし、実は「首」と深い関係があります。私がそのことに気づいたのは、患者さんを治療しているときでした。
首には、胸鎖乳突筋という筋肉があります。これは、肩を動かさずに、頭だけ右にひねって右を見たときに浮かび上がる、左耳の後ろから鎖骨の内側をつなぐ筋肉です。つまり、首の前から左右の耳の下までを、V字型に走っている筋肉といえます。
患者さんに横向きに寝てもらうと、突発性難聴の人は、例外なく胸鎖乳突筋(首のV字筋)が目立って浮き出ているのです。そして、その胸鎖乳突筋をさわってみると、筋肉がひどく緊張して、かたくなっています。
そこで、私は、ある突発性難聴の患者さんの首のV字筋を、鍼やマッサージでほぐしてみました。すると、その場で症状の改善が見られたのです。
さらに、10回ほど治療を行ったところ、なんと突発性難聴が完治しました。
それ以来、ほかの患者さんにも、首のV字筋のコリをほぐす施術を行うようになったというわけです。そうしたところ、症状が驚くほど改善する人が続出しました。
内耳への血流やリンパの流れを改善
なぜ、首の筋肉をほぐすと、突発性難聴が改善するのでしょうか。
首のV字筋は、首の左右両側、耳の後ろにある骨から、左右の鎖骨と胸骨が接するところを結んでいます。首のV字筋のコリが強くなると、首がV字型に締めつけられる形となり、その下を走っている血管の血流が著しく悪くなります。すると、首から上に血液が流れにくくなり、代謝も損なわれます。首のV字筋は、その末端が耳の奥にある内耳まで伸びているので、コリがひどくなれば、耳の血流も悪化するのです。
私たちの体には、体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出すリンパ液が流れていますが、首のV字筋のコリは、リンパ液も流れにくくします。リンパ液が耳にたまると、耳鳴りや難聴が起こります。
また、目にも房水などの体液が循環しています。やはり、房水が流れにくくなると、眼圧が高くなって緑内障になります。頭で血液の循環が悪くなれば片頭痛が起こります。
さらに、首のV字筋のコリは、ホルモンの分泌やその働きにも悪影響を及ぼします。
このように、頭部のさまざまな症状は、みんな首の筋肉のコリが関係していると考えられるのです。
ちなみに、突発性難聴は、まだ原因不明で、難病とされています。ただし、内耳の循環障害によって起こるという説もあるので、首のV字筋のコリを鍼やマッサージでほぐし、内耳への血液やリンパの流れをよくすれば、突発性難聴が改善するはずです。
そこで、私は独自に「首のV字筋マッサージ」を開発しました。そして、突発性難聴などの治療に、12年ほど前から活用しているのです。
首のV字筋の場所とマッサージのやり方

うつ病、更年期障害、円形脱毛症、抜け毛も改善
すると、突発性難聴以外の症状にも、すばらしい効果を発揮することがわかりました。激しい回転性のめまいと難聴・耳鳴り・耳閉感の4症状が同時に起こる発作をくり返すメニエール病にも有効です。
さらに、耳鳴り、緑内障、不眠症、うつ病、更年期障害、不妊症、高脂血症、冷え症、足のむくみ、円形脱毛症、抜け毛などのさまざまな症状が、次々と改善するようになったのです。
これは、首のV字筋マッサージによって首のコリがほぐれたために、滞っていた血液、リンパ、ホルモンの流れがよくなったからでしょう。そうなれば、神経伝達物質のバランスが整い、自然治癒力が回復し、種々の症状が改善すると考えられます。
治療院では、鍼とマッサージで首のV字筋の刺激を行いますが、家庭でも同様の効果を得るために、自分の手でマッサージをする方法があります。
❶ 首のV字筋の始点となる耳の後ろの出っ張りの骨を見つけ、その後ろ辺りに親指の腹を置きます。そのまま、約3秒かけて鼻から息を吸い、約2秒息を止めます。
❷ 次に、約10秒かけて口から静かに息を吐きながら、ゆっくり親指で首のV字筋を軽く押します。
❸首のV字筋の後ろ側に沿って指を下に少しずつずらしながら、鎖骨まで5〜6ヵ所押します。
これを1〜3セット行ったら、反対側の首のV字筋も同様に押していきます。
この首のV字筋マッサージは、1日に何回やってもかまいませんが、1日1回、夜寝る前には必ず行いましょう。ちなみに、おふろ上がりなど、筋肉が緩んでいるときにやるのが効果的です。
突発性難聴は、発症してから時間がたつと、完治が難しくなります。できるだけ早く、病院での診療や治療を受けるべきです。そんなときに、このマッサージを併用すると、治りが早くなることがあります。
耳の違和感や閉塞感があったら、まず、このマッサージをやってください。発症を回避できるかもしれません。
突発性難聴だけでなく、先述したさまざまな症状に悩む人も、ぜひ試してください。
なお、悪い姿勢やストレスは、首のV字筋のコリの原因となるので、注意が必要です。日ごろ、同じ姿勢をとらないようにしてください。ストレスは、その都度、発散するように心がけましょう。
解説者のプロフィール

藤井德治
1972年、上智大学経済学部卒業。富士ゼロックス株式会社入社。営業、企画に携わった後、難聴により退社。1983年、東京鍼灸柔整専門学校卒業、一掌堂治療院を開院。未病治療と突発性難聴治療に取り組んでいる。鍼灸師、指圧マッサージ師。突発性難聴ハリ治療ネットワーク代表。