解説者のプロフィール

宇佐見啓治(うさみ・けいじ)
●医療法人うさみ内科
福島県郡山市大槻町三角田88-2
024-961-1114
http://website2.infomity.net/8342095/
うさみ内科理事長。
1982年、福島県立医科大学卒業後、同大学附属病院第二内科に入局。88年より福島赤十字病院に約10年間勤務し、97年にうさみ内科を開業。専門分野は内科全般。運動療法による成人病治療に特に力を注いでいる。趣味はボディビル、ひょうたんランプ作りなど多彩。ひょうたんランプ作家「瓢太」としても活動中。
2ヶ月間の指導でA1cが2.4%降下!
私は医師という仕事の傍ら、長い間、趣味としてボディビルを続けてきました。2001年には、福島県ボディビルディング選手権大会で4位入賞。筋肉のトレーニングについては、人並み以上の関心とノウハウを持っています。
そんな私が、糖尿病の患者さんに指導しているのが、「週3筋トレ」です。毎週、医院内で運動療法教室を開催し、患者さんに実践してもらっています。
糖尿病治療には食事療法と運動療法が有効であることは、いうまでもありません。とはいえ実際にプログラムを組んで患者さんに運動療法を指導している医師は、ごくわずかです。
しかし、食事療法に加えて、適した運動を行えば、薬よりもはるかに効果が高いことは実証されています。

上の図表は、ヘモグロビンA1cが8%以上の糖尿病患者さんに、薬を使わず、食事療法と週3回の筋トレを1ヵ月間指導した結果を示したものです。ほとんどのケースで、A1cが約1%低下しています。
私は勤務医時代にも、入院中の2型糖尿病の患者さんに、同様の指導をしていました。このときは2ヵ月間で、ヘモグロビンA1cを、平均2.4%改善させることができました。
かたや、一般的な経口糖尿病薬を用いた場合の改善度は、通常3ヵ月で0.8%程度。そう考えると、筋トレがいかに有効な治療手段かわかるでしょう。
加齢による筋肉の衰えは誰しも避けられませんが、顕著に減少するのは40代以降です。そして、筋肉量の減少と糖尿病の発症は、無関係ではありません。
筋肉内には、ブドウ糖から作られる多糖であるグリコーゲンが、エネルギー源として蓄えられています。筋肉量が減ると、ここでの貯蔵容量が減る分、余剰な糖が血中や肝臓に流出。これが、糖尿病や脂肪肝の発症につながります。
一方で、運動して筋肉を使うと、筋肉中の糖が枯渇します。すると、血中の糖が筋肉に取り込まれるため血糖値が降下。運動で糖尿病が改善するのは、こうした作用によるものです。
ここで特筆すべきは、運動後約1時間は、筋肉が糖を取り込む過程でインスリンを必要としないという点です。
通常、血液中から細胞内に糖を取り込むには、インスリンの働きが欠かせません。これが不要ということは、比較的糖尿病が進行してインスリン分泌量が低下した患者さんにも、運動療法は有効ということです。医師は患者さんに、こうした利点をもっと伝えるべきでしょう。
有酸素運動より筋トレが合理的かつ効率的!
糖尿病の運動療法として、一般的に推奨されているのは、ウォーキングなどの有酸素運動です。しかし私は、主に以下の三つの観点から、有酸素運動より筋トレのほうが、合理的かつ効率的であると考えています。
❶エネルギー消費の効率性
有酸素運動は、実はそれほどエネルギーを消費しません。
これには、少ない食料を効率よくエネルギーにして動く必要があった、人類の歴史が関係しています。有酸素運動は、すればするほど「燃費のいい体」をつくるため、必要最小限しかエネルギーを消費しなくなります。つまり、やせにくい体になる可能性があるのです。
では、筋トレを含む無酸素運動はどうでしょうか。
成人男性が1日に消費するエネルギー量は2200㎉です。このうち、何もしていなくても使われる分が1500㎉。これを、基礎代謝といいます。
その基礎代謝の使われ方を体の器官別に見ると、脳で3%、肝臓で12%などに対し、筋肉は39%。実に4割が、筋肉で消費されています。よって、体のエネルギー消費量を増やしたいのであれば、筋肉量を増やすのがいちばん効率的なのです。
やせやすい体になり、肥満が解消されれば、糖尿病の改善に大いに役立ちます。
❷グリコーゲン消費の効率性
有酸素運動と筋トレでは、使う筋肉も異なります。
有酸素運動で使うのは主に、持久力に優れた遅筋繊維が多い赤身の筋肉「赤筋」です。
一方、筋トレでは瞬発力に優れた速筋繊維が多い、白身の筋肉「白筋」が使われます。
白筋は、赤筋よりもグリコーゲンの含有量が多いため、白筋を強化したほうが、筋肉内の糖が多く消費されます。その分、血中の糖が筋肉に取り込まれるので、より高い血糖降下作用が見込めるのです。
❸体への安全性
「無酸素運動は息を止めるので血圧や心拍数が急上昇するおそれがある」として、筋トレを勧めない医師は、少なくありません。しかし、場合によっては有酸素運動のほうが危険です。
有酸素運動は、心肺に負担をかけることで体を鍛えます。ときに、マラソンで死亡者が出るのはそのためです。
また、体重移動を伴う運動が多いので、肥満の人や高齢者は腰やひざを痛めがちです。
かたや筋トレは、呼吸を止めないよう留意すれば、血圧や心拍数は上がりません。1000時間行ってもケガの発生は1件未満と、非常に安全性が高いことが調査でわかっています。
これらの理由から、私は糖尿病の運動療法として、筋トレを勧めています。具体的には、太もも前面の大腿四頭筋を鍛える「スクワット」と、大胸筋を鍛える「プッシュアップ」です。
両方行っても、せいぜい15~20分程度と、そう時間はかかりません(やり方は下図を参照)。
大腿四頭筋は、人体で最大の筋肉ですが、それだけに、加齢による減少幅が最も大きい筋肉でもあります。そして、白筋の割合が高いのが特徴です。大胸筋も、上半身では最も大きく、白筋の割合が多い筋肉です。
糖尿病の改善は、この大腿四頭筋と大胸筋を強化するのが、最も近道といえるでしょう。両方とも連続して行うのが望ましいのですが、どうしても時間が取れないときは、スクワットだけでもかまいません。
週3筋トレのやり方(その1)「スクワット」

週3筋トレのやり方(その2)「プッシュアップ」

より効果を高めるための2つのポイント
より効果を高めるためのポイントが、二つあります。
一つめは、スクワットならしゃがむ動作、プッシュアップなら胸を床に近づける動作を、ゆっくり行うこと。筋肉は引き伸ばされるときに、小さな傷が生じます。これを修復する際に筋肉はより太く、大きくなりますが、ゆっくり行ったほうが効率的なのです。
二つめは、トレーニングは1日おき、週3回程度にとどめること。休むことで筋肉の損傷が修復され、肥大化するからです。
効果が出るまで、まずは1ヵ月。ぜひ皆さんも週3筋トレを実践してください。