ヘモグロビンA1cが10.6%→6.1%
「眼科で糖尿病を調べてもらえといわれて……」と、突然、私のクリニックを受診されたYさん(52歳・男性)。事情を聞くと、最近、急速に視力が落ちてきたので眼科で診てもらったところ、糖尿病網膜症の疑いが濃厚と診断されたそうです。
当院の検査では、空腹時血糖値が260㎎/㎗、過去1~2ヵ月の血糖状態がわかるヘモグロビンA1cが10.6%。さらに腎機能の指標となるクレアチニン値も1.4㎎/㎗(基準値は男性が0.6~1.1㎎/㎗以下)と、いずれも糖尿病の進行を明示していました。
視力の低下も糖尿病からくる網膜症と判明。眼底検査でも、網膜には出血や白斑(老廃物の痕跡)がずいぶん見られました(下の写真参照)。
実はYさん、7年前の健診で糖尿病という診断を受けていました。薬が合わないのでやめていましたが、特に目立った自覚症状もないので、そのまま放置していたそうです。
このように、合併症が発症するまでは症状がほとんど出ないというのが、糖尿病の厄介で、怖いところでもあります。
Yさんには私の指導のもと、食事療法とともに、今回ご紹介する「毛管運動」(下図参照)を続けてもらったところ、劇的ともいえる改善が見られました。
2ヵ月後、血糖値が83㎎/㎗、ヘモグロビンA1cが6.1%に降下。クレアチニン値も、4ヵ月後には1.15㎎/㎗と大幅に下がったのです。
さらに驚いたのは、網膜の状態。眼底検査の結果、出血痕がかなり減り、全体にきれいになっていたのです。同時に視力も徐々に回復してきました。

毛細血管の血流障害が合併症を招く!
毛管運動は、あおむけになって、上方に上げた手足をブルブルと揺らすだけの簡単な体操です。これが糖尿病の改善にどのような後押しをしたのか。カギは毛細血管にあります。詳しく説明しましょう。
糖尿病は、血管の病気といっても過言ではありません。
通常、体内に取り込んだブドウ糖はインスリンというホルモンの働きで、エネルギーとして消費されます。しかし、このインスリンの作用が低下すると、ブドウ糖が利用されないまま、血液中にだぶついてきます。
こうした状態が続くと、血液がうまく流れなくなり、細胞への適正な栄養・酸素の供給が断たれてしまいます。その影響で、さまざまな臓器に障害が起こってくるのです。
皆さんは、血管というと太い動脈を思い浮かべるかもしれません。もちろん、こうした太い動脈でも、高血糖による動脈硬化が進み、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞などの重い疾患のリスクが高まっていきます。
ただし、糖尿病でそれ以上に問題になるのは、全身の血管の90%以上を占めるといわれている毛細血管です。
毛細血管は、血液循環の最前線基地です。心臓から送り出された血液は、ここで臓器と物資のやり取りをします。細胞に栄養や酸素を供給するかわりに、老廃物や二酸化炭素などの不要物質を受け取り、静脈を通って心臓に戻るのです。
つまり、生命活動を根底から支える血液循環という働きのなかで、最も重要な役割を担っているといってもいいのが毛細血管なのです。
毛細血管は微小なだけに高血糖のダメージも受けやすく、なかには「ゴースト血管」といって、いつの間にか消えてしまう毛細血管も少なくありません。
こうなると、細胞の活動は急速に衰え、機能もどんどん落ちてしまいます。
糖尿病の場合、網膜症や腎症、神経障害の三大合併症が危険視されるのも、このためにほかなりません。目の網膜や腎臓、手足には毛細血管が、特に集まっており、こうした血流障害が合併症を招きやすいのです。
糖尿病になったら、毛細血管の血流をよくすることがとても大切だということです。
毛管運動には、この毛細血管の循環を高めることで、糖尿病を改善する効果があるのです。
毛管運動のやり方

毛細血管が刺激されて血液循環を促進
私は、西式健康法を診療活動の柱としています。西式健康法とは、故・西 勝造先生が創案した自然治癒力を高める治療法のことです。
西先生は早くから健康における毛細血管の重要性を唱え、薬に頼らない活性法を多く開発されました。毛管運動もその一つで、体力の衰えた人でも無理なくでき、効果が顕著である点が大きな魅力です。
毛管運動は、上の図のように手と足を心臓よりも上にかかげることが、有効性の最大のポイントです。この状態だと自然に心臓へ血液が戻りやすくなります。さらに手足を小刻みに動かすことで毛細血管が適度に刺激され、血液循環がいっそう促進されるのです。
手足の毛細血管の血流がよくなれば、波及効果がほかの部位の血管にも及び、やがて全身の血流がよくなってきます。
その結果、血管細胞は再び元気を取り戻し、ゴースト化しかけた毛細血管もよみがえってくるのです。こうなれば、合併症のリスクが軽減するだけでなく、糖尿病そのものの改善にも結びついていくわけです。
毛管運動を行うときは、両手両足をできるだけまっすぐ上に伸ばすことが大切です。その状態で1分くらい手足をブルブル揺らします。両手両足を同時に上げられない人は、手と足を別別に行ってもかまいません。
毎日、朝晩2回くらいを目標に行いましょう。
また、糖尿病は食事の注意も大事です。食べ過ぎない、砂糖を控える、よく噛んで食べるなど、食生活を正すことで、大きな相乗効果が期待できます。
解説者のプロフィール
渡辺完爾(わたなべ・かんじ)
●渡辺医院
東京都中野区東中野3-2-16
03-3362-9171(代表)
http://www.dr-watanabe.nakano.tokyo.jp/
渡辺医院院長。
1979年、独協医科大学医学部卒業。医学博士。1997年4月から渡辺医院副院長として、西式健康法を基礎に断食療法・生食療法・運動療法など、自然療法にて各種疾患の治療にあたっている。2011年より渡辺医院院長。
