首の奥の筋肉はコリが解消しにくい!
私のクリニックには、全国からさまざまな病気を抱えた人たちが訪れます。そのほとんどは、それまでに大学病院や専門病院など、複数の施設で治療を受けても、病気や症状が改善されなかった人たちです。
糖尿病や高血圧などの生活習慣病、頭痛や腰痛などの痛み、耳鳴り、不眠症、更年期障害、うつ病、関節リウマチ、慢性疲労症候群、ガンなど、病気は多岐にわたります。こうした患者さんに対し、私はどんな病気でも、まず共通のシンプルな原則で治療します。それは、① 首を中心とした筋肉のコリをほぐす、②湯たんぽやカイロで体を温める、という2点です。
「そんな簡単なことで難病が治るのか」と、思うかもしれません。しかし、患者さんを診察していると、病気や症状は人それぞれでも、必ず異常な筋肉のコリがあり、驚くほど体が冷えているのです。
実際、この二つの原則に従って治療を始めると、原因不明の症状や、難治の病気が、不思議に改善に向かいます。では、なぜ病気がよくなるのでしょう。
筋肉がこると、筋肉中の血管が圧迫されて血流が滞り、じゅうぶんな酸素や栄養が行き届かなくなります。筋肉で産生された代謝物や老廃物も、その場に蓄積されがちになります。こうした代謝産物が付近の末梢神経を刺激すれば、痛みや不快感が起こります。
このように、筋肉のコリが多くの病気や症状を招く原因の一つとなるのです。
筋肉のコリの中でも、特に首のコリが、最も病気を招きがちだと、私は考えています。
首は、人体の急所です。首には、首の骨の頸椎があり、食べたものを胃へ送る食道、吸った空気を肺に送る気管があり、動脈と静脈、さらに神経が通っています。首の筋肉に異常なコリが生じると、血管や神経を圧迫し、その影響が現れるというわけです。
厄介なことに、首のコリを解消するのは、極めて難しいことです。なぜなら、首や肩の筋肉は一層ではなく、何層にも重なっているからです。
私たちの体で、表面近くにあるのが表層筋です。例えば、肩の表層にある僧帽筋が表層筋になります。そして、僧帽筋の奥に重なる深層筋があります。僧帽筋は見えますが、深層筋はどこにあるのかを意識するのも難しいのです。
首や肩がこると、表層筋だけでなく、深層筋もこります。マッサージや指圧を受け、湿布薬を貼ると、表層筋のコリは比較的簡単に解消できますが、深層筋のコリはなかなか解消できません。
首のスジ押しのやり方

首の筋肉をほぐすと治療効果が上がった!
首や肩の頑固なコリを解消するために、何かよい方法はないかと、私は長年研究を続けてきました。そして、ようやく方法が見つかりました。その鍵が拮抗筋です。こっている筋肉ではなく、その拮抗筋を刺激することで、コリを解消できるという考え方になります。
ある動作をするとき、中心となる筋肉を主動筋といい、反対の働きをするのを拮抗筋と呼びます。主動筋が収縮し、拮抗筋が弛緩することで、関節をスムーズに曲げられるわけです。
首の後ろに重なる筋肉群の拮抗筋は、胸鎖乳突筋と椎前筋群です。胸鎖乳突筋は、耳の下から胸骨と鎖骨まで、首を斜めに通る筋肉です。顔を横に向けたとき、首に浮き出るスジが胸鎖乳突筋になります。そして、胸鎖乳突筋と首の骨の頸椎の間にある深層筋が、椎前筋群です。首の後ろ側の筋肉がこっている人は、胸鎖乳突筋や椎前筋群を刺激すると強い痛みがあります。
そこで、痛みをこらえ、胸鎖乳突筋と椎前筋群を1〜2分刺激することで、主動筋である首の後ろの筋肉が劇的に緩み、不思議なほど、首や周囲のコリが解消するのです。
このことを発見した私は、患者さんの胸鎖乳突筋などをほぐす施術を治療に取り入れることにしました。すると、驚くほど治療効果が上がりました。
ちなみに、当初私は、この方法は、首や首周辺のコリがもたらす病気や症状だけに効くものと思っていました。しかし、不思議なことに、体のさまざまな部分の病気や症状にも効くことがわかってきたのです。
なぜそんなに効くのかというと、首を通る迷走神経を刺激できるからです。迷走神経は、脳の延髄から出て、首から胸を通り、おなかにまで達している長い神経です。これほど広い範囲をカバーしているということは、ほとんどすべての内臓を支配している神経といえます。
実は、私たちの内臓や血管をコントロールしている自律神経のうち、副交感神経はこの迷走神経が大部分を占めます。そのため、迷走神経を刺激すると副交感神経が優位になるのです。
つまり、胸鎖乳突筋や椎前筋群を刺激すれば、副交感神経を優位にでき、さまざまなよい影響をもたらすわけです。

副交感神経を優位にできる!
首を温めてから行うと効果が高まる!
首のスジ押しは、想像以上の健康効果を秘めていました。そのやり方をお教えしましょう。
❶ 正面を向いた姿勢から、肩は動かさずに、できるだけ右を向きます。こうすると、左耳の下から鎖骨の内側まで続く胸鎖乳突筋が、太いスジになって浮かび上がります。
❷ 右手の親指を立てて、浮かび上がった首のスジと鎖骨が接するところに当てます。
首のスジの後ろ側の縁から、親指の先を筋肉の下に潜り込ませるように押し込み、そこに指を留め置いたまま、指の腹全体で円を描くようにします。
❸ 徐々に上へ移動させ、耳の後ろまでをマッサージしましょう。反対側も同様に行います。最後に、顔を向けにくかった側に向け、もう一度行います。
刺激する時間は、合計で1〜2分間です。コリがひどいときは、強い痛みを感じるかもしれませんが、このコリが改善すれば、痛みは軽減してきます。
ただし、冷えがあると、筋肉のコリがなかなか解消できません。そこで、使い捨てカイロやドライヤーの温風、蒸しタオルなどで、首をよく温めてから、マッサージを行ってください。
首のコリが解消すると、肩こりや頭痛はもちろん、疲労感や腰痛、耳鳴り、不眠、不定愁訴、高血圧などの生活習慣病、うつ病、そしてガンや慢性疲労症候群、線維筋痛症といった難病まで、症状が改善に向かいます。
解説者のプロフィール

班目健夫
1954年、山形県に生まれる。1980年、岩手医科大学医学部卒業後、同大学院進学、第一内科入局。
1984年、医学博士号取得。2004年より東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック講師。
2011年、青山・まだらめクリニック自律神経免疫治療研究所を開設。
西洋医学の専門領域は内科、肝臓学、消化器内科。西洋医学と東洋医学のいいところを取り入れた統合医療を実践している。
●青山・まだらめクリニック
https://www.dr-madarame.com/