多くの人が知らない「正しい爪の切り方」

フットケア外来を開設して驚いたのは、
ほとんどの患者さんが正しい爪の切り方を知らないことでした。
そして、それが爪のトラブルの原因になっていることがよくあるのです。
私たちが常識だと思っていることが、一
般の人たちにとって常識ではないことに、
少なからず衝撃を受けました。
あるとき、小学生の子どもたちの足の測定会に行ったことがあります。
みんなが爪をきれいに丸く切っているなかで、
巻き爪を治療するために爪を伸ばしている子どもが1人だけいました。
ところが、そういう爪では学校の検査に合格しないのだそうです。
爪は一律に短く切りそろえる。
しかも、指の形に沿って丸く切る。
それが一般的にいわれている正しい爪の切り方のようで、学校でもそう指導しているのでしょう。
どういう爪の切り方が正しいのか、学校側もわかっていないのです。
絶対してはいけない「深爪」と「バイアスカット」
巻き爪や陥入爪(巻いた爪が皮膚に食い込む状態)といった爪のトラブルを防ぐには、
「スクエアカット」といって、爪を四角に切ります。
爪を指の先端か、それより少し長めの位置でまっすぐに切り、
両端をヤスリでやや丸く整えます。
ヤスリのかけ方は、往復させず、
一方向にサッサッとなでるようにかけます。
ヤスリを往復してかけると、
爪の表面の縦の繊維に負担がかかって亀裂が入りやすくなります。
爪の弯曲に沿って、左右両端から中央に向かって半分ずつかけ、
最後に上から下にかけて仕上げます。
絶対にしてはいけないのが、爪を短く切りすぎる「深爪」と、
爪の角を斜めに切る「バイアスカット」です。
短く切りすぎると、指の先端が盛り上がって爪が埋もれた状態になり、
爪がまっすぐ伸びなくなります。
その結果、爪が肥厚したり、内側に巻いたりしてくるのです。
また、爪は繊維のように、
下から縦、横、縦の3層構造になっています。
ですから、爪の角を斜めに切ってしまうと、
布を斜めに切ったときと同じように、内側に巻きやすくなります。
足の爪は手の爪と違い、
好みやファッションで整えるものではありません。
地面をしっかり踏み締めて歩き、
転倒を予防するためのものです。
そのためには、爪が指の皮膚をしっかり覆って、
足指にかかる圧力に抵抗できるようにすることです。
足指の機能を維持するためにも、爪は四角く切りましょう。
それが、爪のトラブルの予防につながります。
爪を正しく切るためのコツ

爪にトラブルがある人はニッパー型爪切りがオススメ
患者さんから、
「どんな爪切りを使ったらよいのか」とよく聞かれます。
爪切りには、爪を上の刃と下の刃ではさんで断裁する「平型爪切り」と、
ペンチのような形をした「ニッパー型爪切り」があります。
一般的には平型爪切りが広く使われていますが、
医療や介護の世界ではニッパー型爪切りが主流です。
平型爪切りは切り口が尖っているので、爪が割れやすくなります。
また、刃先がカーブしているものが多いので、
爪が丸く切れて深爪しやすいという難点があります。
それに対してニッパー型爪切りは切れ味がよく、
まっすぐ切るのに適しています。
ですから、硬い爪、厚い爪、巻き爪、変形した爪など、
爪にトラブルがある場合はニッパー型のほうがいいでしょう。
刃先はカーブしているものではなく、
ストレート(直刃)のものを選んでください。
ただしニッパー型爪切りは、その形状から、
自分の爪を切るよりも人の爪を切るのに向いています。
ニッパー型爪切りで自分の爪を切るときは、
1度に多くを切ろうとせず、爪の端から少しずつそぎ落とすように切り込んでいきます。
また、爪をまっすぐ切るには、爪の先にテープをまっすぐに貼って、
そのテープに沿って切るといいでしょう。
なお、ニッパー型爪切りが使いにくいときは、
刃先をよく見て、刃がストレートになっている平型爪切りを選んでください。
次の記事では足のセルフケア(5)足トラブルを防ぐ「正しい歩き方」について紹介しましょう。
解説者のプロフィール

高山かおる(たかやま・かおる)
済生会川口総合病院皮膚科主任部長、東京医科歯科大学附属病院臨床准教授。
1995年、山形大学医学部卒。
日本の大学病院では稀有な皮膚科のフットケア外来を開局する。
難治性の巻き爪、陥入爪、肥厚爪、タコ、ウオノメなどの疾患を抱える患者に対して、トラブルの根治を目指した、原因の追及、診察、専門治療のほか、セルフケアの指導を行う。
フットケア師によるフットケア、オーダーメイドのインソール作製などによる免荷療法など、それぞれの専門家と連携を取りながらの保存的治療も積極的に導入している。
専門は、接触性皮膚炎、フットケア、美容。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。