足には常に大きな負荷がかかっている
足は小さい臓器です。
大人の女性の足なら、大きさはおおよそ20数センチ、男性の大きい足でも30センチを超える人はあまりいないでしょう。
私たちは、この小さい足で全体重を支えています。
しかも、歩いたり走ったりして、足には常に大きな負荷がかかっています。
足が簡単に壊れないのは、足がたくさんの骨で構成され、ほかに類を見ない絶妙な構造を持っているからです。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、「足は人間工学上の最高傑作であり、かつ最高の芸術作品だ」と述べているそうです。
人間の体には全部で200個ほどの骨があるといわれていますが、そのうちの約4分の1は足の骨です。
足先の、指を構成する趾骨が14個。
土踏まずの前方にあるMP関節(足指のつけ根の関節)を構成する中足骨が5個。
かかとを構成する足根骨が7個。
さらに、腱の中にある小さな種子骨が2個。
これらを足すと、片方の足には合計28個、両足合わせて56個もの骨があるのです。
趾骨、中足骨、足根骨の3つの骨群は、バランスよく足の機能を分担しています。
足根骨は硬く密着しており、かかとにある踵骨という太くて大きい骨を中心に、体重を支えています。
中足骨と趾骨は柔軟に動いて、中足骨で衝撃を和らげ、趾骨で前に進む推進力を生み出しています。
これらの骨を支えたり、結合したりしているのが、骨の周りについている腱や靭帯、筋肉などの軟部組織です。
腱は骨と筋肉をつなげる結合組織で、靭帯は骨と骨を結合して関節をつくる結合組織です。
これらの軟部組織は、足の骨をつなげて関節を形成し、足の機能を助け、強い衝撃や荷重にも耐えられる丈夫な足の構造を築いています。
足のしくみ

3つのアーチが足を衝撃から守っている
足を構成している骨は、かかと、足の第1指(親指)のつけ根、第5指(小指)のつけ根の3ヵ所を基点に、アーチ状に配列されています。
そしてこのアーチのしくみこそ、足の優れた機能を担うものなのです。
足のアーチは3つあります。
かかとから足の第1指のつけ根を結ぶ「内側の縦アーチ」、かかとから第5指のつけ根を結ぶ「外側の縦アーチ」、第1指から第5指までの5本の指を横に結ぶ「前方の横アーチ」です。
この3つのアーチで形成された3角形の弓状のアーチがあることで、体重は、かかと、足の第1指のつけ根、第5指のつけ根の3点に分散され支えられています。
長時間、バランスよく体重を支えることができるのは、この3つのアーチのおかげです。
また、足のアーチはしなやかで弾力があり、強い力に耐える強さを持っています。
地面に足が着地したとき、足には強い衝撃がかかりますが、足のアーチがバネのようにしなることで地面からの衝撃を吸収します。
足だけでなく、足関節やひざ関節、腰などへの負担も軽減します。クッションのように、アーチが足を守っているのです。
また、このアーチがバネのように働くことで、歩行をスムーズにしています。
私たちが歩くとき、重心はかかとから足の外側に移り、第5指のほうに移動していきます。
そして、足の第5指から第2指(人さし指)の4本で地面をつかむように踏み締め、第1指で蹴って前に進みます。
こうした一連の動きのなかで、全身のバランスを維持したり、体重移動をスムーズにしたり、足の第1指が強く蹴り出せたりするのは、足にアーチがあるからです。
この足のアーチの働きを助けているのが、趾骨と中足骨をつなぐMP関節です。この関節があるからこそ、足は屈曲し、前に進むことができます。
常時二足歩行ができるのは「アーチ」のおかげ
足のアーチは、生まれたばかりの赤ちゃんでは、まだ完成していません。
ハイハイしたり、つかまり立ちをしたり、歩いたりしているうちに、だんだんとアーチが形成されていきます。
興味深いことに、猿やチンパンジーの足にはアーチがないそうです。
猿やチンパンジーは二本足で立つことはありますが、人間のように常時、二足歩行はできません。
その違いは、足のアーチの有無にあると、慶応義塾大学月ヶ瀬リハビリテーションセンターの橋本健史先生(整形外科)は指摘されています。
足のアーチは、二足歩行を必要とする人間の進化の過程でできたものなのです。
最も負荷がかかり崩れやすい「前方の横アーチ」

このように、人間がバランスよく立ったり、スムーズに歩いたりするために、足のアーチはなくてはならないものです。ですから、足のアーチが崩れてしまうと、足の機能は著しく損なわれてしまいます。
3つのアーチのなかで、一番崩れやすいのが前方の横アーチです。
横アーチが崩れると足がベタッと開く開張足になり、歩くときに指で地面をしっかりとらえたり、足の第1指で地面を蹴ったりできなくなってしまいます。
足の指が使えなくなることで、さらにアーチは崩れ、足の機能はますます低下していきます。
かかとから足の第1指のつけ根を結ぶ内側の縦アーチは、土踏まずを形成するアーチです。
これが崩れた状態が、扁平足です。
扁平足の足は疲れやすく、地面からの衝撃を受けやすくなります。
かかとから足の第5指のつけ根を結ぶ外側の縦アーチが崩れると、歩くときの体重移動がスムーズに行えなくなります。足の外側に負担がかかって、O脚や内反小趾(第5指のつけ根の骨が外側に突き出た状態)の原因になります。
どのアーチも大事ですが、とりわけ重要なのが前方の横アーチです。
横アーチは最も負荷がかかりやすく、崩れやすい構造になっています。
その構造が崩れた開張足の状態が続くと、外反母趾(足の第1指のつけ根の骨が外側に突き出た状態)になりやすく、そこからタコやウオノメ、巻き爪(爪が横方向に巻いている状態)、陥入爪(巻いた爪が皮膚に食い込む状態)、肥厚爪(爪が上に重なって厚くなる状態)など、足のトラブルが派生します。
多くの足のトラブルの原因に、この横アーチの崩れがあるのです。
解説者のプロフィール

高山かおる(たかやま・かおる)
済生会川口総合病院皮膚科主任部長、東京医科歯科大学附属病院臨床准教授。1995年、山形大学医学部卒。日本の大学病院では稀有な皮膚科のフットケア外来を開局する。難治性の巻き爪、陥入爪、肥厚爪、タコ、ウオノメなどの疾患を抱える患者に対して、トラブルの根治を目指した、原因の追及、診察、専門治療のほか、セルフケアの指導を行う。フットケア師によるフットケア、オーダーメイドのインソール作製などによる免荷療法など、それぞれの専門家と連携を取りながらの保存的治療も積極的に導入している。専門は、接触性皮膚炎、フットケア、美容。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。

【好評】
『巻き爪、陥入爪、外反母趾の特効セルフケア (フットケア外来の医師がすすめる「足のトラブル」の治し方) 』高山かおる(著)