首の後ろのツボをこする「首こすり」とは
私はこれまで、多くの緑内障の患者さんを鍼で治療してきました。
十数年前、その経験の中で気づいたことがあります。緑内障の患者さんは、後頭部と首の境目辺りが非常にこっている人が多いのです。
しかも、そのコリを鍼でほぐすと、高かった眼球内の圧力(眼圧)が下がったり、視界がクリアになったりする患者さんが相次ぎました。
その経験から考案したのが、首の後ろのツボをこする「首こすり」です。
それ以来、私は緑内障の患者さんに、必ず首こすりを自宅で行うように勧めています。それを実践された患者さんからは、緑内障の症状が軽減していると、大変喜ばれています。
まずは、そういう患者さんの例をご紹介しましょう。
Tさん(69歳・女性)は3年前、孫と遊んでいて転倒し、左目を強打しました。眼科で検査してもらうと、眼圧が30mmHg(基準値は10〜21mmHg)と高く、緑内障と診断されました。
その眼科で手術を勧められたそうですが、手術はしたくないと、点眼薬で治療しながら当院の鍼治療を受けるようになりました。自宅でも首こすりを続けた結果、眼圧は18mmHgに低下。その後、緑内障が進行することはなく、目の状態も良好です。
緑内障が改善した症例報告
首こすりは、眼圧は正常なのに緑内障の症状が現れる、正常眼圧緑内障にも有効です。
ある日、目にピカッと閃光のような光を感じて眼科を受診したFさん(70歳代・女性)は、眼圧は15mmHgと高くないのに、緑内障と診断されました。Fさんにも、首こすりを勧めたところ、眼圧は11mmHgに下がり、10年たった今も、緑内障特有の視野狭窄は出ていません。
Iさん(81歳・女性)も正常眼圧緑内障と診断された一人です。検査では、右目の上のほうにわずかに黒い影が認められました。2年前、ふだんは14mmHg前後だった眼圧が、突然30mmHgに跳ね上がってしまいました。原因は不明です。
その後、点眼薬や漢方薬による治療で、眼圧は最も下がったときで15mmHg。以前のようには、もうひとつ安定しません。そこで、不安になったIさんは、当院を受診しました。
鍼治療とともに、自宅では首こすりを行ったところ、翌日には眼圧が13mmHgに下がり、安定するようになりました。
緑内障は、眼球の中を流れる房水という水が何らかの理由で滞り、眼圧が上がって視神経が障害を受ける病気です。進行すると視野が欠けていき、失明することもあります。しかも、障害を受けた視神経や欠けた視野は、現代の医学をもってしても元に戻らないといわれています。
ところが、このように首こすりをすると、緑内障の進行がおさえられたり、目をよい状態に保ったりすることができる人もいるのです。
首こすりのやり方

首のツボが「目」に効く理由
首こすりは、後頭部と首の境目にあるツボと、攅竹という目のツボの2ヵ所を刺激するものです。首のツボは、私が発見したツボで、「内田式脳点」と呼んでいます。
目のツボが目によいことはわかりますが、なぜ首のツボに効果があるのか、不思議に思われる人も多いでしょう。しかし、発生学の観点から見ると、目と脳には密接な関係があるのです。
発生学とは、簡単にいうと、受精卵が子宮に着床してから胎児になるまでの過程を研究する学問のことです。受精卵が分化する初期の段階では、子宮の中に皮膚があり、その中に脳と脊髄が浮かんでいます。脳からは細い糸のようなものが出ており、それが目になり、やがて脳の中に収まっていきます。
つまり、目は脳の一部なのです。したがって、首の後ろ(脳)を刺激すれば、目の症状が改善することは、じゅうぶん考えられることなのです。
この首こすりをすると、ほとんどの人が「目がスッキリして、視界が明るくなる」「目の疲れが取れる」といいます。これは、目の周囲の血流がよくなるからです。
首から後頭部にかけて、太い動脈が走っています。後頭部と首の境目にある「内田式脳点」の2点をこすると、この動脈の流れがよくなり、脳血流が改善します。その結果、目の周囲の血流もよくなります。
また、攅竹のツボは、疲れ目、視力の低下、飛蚊症、まぶたの腫れなどに効くツボです。ここを押すと脳の緊張がほぐれ、目がリラックスします。
このように、首こすりをして目の周囲の血流がよくなり、目の緊張が取れれば、滞っていた房水の流れもよくなり、眼圧が下がる可能性があります。
日本人は正常眼圧緑内障が多く、緑内障の約7割を占めるといわれています。正常眼圧緑内障は、数値は正常でもその人にとっては眼圧が高いということですから、その人の適正値まで下げる必要があります。眼圧が適正になれば、緑内障の進行もおさえられると思われます。
ただし、緑内障は失明することもある怖い病気ですから、必ず眼科の検査を定期的に受け、点眼薬などの治療も続けてください。それを補助する家庭療法として、首こすりはとても有効だと思います。
解説者のプロフィール

内田輝和
1970年、関西鍼灸柔整専門学校卒業。74年、東洋医学系教員養成課程修了後、普通科教員資格を得る。同年、鍼メディカルうちだ開業。87年、関西鍼灸短期大学非常勤講師として東洋医学系を担当。95年、鍼メディカルうちだ東京治療院開業。2013年、倉敷芸術科学大学生命科学部教授に就任。著書に『お尻美人になりたい』(マキノ出版)ほか多数。