肥厚爪とは
肥厚爪は、その名のとおり爪が厚くなる病変で、2つのタイプがあります。
1つは「厚硬爪甲」といって、爪が上に重なって厚くなっていくもの。
もう1つは「爪甲下角質増殖」といって、爪の下の角質が増殖して厚くなるものです。
前者は、主に足の第1指の爪に症状が現れます。
後者は、第1指以外にも起こります。
肥厚爪は原因不明のものも少なくなく、巻き爪や陥入爪、外反母趾と合併したり、爪をはがしたあとになったりする人もいます。
(1)厚硬爪甲(こうこうそうこう)
深爪が原因で爪が厚くなっていくこともある
放置すると爪甲鉤弯症(そうこうこうわんしょう)になることも
爪全体が上に重なり、厚く、硬くなった状態です。
爪の色が混濁し、灰色から茶褐色、黒、緑色に変色していきます。
放置すると、爪が鉤型に弯曲する爪甲鉤弯症(そうこうこうわんしょう)という爪病変になることがあります。
爪甲鉤弯症になると、カタツムリの殻のように爪がふくらみ、爪が前ではなく、後方を向いてしまうこともあります。
厚硬爪甲の主な原因は外傷によるものですが、深爪も原因になることがあります。
爪(爪甲)は、足指の先端の骨(末節骨)にかかる軟部組織を覆うことで、指先にかかる体重とのバランスを取り、体を支えたり、歩くときに後ろに蹴り出したりすることができます。
ところが、爪を短く切り過ぎると、本来なら爪甲で覆われている指先の軟部組織が露出します。
その状態で足指に力が加わったとき、地面から受ける上向きの圧力によって、軟部組織が盛り上がってきます。
爪が伸びるとき、盛り上がった軟部組織にぶつかるとそれ以上伸びることができずに、爪が厚くなっていきます。
爪が厚くなって正常に伸びることができなくなると、爪の下に新たな爪が爪母から伸びて層状に重なっていきます。
これが厚硬爪甲の状態です。
また、なんらかの原因で爪がなかった時期が長かったりすると、足の第1指の末節骨が突出して、爪がそこから伸びることができなくなることがあります。
その場合、足の第1指の爪の繊維が、第2指寄りになっていることが多く、爪が曲がりながら肥厚します。
厚硬爪甲になると、爪が厚いために指が靴にぶつかったり、爪が指に食い込んだりします。
そうなると痛みがひどくなり、歩行が困難になったり、日常生活に支障をきたしたりするようになります。
(2)爪甲下角質増殖(そうこうかかくしつぞうしょく)
原因はさまざまで5指すべてに起こる可能性あり

爪床から押し上げられ、爪が厚くなった状態
爪甲下角質増殖は、爪白癬(爪水虫)からなってしまうことが多い病変です。
窮屈な靴など、外部から強い圧力が加わったりしたときにもなります。
後者の場合は、足の第1指以外の指にも起こります。
例えば、靴からの物理的な圧迫を受けたり、体重が増加したりして指先に圧力がかかると、爪周りの軟部組織が盛り上がり、爪が圧迫されます。
すると、5本の足指の爪が全体的に小さく厚く変形し、爪の下に角質がたまってきます。
また、外反母趾で、足の第2指と第3指がハンマートゥで変形していると、足の第2指と第3指の爪にこの症状が起こります。
これは、足の第2指と第3指が変形することで地面に強く接し、下からの圧迫が強くなるためだと考えられます。
圧迫が続くと、指先の先端部分の皮膚が角化して硬くなり、爪も厚くなります。
さらにギリシャ型の足といって、第1指より第2指が長い人は、外からの圧迫を受けやすく、爪甲下角質増殖を起こしやすくなります。
ギリシャ型の足は爪甲下角質増殖を起こしやすい

肥厚爪の予防と対策
予防としては、深爪をしない、自分の足に合った靴を履く、足水虫にならないように気をつける、といったことが大事です。
肥厚爪になったら、自分でできることは限られています。
保湿したり、爪を切ったり削ったりするくらいです。
治療に関していえば、有効な方法が確立されていないのが現状です、爪を削ることをはじめ、保存的治療を目的としたフットケアを中心に行います。
爪が曲がって肥厚しているような場合は、爪の繊維の向きをまっすぐに整えたり、本来の方向に伸びるような溝づけを行ったりします。
また、爪が末節骨を超えて伸びていけるように、アクリル爪をつけることもあります。
爪水虫が治ってもまた肥厚爪が生えてくる?
また、肥厚爪、特に爪甲下角質増殖は爪白癬(爪水虫)が原因となることが多いので、爪白癬がないかどうかを調べ、白癬菌が見つかったらその治療を行います。
ところが、爪白癬が治っても、生え変わった爪がまた肥厚爪になることがあります。
これは、爪母に変形の記憶が残ってしまうためと考えられています。
爪が1度変形すると治りにくいのは、そのためだといわれています。
肥厚爪のフットケア
爪の切り方
厚く硬くなっている爪は、普通に切るとパチンと割れてしまいます。
それを防ぐために、斜めに切り込みを入れたあと、少しずつ爪を切ります。
自分で爪が切れないときは、家族に切ってもらってください。
その場合は、ニッパー型で刃のまっすぐなタイプの爪切りのほうが使いやすいでしょう。

爪の削り方
デコボコしているところや、厚くなっているところを、一方向に削ります。
ただし、削りすぎは禁物です。
少しずつ削ってください。
解説者のプロフィール

高山かおる(たかやま・かおる)
済生会川口総合病院皮膚科主任部長、東京医科歯科大学附属病院臨床准教授。
1995年、山形大学医学部卒。
日本の大学病院では稀有な皮膚科のフットケア外来を開局する。
難治性の巻き爪、陥入爪、肥厚爪、タコ、ウオノメなどの疾患を抱える患者に対して、トラブルの根治を目指した、原因の追及、診察、専門治療のほか、セルフケアの指導を行う。
フットケア師によるフットケア、オーダーメイドのインソール作製などによる免荷療法など、それぞれの専門家と連携を取りながらの保存的治療も積極的に導入している。
専門は、接触性皮膚炎、フットケア、美容。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。

【好評】
『巻き爪、陥入爪、外反母趾の特効セルフケア (フットケア外来の医師がすすめる「足のトラブル」の治し方) 』高山かおる(著)
爪が上に厚く重なった厚硬爪甲(写真上)。
爪が鉤型に弯曲した爪甲鉤弯症(写真下)