解説者のプロフィール

堀田修(ほった・おさむ)
●堀田修クリニック
宮城県仙台市若林区六丁の目南町2番39号
022-390-6033
http://hoc.ne.jp/
堀田修クリニック院長。1988年にIgA腎症の根治治療として扁摘パルス療法を考案。扁桃、上咽頭、歯などの病巣感染(炎症)が引き起こす様々な疾患の臨床と研究を行う。
腎臓病の根本治療に取り組んでいる
日本では現在、脳神経外科、消化器外科、泌尿器科など、臓器ごとに科が分けられ、細分化・専門化が進んでいます。
高度な先進医療が多くの患者さんの命を救っている一方で、高血圧などの生活習慣病や慢性腎臓病などは、へるどころか増加し続けています。
なぜでしょうか。
医師も患者さんも、検査数値にばかり気を取られ、病気の根本原因を見過ごしているからです。
このままでは、どんなに優れた手術法や薬が開発されても、症状が一時的に改善するだけで、慢性疾患を根本から克服することはできません。
私は長年、腎臓の病気を専門に診療を行ってきました。
腎臓病の患者さんを診る中で、その根本原因が腎臓だけではないということに気づいたのです。
現在、上咽頭(鼻の奥)の炎症が、腎臓病と深くかかわっていることがわかったため、耳鼻咽喉科や歯科とも連携を取りながら、腎臓病の根本治療を行っています。
皆さんは、腎臓病は自分とは関係のない病気だと思っているかもしれません。
しかし、現在日本では、約30万人もの末期腎不全患者が、人工透析を受けています。
人工透析とは、腎臓の代わりに機械を使って血液をろ過する療法です。
腎不全になる病気のトップは糖尿病性腎症、2番目が慢性糸し球体腎炎、3番目は高血圧が原因の腎硬化症です。
これらはすべて血管の病気であり、腎臓病とはすなわち血管の病気だといえるのです。
血管の病気である腎臓病は、血圧とも影響し合っています。
腎臓の大きな役割は、体内の老廃物をろ過して尿を作ることです。
しかし、腎機能が衰えると、老廃物がきちんと排出されなくなり、本来なら排出されるはずのナトリウムなどが血液中に残ってしまいます。
それを排出するために、体内を循環する血液量が増加し、血圧が上がるのです。
腎臓は細い動脈の塊です。
血圧が上がると、腎臓の細い血管が障害を受けたりつぶれたりして、少なくなります。
そうなると、少ない血管に血液が流れ込み、さらに血圧が上がるという「負のスパイラル」に陥ってしまいます。
したがって、腎臓病の治療をするうえで、血圧をコントロールするということは、非常に重要なのです。
鼻の奥の炎症が血圧と腎臓に悪影響を及ぼす
「全身を診て腎臓病を治す」という治療理念のもと、私は患者さんに対して、生活指導を積極的に行っています。
なかでも最も力を入れているのが、「鼻呼吸」です。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病や、腎臓病で受診する患者さんは、「口呼吸」の習慣を持っているかたが少なくありません。
空気中には、ほこりや花粉、細菌、ウイルス、化学物質などが浮遊しています。
鼻から空気を吸い込めば、鼻毛や鼻粘膜、粘液でこうした異物が処理され、鼻水となって排出されます。
この関門を通り抜けて、浄化された空気中に残ったわずかな病原体も、次に上咽頭の繊毛(細胞表面に密生する細く短い毛)とリンパ組織でつかまるしくみになっています。
ほ乳類の体は、空気中の見えない外敵から身を守るために、鼻呼吸をするようにできているのです。
一方で、口は呼吸をする構造になっていません。
口から空気を吸うと、雑菌をろ過するところがないばかりか、口腔内が乾燥して、唾液による殺菌作用が発揮されなくなります。
口の中に雑菌が繁殖しやすい状態になるのです。
その結果、口から入った浄化されていない空気にさらされて上咽頭が炎症を起こしやすくなります。
いわゆるカゼは、急性の上咽頭炎です。
上咽頭が自律神経と密接にかかわっていることは、すでに証明されています。
自律神経とは、内臓や血管を調整する神経です。
上咽頭の炎症が慢性化すると、自律神経のバランスがくずれ、血流障害が起こったり、血圧が上がったりします。
また、上咽頭の炎症が、腎臓など離れた臓器に、障害や炎症を起こすことも明らかになっています。
こうして体の各所に炎症が起こると、自律神経のうち、体を活動的にする交感神経が優位になり、さらに高血圧に拍車がかかるのです。
つまり、口呼吸によって引き起こされる上咽頭の炎症は、腎臓病はもとより、高血圧の原因にもなります。
したがって、口呼吸がクセになっている人は、すぐに鼻呼吸に変えることが重要です。

鼻呼吸と口呼吸を確認する方法
自分が鼻呼吸なのか、口呼吸なのか、確認する方法を紹介しましょう。
口を閉じてください。
舌の先がどこに当たっていますか?鼻呼吸の人は、舌の先が上あごにつきます。
いっぽう口呼吸の人は、舌先が上前歯や下前歯につきます。
つまり、舌の位置が低くなっているのです。
口呼吸の人は、まず、口を閉じて食べ物をよくかむことを心がけましょう。
口周りの筋肉やあごが鍛えられ、口呼吸のクセを直すトレーニングになります。
また、別記事の「あいうべ体操」もお勧めです。
自分で実行するだけでなく、お子さんやお孫さんにも鼻呼吸を勧めてください。
それが、将来の高血圧、腎臓病、人工透析を回避する大きな力となります。