メンタルケア後に8割は降圧剤を中止か減薬!
高血圧と診断されたら、多くの人は、一生薬を飲み続けなければならないと思っているのではないでしょうか。
そんなことはありません。
高血圧は、遺伝や加齢、食事、ストレスなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こっています。
そのなかでも、私が特に大きな原因と考えているのは、「ストレス」です。
血圧は、自律神経によってコントロールされています。
自律神経のうち、交感神経は活動時に、副交感神経は休息時に活発になります。
ストレスがかかると、交感神経が優位になって、血圧が高くなるのです。
高血圧の患者さんであっても、明らかな原因疾患がない限り、まずはメンタルケアを行います。
患者さんが、何に悩み、ストレスを感じているのかを、じっくりと見極めて、ケアしていくのです。
すると、即座に血圧が下がってくるケースが少なくありません。
血圧を上げていた大きな原因が、ストレスだったということでしょう。
血圧が下がったら、降圧剤をゆっくりへらしていきます。
薬をへらしても、血圧が上昇することはほとんどありません。
それどころか、どんどん下がって薬を完全にやめられる人もいます。
私の外来では、約8割が降圧剤をやめるか減薬しています。
つまり、高血圧の原因がストレスであるなら、そのストレスが解消すれば、薬を飲み続ける必要はないのです。
男性の場合、定年退職後が薬を見直す一つのチャンスです。
仕事のストレスが原因で血圧が高くなっていた人が、退職してストレスから解放されると、血圧が下がって薬が不要になるケースが多々あるからです。
逆に、ストレスがなくなり血圧が下がっているにもかかわらず、薬を飲み続けていると、さまざまな弊害が起こります。
血圧が下がりすぎると、今度は血流が不足して、めまいやふらつきなどの症状が現れます。
すると、多くの人は耳鼻咽喉科へ行って、めまいの薬を飲むことになるでしょう。
そのうち、眠れなくなると睡眠導入剤、胃が痛くなると胃薬……と、薬はどんどんふえていきます。
その結果、肝機能が悪くなる、うつ状態になる、という悪循環に陥っていくのです。

『妻の病気の9割は夫がつくる』(医師が教える「夫源病」の治し方)
医師の協力がなければ主治医の変更も検討を
私の患者さんで、こんな症例もありました。
その人は50代後半の男性。
会社勤めで、管理職に就いていたときに、高血圧を指摘され、降圧剤を飲み始めたそうです。
当時の最大血圧は、170㎜Hgありました。
ところが、夜中に何度もトイレに起きるようになり、泌尿器科を受診すると、前立腺肥大の薬を処方されました。
その後、定年退職をしてから、めまいがひどくなり、私の外来を受診されました。
薬を見ると、最初に処方された降圧剤には利尿薬が含まれていました。
そして、前立腺肥大の薬は降圧作用のあるものでした。
ひどいめまいの原因は、薬の降圧作用と、退職してストレスがへったことが重なり、血圧が下がりすぎたせいでしょう。
少しずつ薬をへらしていくと、めまいや夜中の頻尿は改善。
最大血圧は130㎜Hgで安定しており、最終的にはすべての薬をやめてもらいました。
最近の米国の論文では、「降圧剤を服用している高齢者は、転倒して股関節や頭部を骨折する可能性が高い」という報告もあります。
薬の弊害という面から見ても、いつまでも薬を服用し続けるのは考えものなのではないでしょうか。
ストレスが明らかに軽減したなら、そのタイミングで薬を見直すべきです。
もちろん、定年退職したすべての男性がストレスから解放されるわけではないでしょう。
逆に、退職後、何もしないことがストレスになって血圧が上がるという人もいます。
そのような人は、やりがいのある仕事や趣味を見つけることが、血圧対策になるはずです。
女性の場合、50歳を過ぎるころから血圧が上がる人が多くいます。
世間一般には更年期といわれていますが、私は、定年を迎えた夫が家にいることによるストレスが原因ではないかと考えています。
これを、「夫源病」と名づけたところ、多くの女性たちから共感を得ました。
いずれにしても、高血圧の背景にストレスがあるなら、それを軽減させることで、血圧が下がり、降圧剤をへらしたり、やめられたりする可能性はじゅうぶんあります。
ストレス解消には、軽い有酸素運動や、女性なら外に出てご主人と離れる時間を持つのもよいでしょう。
男性には、料理がお勧め。
料理は、夫の定年後の楽しみになるだけではありません。
食事の世話をしなくて済むので、妻もストレス軽減になるのです。
ストレスが軽減して血圧が下がってきたら、医師に相談しながら、降圧剤をゆっくりへらしていきましょう。
医師の協力が得られなければ、主治医を変えることも必要かもしれません。

石蔵文信
三重大学医学部卒業、国立循環器センター、米国のメイヨ—・クリニック、大阪大学大学院医学系研究科准教授、大阪樟蔭女子大学学芸学部健康栄養学科教授を経て、現在大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授。循環器科専門医。うつ病学会評議員。自殺予防学会理事。一般医・精神科ネットワーク代表世話人。大阪、東京で男性更年期外来を持つ。著書に『妻の病気の9割は夫がつくる』(マキノ出版)などがある
夫源病(ふげんびょう)とは、「夫の存在」を原因とする、妻側の病気や症状のこと