解説者のプロフィール

太田光明(おおた・みつあき)
東京農業大学動物介在療法学研究室教授。
1950年、愛知県生まれ。
東京大学農学部を卒業。同大学院修士課程を修了。
財団法人競走馬理化学研究所、東京大学助手、大阪府立大学助教授、麻布大学獣医学部教授を経て、現職。
農学博士、獣医師。
専門は獣医生理学、人と動物の関係学。
欧米では医療現場でアニマルセラピーを活用
私の専門分野は「アニマルセラピー」です。
動物の特性が、人間の心身の健康に与える影響を、科学的に究明していくのが研究の目的です。
私は長年猫を飼っており、猫が人間にもたらす健康効果を確信しています。
しかし、猫に限ったことではありませんが、アニマルセラピーの効果は、今ひとつ定かではありません。
被験者数がとても少なく、信頼に足る科学的根拠がないからです。
ただ欧米の医療現場は、日本と異なり、エビデンスが乏しい治療法でも、有効性が少しでも期待できれば、積極的に治療に活用する傾向があります。
そのため、注目に値するアニマルセラピーの症例報告が、世界にはいくつもあるのです(※)。
※ ドイツではアニマルセラピーが公的な医療行為として認められており、アメリカやイギリスでも治療に取り入れる病院が増加。日本では、アニマルセラピーは厚生労働省に認められておらず、普及が妨げられている
その1つが、「猫のゴロゴロ音」です。
猫が喉の奥で発するゴロゴロ音を聴くと、血流促進、免疫力の増進、骨密度の回復が促されるのです。
猫のゴロゴロ音はイルカの鳴き声に似ている

ゴロゴロ音によるセラピーは、すでに広く臨床的に活用されています。
特にさかんなのはフランスで、骨折の回復に用いる例が多いようです。
アメリカでは、エイズ患者の延命に役立ったとの報告もあります。
実は、猫のゴロゴロ音は、イルカの「クリック音」という鳴き声によく似ています。
イルカのクリック音には、人間の脳を効果的に刺激し、脳性まひや自閉症、認知症を回復させる可能性があります。
症例報告も多く、私も実際に、脳性まひの症状を劇的に克服した患者さんにお会いしました。
ただ、患者さんがイルカの声を聞ける環境を作り、実験を積み重ねるのは容易ではありません。
そのため私は、イルカの声の代替として、猫のゴロゴロ音に関心を持ち、研究を進めているのです。
実際に猫がいなくても健康効果は得られると判明!
実際に猫に触れた場合と、猫の重さや手触りを再現したぬいぐるみに触れた場合、それぞれでの脳の血流を調べたことがあります。
その結果、いずれの場合にもほぼ同様に脳の血流がよくなるとわかりました。

脳血流の促進は、脳血管障害はもちろん、認知症や自律神経失調症など、さまざまな症状を改善します。
一方、猫を見るだけでは、脳の血流変化はさほどではありませんでした。
実際に目の前に猫がいなくても、「ここに猫がいる」とリアルにイメージすることが重要です。
ゴロゴロ音を日常的にCDで聴くのもお勧め
猫がゴロゴロ音を出すのは、ネズミに噛まれた傷を治すためとの説があります。
猫はいつもゴロゴロ言っているわけではなく、いざゴロゴロしても、音量が小さくて聞きとりにくい場合もあります。
ゴロゴロ音を日常的に耳にするには、CDなどを使うのがいいかもしれません。