解説者のプロフィール

内野勝行(うちの・かつゆき)
●金町脳神経内科・耳鼻咽喉科
東京都葛飾区金町6-4-3 金町メディカルモール401
03-5660-5211
http://knoc.jp/
金町脳神経内科・耳鼻咽喉科院長。
帝京大学医学部を卒業後、神経内科に入局し神経救急や変性疾患などを専門に扱う。2015年に金町脳神経内科・耳鼻咽喉科を開業し、東京都葛飾区認知症対策委員を務める傍ら、外来と訪問で月100人以上の認知症患者を診察している。薬物治療のみではなく栄養指導や介護環境整備、家族のサポートなど積極的認知症治療を行っている。テレビや講演などでも活躍中。
頭の圧迫を取れば不眠やめまいも解消できる
おでこに両手の指を当て、おでこの皮膚を引っ張るように、上下に動かしてください。骨の上で、皮膚が数センチ滑るように動くはずです。
では、頭のてっぺんに指を当て、同じように動かしてください。
おでこと同じように動きますか。もし、おでこの皮膚より、頭のてっぺんの皮膚が動かなかったら、頭皮が緊張しています。
「頭皮の緊張なんて、意識したことがありませんでした」というかたが、ほとんどだと思います。
しかし、頭皮がカチカチに緊張していれば、頭痛や頭重感といった、不快感に見舞われやすくなります。
私の専門は神経内科です。クリニックを訪れる患者さんの多くは、慢性頭痛を抱えています。
患者さんの頭部を触ると、9割以上のかたの頭皮が、カチカチにこっています。
頭皮の緊張という言葉を使いましたが、正しくは、「頭の筋膜の緊張」です。
頭の筋膜とは、頭を、すっぽりと包み込んでいる白い膜のようなものです(下の図を参照)。
頭の筋膜は、頭の筋肉や首の筋肉とつながっています。
筋膜は、筋肉と違い、自ら伸び縮みできず、つながった筋肉に引っ張られます。
頭の筋肉や、首の筋肉を酷使していると、筋肉が硬くなり縮みます。
頭や首の筋肉が縮むと、頭の筋膜も影響を受けて、前後左右にピンと引っ張られ、緊張します。
これはまるで、小さいヘルメットを被っているようなものです。
頭が圧迫され、頭の血流が悪くなるので、頭痛が起こるわけです。
また、脳も圧迫されるので、脳神経や脳の血流にも影響します。
脳が圧迫されると「自律神経」の働きにも問題が生じます。
自律神経は、内臓や血管の働き、呼吸や消化、発汗やホルモン分泌など、私たちが普段意識しない体の働きをコントロールしてくれている神経で、全身に張り巡らされています。
この自律神経の司令塔が、脳にあります。ですから、脳が圧迫されると、自律神経もうまく働かなくなってしまうのです。
「寝つけない」「熟睡できない」といった不眠症を起こしやすくなったり、「イライラしやすい」「やる気が出ない」など、心が不安定になったりします。
そのほかに、めまいや耳鳴り、冷え性や体のほてりなどにも、自律神経の乱れが潜んでいます。
耳の上の筋肉をほぐすと脳の圧迫が取れやすい
ただ、安心してください。頭の筋膜を即座にゆるめ、脳の圧迫を取る簡単な方法があります。
ポイントは、頭の筋膜とつながる頭や首の筋肉をほぐしてあげることです。そうすれば頭の筋膜もゆるみます。
特にほぐしたいのが、耳の上にある「側頭筋」という筋肉です。
側頭筋は、何かを見たり食べたりするときに使うので、酷使しやすく、硬くなりやすいのです。「側頭筋に頭のストレスが現れる」といっても、過言ではありません。
下記で紹介する「耳の上ほぐし」は、側頭筋をほぐし、脳を圧迫から解放する効果があります。
頭の筋膜をゆるめれば、自律神経を介して、脳だけでなく体や心の不調改善にも、効果があるはずです。
■頭の筋肉をほぐせば脳を圧迫から解放できる!

頭や首の筋肉が緊張すると、筋膜が引っ張られ、頭が締め付けられ脳も圧迫される

頭や首の筋肉をほぐせば、筋膜もゆるみ頭が圧迫から解放される
「耳の上ほぐし」を就寝前に行えば眠りやすくなる
「耳の上ほぐし」は、ヘルメットのように頭を圧迫している”筋膜の緊張”を、手間をかけずにゆるめる、とても簡単な方法です(下記①)。
耳の上ほぐしは、私もシャワーを浴びながらよく行っています。
耳の上をほぐすことで、もっとも酷使しやすい頭の筋肉である「側頭筋」をゆるめます。
また、パソコンやスマホの長時間使用で、硬くなりやすい「後頭部〜首の筋肉」をほぐして、頭の筋膜をゆるめる方法も紹介します。
頭の圧迫が緩和されれば、自律神経のうちリラックスモードを担当している「副交感神経」のスイッチが入ります。
頭の筋膜をゆるめることで、全身を休息状態に導けるということです。ですから、就寝前に耳の上ほぐしを行えば、寝つきがよくなる、ぐっすり眠れるといった、安眠効果を期待できます。
副交感神経が活性化すると、血管が広がるので、頭や脳の血流がよくなり頭痛が改善されます。
血流がよくなれば、筋肉の使い過ぎでたまった疲労物質も排出されやすいので、頭の筋肉がこりにくくなるという、好循環が生まれます。
頭の筋膜をゆるめる方法①「耳の上ほぐし」のやり方

ほぐす部位
頭の中でも耳の上に広がる側頭筋は特にこりやすい。ほぐすと、歯ぎしり改善にもつながる

❶手で「グー」をつくり、薬指と小指の第二関節を、耳の上に押し当てる

❷耳の上に、薬指と小指の第二関節をグッと押し当て、グリグリと上下に細かく動かす。心の中で10秒数え終わるまで行う。頭が疲れたときにやると、筋膜の緊張をリセットできる
頭痛薬を飲まなくなった!めまいや肩こりも軽減
私は、患者さんにも耳の上ほぐしを勧めており、試してくれたかたには成果が認められています。
70代男性のAさんは頸椎症で、慢性頭痛、頭重感じ、左腕がしびれて、手を上げられないことに悩んでいました。
20年以上も整体に通っていたのですが、改善する兆しはなく、ずっと頭痛薬を飲んでいたと言います。
Aさんには、耳の上ほぐしを勧めつつ、適度に体を動かすようにお伝えしました。
すると、徐々にですが、長年苦しめられてきた頸椎症の症状が軽減していきました。
今では、腕が上がるようになり、「頭痛薬をほとんど飲まなくなりました」と喜んでいます。
美容師をしている50代女性のBさんは、職業柄、つらい肩こりに悩んでいました。
さらに、更年期を迎えてからは、肩こりに加えて、めまいにも襲われるようになりました。
耳鼻科で精密検査を受けても、めまいの原因はわかりません。
Bさんのめまいは、首のこりが原因となっている、「頸性めまい」と呼ばれるものです。
このタイプのめまいには、特に「首の生え際ほぐし」(下記②)が有効です。
Bさんは、頭の圧迫が取れていくにつれて、「めまいだけでなく、長年の肩こりも軽くなった」と喜ばれていました。
何をしてもよくならない症状には、頭の筋膜の緊張を疑ってみてください。
不調の根本から解消する耳の上ほぐしをお役立ていただき、「これがあればだいじょうぶ」という安心感を、持っていただきたいと思います。
頭の筋膜をゆるめる方法②「首の生え際ほぐし」のやり方

ほぐす部位
パソコンやスマホなど、前かがみの姿勢が続くと、後頭部から首にかけての筋肉がこりやすい

首の生え際のところにテニスボールを置き、そのまま横になるだけ。ストレッチポールで代用してもいい