解説者のプロフィール

大場隆吉(おおば・たかよし)
スカルプケアサロンOHBA代表・スカルププロデューサー。
1951年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業後、日本に西洋の近代理美容技術を導入した「ヘアドレッシングOHBA(1882年創業)」の4代目として研鑽をつむ。2007年から2017年までの10年間、天皇陛下(当時)・皇太子殿下(当時)の御調髪を担当。30年前より頭皮を研究し、2005年には日本スカルプケア協会を設立。「ゼログラムタッチ」を提唱し、東京・赤坂にある「頭皮専門サロンOHBA」での施術のほか、「頭皮の専門家」として活動している。
●http://www.ohba.ne.jp/
きっかけは父に言われた言葉「さわやかな風が顔にこない」
1882年創業のOHBAは、祖父 秀吉、父 栄一、私と父子三代にわたって、天皇陛下(当時:現上皇陛下)・皇太子殿下(当時:現天皇陛下)の御調髪を担当させていただきました。
その四代目としてOHBAを引き継いだ私は、今でこそ、触れる技術には絶対の自信を持っていますが、若い頃は、自分の技術に自信が持てずに悩みに悩んでいました。
お客様に接するようになり10年がたち、やっとご要望にも応えられるようになり、一人前になれたと思っていた頃のことです。
夜、当時の弟子達と顔の仕上げの練習をしていたときです。通りすがった父から「タオルで顔を拭くときのタオルの使い方が違う」という一言が、私を打ちのめしました。顔の拭き取りの技術も手順も、決して間違ってはいないはずでした。
父は、「おまえが拭くと顔にさわやかな風がこない」
また、「タオルをタオルとして使えていない。雑巾のように使うな」と言うのです。
私はそう言われてもピンときません。なぜそんなに「風」が重要なのかもわかりませんでした。が、父の施術をあらためて見ていると、お客様の肌や髪・頭皮に触れるときに、自分とは、何かが大きく違うということだけはわかりました。
それからは、父と私との違いを必死に模索する日々が続き、父の死後も懸命に模索し続けておりましたが、これが答えだというものにたどり着きませんでした。
OHBAの技術は、お客様への敬意から入り、息がかからないようにするなど心配りの行き届いた技術の連続でしたので、触れることひとつ取ってみても、決して、乱雑さとは真逆の、優しさに溢れていることだけはわかっていました。

祖父・大場秀吉は、西洋理髪の第一人者となり昭和天皇の御調髪を皇太子時代も含めて8年間担当した初代「天皇の理髪師」

父・大場栄一は「天皇の理髪師」五代目。召集令状が届くまでの2年半、昭和天皇の御調髪を担当した
重さを感じない心地いい触れ方「ゼログラムタッチ」
そんな中、約20年前、入社したてのスタッフを教えていたときのことです。
お客様は、髪をカットするだけではなく、寛ぎにいらしているので、強く触れることは、OHBAでは御法度なのですが、お客様に対しての触れ方の加減がわからない子たちに、「優しく触るように!」「ていねいに触れること!」と教えても、なかなか上達してくれませんでした。
そんなとき、当社のディレクター・古中美どりさんが発した言葉に、私ははっとしました。
「先生の手は重さを感じません。ゼログラムで触れているということではないでしょうか?」
「それだ!お客様へのその触れ方が大事なんだ!」と私は叫びました。タオルを顔にバサッと落とすと、風が来ない。しかし、さーっとふわっとかければ、重さではなく、風が来るのです。
それは、心地いい風が肌をなで、その後、タオルのパイルの目地1つひとつが、細胞1つひとつをケアするように、肌を優しく包み込んでくれるのです。
そっと触れることは、ゼログラムの力で触れるということで、優しさが伝わる瞬間でもあったのです。父が言っていたのは、まさにこのことでした。
そして、長い歳月をかけて、私はやっと「ゼログラムタッチ」という、心地いい触れ方に気づいたのです。
頭皮の状態が施術前と格段に違う!
「ゼログラムタッチ」と言うと、「ほんとうにゼログラムで触れられるの?」と疑問に思うかたもいらっしゃるでしょう。私は、実際に計量器に指を乗せて、どうすればゼログラムになるか試してみました。
すると、指の腹から近づけて、計量器に乗せる手前で寸止めをし、そのままそーっと乗せることで、ゼログラムで計量器に触れられることがわかりました。
ゼログラムを体に身につけるため、毎日、計量器で試しましたが、イライラしているときは、1回ではゼロでは止まってくれません。一方で、落ち着いた気分のいい日は、1回で、すーっとゼロになります。
これは、人に触れるとき、自分の気分の良し悪しが相手に伝わってしまうということにほかなりません。
逆に言えば、触れ始めと終わりをゼログラムの力で触れるゼログラムタッチを実践すると、お客様の表情が柔和になったり、返ってくる言葉が優しくなったりします。
しかも、ゼログラムタッチでケアすると、頭皮の施術後の状態も格段に違うことがわかりました。
頭皮に指で触れるとき、いきなりガツッと触れると、アリがゾウに踏まれるようなイメージで、いくら元気な細胞でも、異変を起こしてしまうかもしれません。
触れる寸前の3秒と、触れ終わりの3秒をゼログラムタッチにすると、細胞は安心して触れられる行為を受け入れることができ、触れられた後も、ふわーっと心地いい余韻が残り、細胞の活性化が期待できます。
さらに、1、2、3と呼吸のリズムでゆっくり焦らずに動かすことで、リラックス効果がアップします。
このゼログラムタッチを、たった3分、シャンプータイムに行うだけで、汚れを落とすだけでなく、細胞が喜び、全身の健康のためのシャンプーになるのです。
相手も自分もふわーっと心地よくなる「ゼログラムタッチ」のやり方

家庭用のはかりで試してみると、どれだけ繊細な触り方かが実感できる。コツは、触れる直前で寸止めしてから、ふわっと指の腹を乗せること

❶触れはじめの3秒を、触れる直前で寸止めして、ふわっと指の腹を乗せて「ゼログラムタッチ」に

❷そのままふわっと皮膚に密着させてから、呼吸のリズムで吐く息をたいせつにしながらゆっくり動かす

❸離すときも、3秒「ゼログラムタッチ」をしてから、ふわっと離す
抜け毛は、頭頂部の血流悪化と老廃物が原因
抜け毛・薄毛で悩んでいるかたは、特に頭頂部や生え際が気になるかたが多いと思います。なぜなら、頭頂部や生え際には、髪の毛の栄養となる血液が届きづらく、栄養不足から髪の毛の成長を阻害し、抜け毛になりやすいからです。
また、ご自身でやってみるとわかりますが、頭頂部(耳の上からてっぺんのあたり)だけは、手を触れないと、いくら顔をしかめても、頭を振っても、動かないのがわかります。
なぜなら、頭頂部は、血液を送り届けるポンプとなる筋肉がなく、「帽状腱膜」という筋膜で覆われているからです。だからこそ、自分の手で触れて、動かしてあげて、血液が行き渡るようにすることが大切なのです。
そのために、普段、あたりまえのように頭皮に直接触れているシャンプータイムを、頭皮全体に血流を巡らせ、老廃物を流してあげる時間にするのです。
■頭頂部の帽状腱膜のこの部分が硬くなりやすい

顔のケアは熱心にしていても、頭皮は見えないので、ほったらかしにされがちです。
顔には表情筋があり簡単に動かせるため、新陳代謝も活発に行われますが、頭皮は自力では動けないので、血流が悪くなって老廃物がたまり、硬くなって、抜け毛や薄毛などのダメージを引き起こします。
だから、頭皮を動かすことは大事なのですが、動かし方を間違うと、頭皮が炎症を起こしてしまい、さらに硬くなります。頭皮の下にある帽状腱膜からまんべんなくやわらかくしてあげることが、健康な頭皮環境を守るためにたいせつなのです。
また、頭皮は、顔以上に汗や皮脂も多く、敏感なところです。頭皮を動かすときに、頭皮をこすってしまう人がいますが、髪の毛は、ガラス棒と同じくらいの硬さがあるので、髪の毛で頭皮をこすって傷つけてしまいかねません。
そのため、頭皮はゼログラムタッチで触れてあげて、こすらないよう密着してから動かし始めるのが基本です。そして、1、2、3と呼吸のリズムでリラックスしながら行うのが肝心です。ガシガシ力を入れなくても、やさしくもむだけで、頭皮は健康になります。
「OHBA式シャンプー」は全身の健康法になる
ゼログラムタッチにより、頭皮の環境をよくする「OHBA式シャンプー」は、どなたでも気軽に実践できます。
頭皮の環境をよくするシャンプー方法をマスターするということは、頭皮から全身の血流をよくする健康法を毎日365日実践していることにもなり、まさに一挙両得の方法と言えます。
ただ単に髪や頭皮の汚れを落とすのではなく、細胞分裂の活発な頭皮の細胞に触れることで、全身の血の巡りもよくなる、いわば「シャンプー健康法」なのです。
これまで、OHBA式シャンプーをご自宅で実践していただいたかたから「ぐっすり眠れるようになった」「手足の冷えがなくなった」「カゼをひきにくくなった」「かかとのガサガサがなくなった」などのうれしい声が寄せられています。
「シャンプーをすると毛が抜ける」と心配しているかたも、OHBA式シャンプーは、刺激も少なく、髪の栄養がしっかりと届くため、抜け毛は少なくなるはずです。
OHBA式シャンプーは、毎日、夜行うことをお勧めします。続けていると、薄くてペラペラだった頭皮が厚みを増し、髪もしっかりしてきます。ぜひ、ご自身の頭皮を慈しみながら、触れてみてください。
詳細な「OHBA式シャンプー」のやり方は続きの記事で紹介します。