解説者のプロフィール

奥中哲弥(おくなか・てつや)
●山王病院
東京都港区赤坂8-10-16
03-3402-3151(代表)
http://www.sannoclc.or.jp/hospital/
山王病院副院長・呼吸器センター長。
1958年、埼玉県生まれ。東京医科大学卒業後、東京医科大学呼吸器外科講師を経て、現職。
医学博士。国際医療福祉大学教授。東京医科大学第一外科客員教授。
専門は、肺ガンの外科治療、化学療法、レーザー治療。著書に、『たばこを吸っている人、吸っていた人が健康のためにできること』(エクスナレッジ)、『禁煙バトルロワイヤル』(集英社新書、共著)などがある。
別名「タバコ病」COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは

これまで、少し動いただけで息苦しくなったり、呼吸がしづらくなったりした経験はありませんか。
それを老化現象の一つと軽視しがちですが、原因はそれだけではありません。
肺年齢という、肺の健康状態を表す尺度がありますが、実は40代でも、肺年齢が80歳を超えている人もいるのです。
これほどまでに、肺を老化させる主な原因は、長年の喫煙習慣です。
今、世界じゅうで急増しているCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、慢性気管支炎や肺気腫でうまく呼吸ができない病気の総称で、別名「タバコ病」といわれています。
その名のとおり、喫煙が主因である恐ろしい病気です。
1日の喫煙本数×喫煙年数が400を超えると「危険」
タバコが原因というと、肺ガンを思い浮かべると思います。
ところが、COPDは肺ガン以上に、タバコとの因果関係がはっきりしているのです。
喫煙によって肺に炎症が起こると、肺で酸素と二酸化炭素の受け渡しを行っている肺胞が破壊されていきます。
肺胞は一度壊れると、再生できません。
長年の喫煙で、肺胞がどんどんつぶれ、肺の機能が低下していきます。
すると、だんだん息を吐くことができなくなり、真綿で首を絞められるような苦しさが常に続くのです。
息苦しさが長く続く不安に耐え切れず、うつになってしまう人も少なくありません。
症状がさらに進行すると、酸素吸入器が必要になるほど重症化します。
すると、5年生存率は50%を切るといわれているのです。
ただ、肺は「沈黙の臓器」といわれ、とても我慢強いのが特徴です。
このため、症状が悪化しないかぎり、なかなか自覚症状が現れません。
例えば、駅の階段を上ったときに息切れして、電車を乗り過ごすようなことがあれば、COPDの悪化を疑ったほうがいいでしょう。
また、COPDになると、カゼをひいてもいないのに、セキやタンが長く続くといったことが起こります。
肺ガンが発症する可能性を示す指標に、喫煙指数という数字があります。
1日の喫煙本数×喫煙年数で求められますが、これが400を超えると「危険」で、800を超えると「極めて危険」とされています。
COPDも、この指数が一つの目安になります。
心配なかたは、病院でスパイロメトリー(肺機能検査)という検査を受けてみてください。
この検査では、最初の1秒で吐き出した空気量と、吐き切った空気の全体量を算出します。
1秒で吐き出した空気の量を、「1秒量」といい、1秒量が全体量の70%未満の場合、肺の閉塞性障害があると診断されます。
そして、1秒量から肺年齢が推定できるのです。
肺年齢が高ければ、当然、COPDになる危険も高まります。
COPDのチェックリスト

COPDを予防したい人、すでに発症している人はの対策は「なによりも禁煙すること」
では、COPDを予防したい人、または、すでに発症している人は、どうしたらいいでしょうか。
まずは、なによりも禁煙することです。
禁煙は何歳から始めても遅すぎることはありません。
それでも、できれば、45歳までに禁煙することをお勧めします。
しかし、実際は、タバコが1箱1000円以上になったら考えるといった感じで、なかなか禁煙できないというかたが多いでしょう。
その場合、タバコの本数をできるだけへらすことが、次善策になります。
では、それすらできない場合、肺が老化するのを黙って受け入れなくてはならないのかというと、そうでもないのです。
喫煙していても肺の若さを保つ太田さん

喫煙をしていても、肺の若さを保っている人がいます。
それは、私が主治医を務めている、爆笑問題の太田光さんです。
太田さんは、自他ともに認めるヘビースモーカーです。
かつて、太田さんの肺の状態を検査したことがあります。
彼の場合、これまでの喫煙本数からすると、どこかに問題があるだろうと予想していました。
ところが、驚いたことに、太田さんの肺の状態は、喫煙しない人と同じくらい正常だったのです。
話を聞くと、太田さんは20年ほど前に、ライブ中に息が続かない酸欠状態になった経験があったそうです。
以来、腕立て伏せや背筋、腹筋のトレーニングを続けてきたのだといいます。
しかも、太田さんの場合、話すことが仕事ですから、どこで息を吸い、どこで息を吐くかということを常に意識しています。
このように、太田さんは、COPDの予防、改善のために欠かせない呼吸訓練を、自然としていたのです。
現在、太田さんは私の指導した呼吸器のトレーニングにも、熱心に取り組んでもらっています。
ただし、太田さんのケースは、特異な例だと考えてください。
声が出ないことが死活問題になる太田さんと普通の人を比べたら、その必死さが違います。
ですから、皆さんの場合、まずCOPDの主な原因であるタバコをやめること。
そのうえで、呼吸器のトレーニングをしたほうが、確実に効果が上がるといえるでしょう。
私がお勧めする簡単な呼吸法と肺の若返りストレッチを、下記に紹介しています。
COPDの予防や改善のため、ぜひ、それらを大いに活用してみてください。
COPDに効果的な呼吸法とストレッチ
COPD(慢性閉塞性肺疾患)を発症しているかたに、私がお勧めする呼吸法と、肺の若返りストレッチをご紹介します。
まず、「口すぼめ呼吸」のやり方をご説明します。
❶頭の中で「1、2」と数えながら、鼻から息を吸います。
❷次に、頭の中で「1、2、3、4」と数えながら、口を軽くすぼめて、息を吐き切ります。
吸うときの2~4倍の時間をかけて、息を吐いてください。
1回3分を目安に、1日に3~4回行いましょう。
口をすぼめると、息を吐き出しにくくなります。
こうすることで、肺の奥にたまっている、ふだんの呼吸では吐き切れない、淀んだ空気を吐き出す効果があるのです。
「口をすぼめてください」というと、ひょっとこのように口を突き出す人がいます。
そうではなく、口を軽く閉じて、横笛や草笛を吹くような感じでやってください。
「口すぼめ呼吸」

❶頭の中で「1、2」と数えながら、鼻から息を吸う。
❷次に、頭の中で「1、2、3、4」と数えながら、口を軽くすぼめて、息を吐き切りる。
※吸うときの2~4倍の時間をかけて、息を吐くこと。1回3分を目安に、1日に3~4回行う。
肩甲骨をよく動かすと理想的な呼吸ができる
次に「肺の若返りストレッチ」を二つご紹介します。
一つめは、「肩甲骨回し」です。
❶両腕を曲げ、左右の指先を両肩の前面に乗せ、胸を張ります。
❷両ひじで大きく円を描くつもりで、腕全体を前から後ろへ5回グルグル回します。
❸次に、後ろから前へ5回グルグル回します。
これを3度くり返します。
二つめは、「肩甲骨伸ばし呼吸」です。
❶目の前に、大木が立っているところをイメージします。
木の幹に腕を回して、大木を抱いているようなポーズをします。
❷大木を抱いている姿勢で、腕ごと前方に伸ばすと同時に、肩甲骨も伸ばします。
このとき、口から10秒くらいかけて息を吐き切ります。
❸息を吐き切ったところで、さらにもうひと息吐いてください。
❹①に戻り、大木を抱いている姿勢で、腕と上体を右にねじりながら、10秒で息を吐きます。
左も同様に行ってください。
肺の若返りストレッチ①「肩甲骨回し」

❶両腕を曲げ、左右の指先を両肩の前面に乗せ、胸を張る。
❷両ひじで大きく円を描くつもりで、腕全体を前から後ろへ5回グルグル回す。
❸後ろから前へ5回グルグル回す。
※②③を3度くり返す。
肺の若返りストレッチ②「肩甲骨伸ばし呼吸」

❶目の前に、大木が立っているところをイメージする。木の幹に腕を回して、大木を抱いているようなポーズをする。
❷大木を抱いている姿勢で、腕ごと前方に伸ばすと同時に、肩甲骨も伸ばす。このとき、口から10秒くらいかけて息を吐き切る。
❸息を吐き切ったところで、さらにもうひと息吐く。
❹①に戻り、大木を抱いている姿勢で、腕と上体を右にねじりながら、10秒で息を吐く。
※左も同様に行う。
どれも簡単なので、テレビを見ながらでもできます。
呼吸の際、横隔膜をしっかり上下に動かせば、その動きに連動して、肺の底面が5~10cm上下するといわれています。
肺がしっかり伸縮すると、空気もじゅうぶんに出し入れでき、理想的な呼吸になるのです。
実際、COPDの患者さんは、横隔膜をよく動かせていないかたが多いのです。
その原因は胸郭(胸部の骨格)の硬さにあります。
胸郭が硬いと、うまく横隔膜を動かせず、正しい腹式呼吸ができないのです。
この胸郭の硬さを解消するのに役立つのが、胸周りの筋肉をよく動かすことです。
それには、肩甲骨をよく動かすのが効果的です。
それが、胸郭の硬さの改善につながります。
今回、ご紹介した呼吸法とストレッチは、今のところ、COPDは発症していないものの、その予備軍というかたにもお勧めです。
また、過去に喫煙していて、呼吸が浅いかたや苦しいかたも、このストレッチを根気よくくり返してみてください。
COPDの予防や抑制に、きっと役立つことでしょう。