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口中の菌は一晩で8倍!時間が取れなくても「歯磨き」をするべき理由

口中の菌は一晩で8倍!時間が取れなくても「歯磨き」をするべき理由

高齢者が肺炎で亡くなるというのは、皆さんにとっても、非常に身近で切実な出来事といえるでしょう。だからこそ、私たちは肺炎を防ぐ配慮を怠ってはならないのです。肺炎のうちで高齢者に多く見られるのが誤嚥性肺炎です。頻繁に誤嚥が起こっているのは、夜間の睡眠中です。【解説】奥田克爾(東京歯科大学名誉教授・千葉県立保健医療大学講師)

解説者のプロフィール

奥田克爾(おくだ・かつじ)
東京歯科大学名誉教授。千葉県立保健医療大学講師。
富山県生まれ。東京歯科大学卒業。東京歯科大学微生物学講座教授、東京歯科大学名誉教授、平成帝京大学薬学部教授、千葉県立保健医療大学講師を歴任。1993年厚生労働省長寿科学総合研究事業に参画。公益財団法人野口英世記念会理事,歯周病学会,国際歯科研究会日本部会などの6学会の名誉会員。著書に『史上最大の暗殺軍団デンタルプラーク』(医歯薬出版)など。

睡眠中の唾液の誤嚥のほうが食べ物より多い

我が国の死亡原因を上から順に挙げると、1位ガン、2位心疾患、そして第3位にランクされるのが、肺炎です。
1日に300人もの人が肺炎で亡くなっています。

この肺炎による死亡の92%が、65歳以上の高齢者です。
高齢者が肺炎で亡くなるというのは、皆さんにとっても、非常に身近で切実な出来事といえるでしょう。

だからこそ、私たちは肺炎を防ぐ配慮を怠ってはならないのです。
しかも、この高齢者の肺炎が、歯周病と深い関係があることをご存じでしょうか。

実は、歯周病があったり、よく歯磨きを行わずに口の中を不潔にしたりしていると、肺炎の起こる危険性が高まるのです。
その理由を説明しましょう。

肺炎のうちで、高齢者に多く見られるのが誤嚥性肺炎です。
誤嚥は、食事中に食べ物を誤って飲み込んでしまい、それをきっかけに起こると考えている人が多いと思います。

しかし、もっと頻繁に誤嚥が起こっているのは、夜間の睡眠中です。
年を取ると、食物を食道にスムーズに送り込む嚥下反射や、異物が気道に入るのを防ぐ咳反射の機能が低下。

睡眠中に唾液がのどに垂れてきたとき、うまく吐き出すことができません。
その影響で、唾液が気管支や肺へ流れ込みますが、この唾液の中に歯周病の細菌が大量に含まれています。

その結果、これらの菌によって誤嚥性肺炎が引き起こされるのです。
いつも清潔にしている口の中でも、100億を超える細菌がすみついています。

歯周病などがあると、細菌数は1千億から数千億に達します。
さらに、介護の必要な高齢者の口の中では、約1兆個にもなってしまうのです。

膨大にふえた細菌が、唾液とともに肺や気管支に流れ込んでくるのですから、たまりません。
口の中の清潔さの度合いが下がるにしたがって、誤嚥性肺炎を発症する確率が高まることは、研究によっても明らかにされています。

例えば、高齢の胃ろうの患者さんに誤嚥性肺炎が多く見られます。
胃ろうとは、口から食事をとれない人などが、おなかに小さな口を造り、直接、胃に栄養を注入する方法のことです。

胃ろうを使っていると、口の中のケアが、しばしばおざなりになるケースが少なくありません。
このため、口の中の細菌数が増加し、それがひいては、誤嚥性肺炎による死につながっていると考えられます。

ですから、誤嚥性肺炎を防ぐためには、口の中のケアをきちんと行い、口の中を清潔にして、歯周病などを引き起こしてしまう細菌数をできるだけへらす必要があります。

口の中の菌は睡眠中に4~8倍にふえる!

では、そのために、どうすればよいでしょうか。
残念ながら、歯周病を引き起こす口の中の細菌は、ただ、口をゆすぐ程度では取ることができません。

口の中の細菌は、複数の種類の細菌が集まり、「バイオフィルム」という細菌の集合体を形成し、歯や歯茎にくっついています。
うがいなどでは容易に取れないのです。

この細菌の集団を取り除くには、歯ブラシ、歯間ブラシなどを使って、しっかりとブラッシングすることが欠かせません。
歯周病などの細菌群は、歯や歯茎、舌などにヌルヌルの物質を作ってへばりついていますから、それを文字どおり歯ブラシで物理的にはがし、こそぎ落とす必要があるのです。

この点では、効率的に歯磨きができる電動歯ブラシも勧められるでしょう。
できれば、毎食後、歯磨きをするのが理想です。

しかし、そんなに時間が取れない人の場合、特にやってほしいのが、寝る前の歯磨きです。
というのも、口の中の細菌は、放置しておけば、その分、時間経過とともに数がふえていくからです。

一晩のうちに、細菌数は4~8倍にふえるとされています。
つまり、寝る前に歯磨きをせず寝てしまい、明け方に誤嚥が起こった場合、寝る前よりも4~8倍も多い細菌の含まれた唾液が、気管支や肺に流れ込んでしまう危険性があるのです。

口の中のケアをしっかり行うと、誤嚥性肺炎の予防につながることが、臨床的な研究によっても確認されています。
私たちの研究グループも、次のような研究を行いました。

介護の現場では、原因不明の発熱や肺炎が問題になっています。
そこで、自分では歯磨きができない要介護の高齢者40人に対し、歯科衛生士が毎週1回、口の中のケアを行いました。

すると、ケアを行わなかった48人に比べて、2年間の発熱回数が明らかにへり、肺炎による死亡率もへりました。
誤嚥性肺炎になると、命を落とさずに済んだ場合でも、病後の日常生活動作が低下し、できないことが多くなります。

つまり、高齢者の生活の質を大きく低下させてしまうのです。
また、歯周病を引き起こしている細菌群は、インフルエンザや糖尿病など、多くの病気とも深い関連性を持っていることがわかってきています。

誤嚥性肺炎やほかの多くの病気の予防には、歯周病の予防・改善が不可欠といっていいでしょう。
元気で長生きのためにも、歯磨きは大事なのです。

この記事のエディター

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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