解説者のプロフィール

渡邉真弓
医学博士・鍼灸マッサージ師。
東京医療専門学校にて、鍼灸マッサージ師・教員資格を取得。2011年、新潟大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了。
深部体温が上昇し白血球数もふえた!
インフルエンザの発症・重症化を防ぐのは、体に備わる免疫力です。
今からでも遅くはありません。
積極的に免疫力の強化に努め、インフルエンザのシーズンを、元気に乗り切っていきましょう。
その有効な知恵の一つが、皆さんもご存じの乾布摩擦です。
一説によると、日本で乾布摩擦が普及したのは、太平洋戦争開始前後(1940年ごろ)とのこと。
初めは、結核予防の切り札として、当時の小学校を中心として、一気に国内に広がったようです。
同時に、カゼやインフルエンザの予防にも役立つことから、結核がほぼ撲滅されて半世紀以上がたった現在も、幼稚園や保育園、防衛省の幹部学校の一部では、日課として乾布摩擦が行われているそうです。
ところが現代人の多くは、そのすばらしい知恵を忘れて、カゼやインフルエンザに毎年苦しんでいます。
私は、それが実にもったいないことだと考えるのです。
今一度、中高年ならだれもが知っている乾布摩擦の健康効果を、医学的根拠とともに示せれば、国民の健康に対する自己管理意識を高めるきっかけになるはずです。
そこで、私が取り組んだのが、次のような研究です。
健康成人12名に、8日間にわたり、木綿の日本手ぬぐいを用いて毎日5分間、体幹部(体の前後面の中心線上)を中心に乾布摩擦を続けてもらいました。
初日と最終日(8日め)の実施前後に、血液(静脈血)、脈拍、体温を測定し、乾布摩擦が生体に及ぼす影響を調べたのです。
各測定値を比較・検討した結果、乾布摩擦後に確認された変化は、次のようなものでした。
・血液(静脈血)中の酸素分圧(酸素量)が上昇する
・脈拍数が上昇する
・血糖値が下がる(最終回のみ)
・深部体温が上昇する
・白血球数、リンパ球数がわずかに増加する(最終回のみ)
以上の結果から考えられるのは、乾布摩擦は軽い有酸素運動に相当するのではないか、ということです。
有酸素運動を行うと、脈拍数と血液中の酸素分圧が上昇します。
さらに、筋肉を動かすことによってエネルギーの消費量も高まり、最終的には血糖値が低下します。
乾布摩擦でも、これらと同様の反応が起こったと推測されます。

肌が赤みを帯びるまで優しくこすろう!
一方で、私たちの血流は、自律神経によって、調整されています。
自律神経とは、体全体の諸機能を支配している神経のことです。
乾布摩擦の後に深部体温が上昇したのは、血流が改善した結果でしょう。
よって、乾布摩擦が、自律神経に影響を及ぼしていると考えられます。
また、免疫をつかさどる白血球も、自律神経に支配されています。
この実験では、最終日に、白血球総数とリンパ球数の上昇傾向が認められました。
これは、長期的な乾布摩擦の実施が、免疫力の強化につながる可能性を示唆しています。
8日めの乾布摩擦の実施後は、白血球数とともに血糖値、さらには脈拍、体温においても初日を上回る変化がありました。
乾布摩擦を毎日くり返すことで、刺激に対する体の反応力が高まり、効果も発揮されやすくなったのでしょう。
ちなみに、この研究で体幹部を刺激部位としたのは、体幹部には大きな筋肉があり、その下にある脊椎・脊髄の中の血流量も豊富なためです。
つまり、短期間で効率よく効果を引き出せるポイントとして、体幹部に注目したのです。
そして、体幹部を重点的に刺激したことで、明らかになったのが、自律神経の調整効果かもしれません。
というのも、実験最終日には皆さん、顔を含む全身の肌がツヤツヤし、血色がよくなっていました。
血流がよくなれば、肌もきれいになります。
その効果が刺激した部位以外の全身に及んでいるのは、まさしく自律神経を介して血流が促進された結果でしょう。
全身に乾布摩擦をするのはめんどうですが、体幹部だけなら、着替えのついでに、簡単に行えます。
肌がほんのりと赤みを帯びるまで、優しくこすればじゅうぶんです。
毎日、体幹部だけでも乾布摩擦をすれば、知らず知らずのうちに、免疫力も向上していくでしょう。
しだいに、カゼやインフルエンザにかかりにくくなった自分に気づくはずです。

乾布摩擦を日課にして免疫力を上げよう!